第133話「オイル漏れだけは、絶対に治らない」
第百三十三話『オイル漏れだけは、絶対に治らない』
カスガが嵌めていったパズルを完成させる最後のピースは、『死霊召喚』に関する絵柄の汚らしいピースだった。
その汚れた絵柄の隅に描かれているのは、アンデッドと化したハイゴブリン。
はて、いったいコレはどこの腐れゴブリンなのか……
『名探偵ナオちゃん』の異名を持つ俺の推理からすると、メチャと言う名の侍女ゴブリンに絞め殺されたアホである確率が高い。
これは、難解な事件のニオイがする、が……
この腐れゴブリンの正体は……
恐らく、いや確実に、俺と同じ世界に生きた記憶を持つ転生者。『ゴリラ』の名を知るハイゴブリンの男、チョーだっ!!
ふぅ、迷宮入り一歩手前で謎が解けたぜ。
『おめでとう御座います』
……うん。
おかしいな、さっきまで温かかったヴェーダの声が冷めている。
ノリが良いと思っていたのは勘違いだったようだな……
まぁいいけどねっ!!
俺の頭脳がキレている事を証明出来たので、俺の名推理による“手助け”はここまでだ。
ちなみに、俺はこの事件解決に何も協力していない。事件の調査と解明は優秀な三名の助手がやった、反省はしている。
よし、反省はここまでだ。深い反省だった。
名探偵は過去の失態に畏縮せず、反省した感じの雰囲気だけを纏って事件簿を見つめる。これも『好い男の条件』に追加しておく。
では改めて、死霊召喚に関する調査報告を確認しよう。
俺が岩から飛び出してミギカラ達と出会い、彼らや妖蜂族と共に集落を拡大してしばらく経った頃、チョーは現れた。
ヤツは俺に捕まり、翌日メチャに絞め殺されたが、すぐに死体は消えた。それは何者かの死霊召喚魔術による『死霊従属契約』をチョーの魂が承諾した結果だとすぐに分かった。
死霊召喚は遠距離から行える魔術だが、もちろん有効射程距離に限度はある。ヴェーダの統計によれば、平均して約7km。
過去に一人だけ、約300km圏内の死体や死霊を召喚出来たバケモノ異世界人が居たが、三百年以上前に同郷の異世界人によって討たれている。
この大陸中部で生存中の死霊術師による遠距離死霊召喚最高記録は、約13kmほどらしい。
と言っても、レコードホルダーの情報は今現在ヴェーダの知識に記載されてある限定的な暫定情報だ。まぁ、ヴェーダによる監視は続いているので問題は無い。
ヴェーダは俺が妖蜂と妖蟻から蟲を譲り受けて以来、メハデヒ王国北部から中部に住む人類や囚われた魔族を全て調査していたが、レコードホルダー以上に優れた死霊術師は居ない事を確認している。現状ではもっとも信用出来る情報です。
そんな死霊術であるが、これは高等なスキルである為……あのクソゲー設定による弊害で、たとえ師匠が居たとしても魔族に修得は難しい。
この点を考慮して、ヴェーダは人類が『チョー泥棒』の犯人である確率が高いと判断。先に王国北部を調査し、大森林中部以北の調査を後回しにしていた。
王国北部に居た死霊術師達の死霊術熟練度は低く、1km圏内を召喚術対象に収めるのが精一杯との事。40km圏内を射程に収めるなど不可能。
40kmというのは、マハーカダンバから南浅部南端までの直線距離。長城は更に20km先にある。これで、長城外の死霊術師がチョーを召喚する場合は、南浅部に足を踏み入れる必要があるという事が分かった。
チョーの死体が消えた時、まだ俺に蟲は贈られていなかったので、蟲によるヴェーダの索敵や哨戒活動は行われていない。
しかし、のちに譲り受けた蟲達の記憶を調べたヴェーダは、チョーが消えた当日、長城に常駐する兵士は蟲達が常に監視しているので数に入れないが、チョーの死体から半径約200km圏内に人類や大森林生まれではない魔族は居なかった事を確認した。
勿論、アカギやカスガは既に知っていた情報だが、ヴェーダは敢えて再確認した。
