第135話「ッッ!!!!」





 第百三十五話『ッッ!!!!』





 マスターの眷属適性は契約後に判明する。そして、マスターが滅びるまで適性は変わらず、コアはマスターの眷属適性によって魔素溜まり等の養殖召喚対象が固定される。


 上級竜は竜種しか眷属にしない。これは遊戯の装置であるコアも知っている常識、大物マスターを得た代償と言うべきか、いささかハンデが重過ぎる。


 コアには「元気出せよ」と言う他ない。



『思ってもいない事を……』



 ……ヒュ~、俺の心はMIE・MIEだったようだぜ。


 とまぁこれが、コアの期待と思惑が魔竜によって外された理由。


 カスガの推測によると、当初、魔竜はコアが勧める獣系養殖創造召喚を断り、魔素溜まりによる基本創造召喚体五種の自動的な創造召喚も許してはいない。


 コアに許されたのはダンジョンの拡張と魔竜の強化のみ。カスガは地竜が魔竜となってからの二百年間をヴェーダから学んだ後、そう結論付ける。


 そして、当時の魔竜が最近まで置かれていた状況を『コアのDP払底ふっていと眷属適性の弊害』による戦力不足状態であると仮定し、カスガはその仮定を全ての推測に当て嵌める前提とした。



 勇者との死闘から百五十年後、魔竜は中部まで侵入した王国軍に向かって咆哮を上げるだけに留め、その十年後に起こった浅部魔族対王国軍の戦いでは咆哮すら上げず、そのまた十年後に起きた冒険者パーティー中部突破事件でも同様に、隠遁と沈黙を守っている。


 カスガはこの不可解な魔竜の姿勢に対する理由を、前述の前提を基に『天然・養殖問わず、魔竜に竜種の配下は居ない。他種の養殖も居ない、もしくは少ない』から、つまり、ダンジョン外へ満足に派遣出来る配下が居らず、何らかのアクションを起こせる状況ではなかったからだと考えた。


 カスガがそう考えた理由として、上級竜の『プライドの高さ』が挙げられる。


 自分の縄張りに足を踏み入れ、好き勝手に荒らして回る“よそ者”に、何の対処もしない上級竜が居る可能性は限りなく低いからだ。


 そのプライドの高さを考えると……


 大森林に住む者は魔竜にしてみれば弱者なわけだから、それを倒してレベル上げってのもしてないな。


 やっぱ眷属に狩らせてカルマを一割徴収が正解っぽい。



『そうですね、女王もそう申しておりました』



 だろうな、クソ勃起ゴリラですら考え付くからなっ!!



 続けましょう。

 地竜が大森林の魔窟に入ったのが二百五十年前、コアと契約したのが二百年前。コアは契約するまでの五十年間で地竜の生気を大量に徴収し、さらに十万を超える王国軍の生気を三回、異世界人勇者の生気を一回吸収している。


 余談だが、生きた者からは『生気徴収』、死体や殺害する者からは『生気吸収』と呼び方を変えて区別している。


 その総徴収・吸収生気量は、地竜が魔竜に進化して生気徴収対象から外れた為、コアの生気徴収量が大きく減った。


 地竜からコアが徴収していた生気量は、地竜との契約後にダンジョンへ侵入して来た極少数の魔性生物から吸収・徴収した二百年分の生気量を大きく上回っていたようだ。


 これもコアにとっては痛い『損害』と言っていいだろう。


 ただでさえ人類が侵入出来ない区域に設置された魔竜のダンジョン、冒険者等からの生気獲得は難しい。ドンマイ!!


 その上、魔竜の存在感による威圧は相当なモノ、野生の魔性生物や深部魔族がダンジョンに入って来ない。客の来ないテーマパークは火の車だ。


 生気を獲得出来ない状況が百年以上も続けば、コアが貯め込んだDPも増加する事無く『ダンジョン維持費』として毎日減り続け、やがてダンジョン運営に支障をきたすレベルに達する。


 そして、王国軍が大森林に攻め入って来た五十一年前、魔竜は何も出来ずにダンジョンの入り口から咆哮を上げる事しか出来なかった。


 勇者戦後の百五十年に亘る沈黙を破った咆哮、それは魔竜がダンジョンマスターとなって初めて自分が置かれている状況を認識した『焦り』の絶叫だったのではないか?


 人類が近付けないというダンジョンの立地条件故に、何事も無く百五十年も平穏に暮らししていた魔竜による『悪あがき・苛立ち』的な叫び、カスガはそう考えた。


 大森林に王国軍が攻め込んで来たのに魔竜はダンジョンから一歩も出られない、戦地へ差し向ける配下の竜種も居ない、DPも無いので有効的かつ最適な手段を模索する事も出来ない。


 しかも、かつて勇者に三途の川を見せられている魔竜としては、王国軍に勇者が居ないとも限らない状況で何も出来ないというのは、さすがに焦り苛立つだろう。


 致命傷を負わされた体験は、魔竜にとってトラウマになっていたかもしれない。


 そう考えると、以降の『人間にビビってんの?』と思えてしまうほどの隠遁や、中部魔族に対する『肉壁』としての扱いにも頷ける。


 DPも無い、眷属や配下も居ない、人類の強者に対する牽制として頼れるのは中部や深部の肉壁のみ、というワケだ。


 しかし、かつて上級竜であった魔竜にとって浅部魔族は壁役ですらない。


 浅部魔族に与えられた役割は大森林に於いての『鳴子』だ。大森林に異変が起これば、人類が最初に侵入する事になるであろう浅部の魔族は騒ぐ。辺境伯が戦奴に対して与えた役と変わらない。


 魔竜は何らかの手段を用いて大森林の状況を察知しているようだが、五十一年前の当時も現在も、魔竜が大森林の状況を知る際にタイムラグが発生している。行動が数テンポ遅い。


 魔竜の咆哮と王国軍の侵入した日数からすると、五十一年前は浅部の鳴子達によって異変を察知したようであるが、俺達が魔竜眷属を倒した日から手紙を持った眷属が現れた日数は少ない事からして、情報収集能力とそれの伝達手段は進化を遂げたようだ。


 この情報収集手段について、カスガは何となくその仕掛けに気付いているようだが、話が横道に逸れるので今は置いておく。



 以上、咆哮から現在に至るまでに魔竜がとった隠遁生活の理由として、カスガはDP払底による戦力不足を挙げた。


 そして、頑固な上に使えない主を持ってしまったコアがとる次の行動をカスガは推測する。


 コアがとる行動に関して俺が思い付いた事と言えば、五十年前からの不自然な深部魔性生物数の推移から安易に『魔性生物の家畜化によるDPの効率的な稼ぎ』を魔竜に進言、もしくは密かに実行するのでは?


 と、すぐ頭に浮かんだのだが……


 カスガは違った。



『女王は思慮深いですから』



 ッッ!!!!




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