そのヴェーダの再確認によって、死霊召喚術師は長城外の人物ではなく、大森林の北側に居る者である疑いが強くなった、と言うより、ほぼ確定する。
大森林浅部の東端から西端までの距離は最大幅が約400km、浅部の東西を塞ぐクララ山脈とハイジ山脈の先端部分の幅を足せば860kmもある。
山脈の先端と言っても、山脈の終着点は長城のもっと先、浅部を挟む山脈の標高は低いが6,000m以上、教国やスーレイヤ王国から魔族や人類が山脈を越えて来る事も無い。
ヴェーダの調査対象であった王国北部全域は問題外。マハーカダンバから王国北部南端までの距離が460km、東西の端は更に遠い。
300kmを召喚範囲に出来たバケモノでも、到底、大森林外から死霊召喚を行える距離ではない。
前述の通り、遠距離召喚が出来る死霊術師の在否は確認済み。遠距離でも近距離でも、王国北部に遠距離死霊召喚を行える術者は居ない。
残るは大森林の北側。
マハーカダンバから深部の最奥までの距離は360km、中部東側から西側の最大幅は380km、南北100km。深部の東側から西側の最大幅は300km、南北200km。
ヴェーダは蟲を使って調査を開始。
大森林に潜むと思われる死霊術師を探して回った。
しかし、死霊術師どころか闇魔法を取得している者さえ居なかった。ヴェーダは捜査を一旦打ち切る事にする。
この時、魔竜がダンジョンマスターである事をヴェーダも俺達も知らない。
捜査打ち切りから間も無く、魔竜の眷属が現れた事によって、地竜がダンジョンマスターである事が発覚。
この後は今まで俺が解説した通り。激高してメンタル崩壊待った無しの俺に変わって、三人の女傑が協力して魔竜対策に乗り出す。
そして、魔竜の謎に王手を掛けたカスガがヴェーダに問うた。
「姉上様、コアを使って眷属に死霊術を取得させる事は可能ですかな? 獣人の眷属を持つ魔竜ならば、すでに上級竜としての
『十分に有り得る』。ヴェーダはそう答えた。
ヴェーダの知識から外れた上級竜の行動、魔竜が創造召喚によって獣系魔族を眷属としていた事実は既に彼女の知識へ加えられていた。コアの能力で眷属に闇魔法を取得させる事が出来る事も分かっていた。
しかし、初めから眷属として創造出来る養殖ならまだしも、外部の、それも最下級の魔族であるゴブリンのアンデッドという穢れた存在を、自らの配下とする上級竜の存在など、ヴェーダの知識には無い。
無論、可能性としては考えていた、だが、ヴェーダは自分の推測や知恵よりもアートマン様から得た情報を優先し、それを基に行動した。
その結果、カスガという思慮深い女性から自分が考えていた可能性と同様の事を指摘されるまで、ヴェーダは死霊召喚術師の特定一歩手前で捜査を中断せざるを得なかった。実に惜しい。
彼女は膨大な知識の泉から、色や味の違う水を俺達に必要な量だけ汲み上げて飲ませてくれるが、時には自分の裁量で泉の水を混ぜ合わせ『知恵』として俺達に飲ませてくれる。
しかし、今回の死霊術師捜索は自発的なものだった為だろうか、彼女自身は知恵の水を飲まず、母たる主神の知識に沿って行動を決めたようだ。
『申し訳御座いません、ロボットみたいですね。お赦し下さい』
そそそそんな事言ってない、一言も言ってない。
むしろロボ系とか好きですが? 勃起しちゃうよ?
ヴェーダ・ガンダラ初号機とかになってくれるの?
俺の操縦は荒いかも知れんが、俺以外を乗せるなよ?
そして、俺の
『では、左に傾き気味の操縦桿と緩い発射スイッチの修理、それから、頻発する自動誤射とオイル漏れの改善をお願いします』
ハッハッハ…… 厳しいな。
修理も改善も無理っぽい。
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