第132話「貴様……」
第百三十二話『貴様……』
さぁ、カスガの推測を並べて行こうかっ!!
ひと先ずカスガは、魔竜眷属の殺害とハーピーの避難から現在まで『掘削の様子無し』と仮定した。
つまり『攻めて来ない』。何故だろうか?
カスガはヴェーダから教わった歴史にその理由を求めた。
すると、面白い事が分かった。
魔竜は五十一年前の咆哮から一貫して『敵対勢力』を襲っていない。
初めに現在の俺達、魔竜の眷属を殺し大事なパシリのハーピーを奪ったが、お咎め無し。
次に三十年前の高ランク冒険者パーティー中部到達事件。この時は深部の南端まで侵入され、散々暴れ回られたようだが、この時は吠えもしなかった。
三つめは大事件、四十一年前の王国軍による浅部侵攻。この十年前に多くの将兵を失った王国が『機は熟した』と兵を起こし、浅部を蹂躙、妖蟻皇帝カガと妖蜂第一王子ムネシゲが戦死した戦いだ。
中部や深部の援軍さえあれば、死なずに済んだ魔族が多過ぎるこの大きな戦いでも、魔竜は姿を現していない。この時は吠えてすらいない。
そもそも、魔竜が中部魔族の浅部救援に『待った』を掛けたフシさえ有る。
五十一年前の戦いでは妖蜘蛛アルケニーや北都猪人、そして移動出来ない妖樹ドリアード達までピクシーの保護や魔術での援護をしていたのに、四十一年前の戦いではアルケニー達が中部と浅部の境に『アロンダ糸』でバリケードを造り、浅部魔族と王国軍のどちらも中部への侵入を許さない姿勢を見せている。
侠客揃いの北都猪人が、格下である浅部魔族の奮闘に目もくれず、森を人間に荒らされても傍観。
有り得ない。
ドリアードは仲の良いピクシー達を保護せず見捨てている。仁義を欠くのは大森林魔族の恥、それを否定して恥を呑み込ませる事が出来るのは、絶対王者による命令しか無い。
この戦いの詳細を聞いたカスガは、魔竜が『頑丈な肉壁』たる中部魔族を減らされる事に対して、過剰な恐れを抱いているのではないかと感じた。アカギもヴェーダもそれに同意。俺もそう思う。
以上の三つ、五十一年前を合わせれば四つ、いずれも魔竜は傍観者だ。
この四つの事例と、魔竜眷属八名の実力と人数、そして最後のスパイス『チョーの死霊召喚』に関するヴェーダの調査報告で、カスガの推測はまた補強される。
ヴェーダ達は三人で魔竜対策を練りながら、それぞれの得意分野を担当しつつ北伐に向けての準備をしていたのだが、カスガは対策会議が始まってすぐにヴェーダが留意しておけと言った『チョーの死霊召喚』が気になって仕方なかった。
何故なら、カスガの考える『魔竜が攻めて来ない理由』に対しての推測と、『魔竜は力が無い』という二つの推測に、魔竜の配下や眷属に『アンデッド』が居るという条件が加わると、更なる推測の補強になるからだ。
カスガは考えた。魔竜とコアの可能性を探った。
そして、ある一つの可能性をヴェーダに問うた。
ヴェーダは『十分に有り得る』と答えた。
カスガの話を聞いたヴェーダは、早速調査に乗り出す。この調査には妖蟻皇帝アカギが提供した大量の蟻達が大活躍したようだ。
調査開始から二時間、あっと言う間に答えが出た。
ヴェーダはカスガとアカギに告げる。
曰く『埋葬された遺体は消えています』。
それを聞いたカスガは隣に立つ最愛の妹に言った。
「勝ったな」
俺も一度は言ってみたいセリフだ。
カスガは何者かとの勝負に『勝った』らしい。
少なくとも彼女の脳内に在る将棋盤では、彼女が――いや、彼女達が勝った。
アカギが地下帝国の護りを固め、ヴェーダとカスガに落ち着いて思考する時間と環境を提供し、ヴェーダが蟻と蜂を使って自分の知識と共にカスガとアカギへ情報を与えた。
ヴェーダが最後に与えた情報は、魔竜関連の謎に
深部の最奥に潜みながら大森林を覗きつつ、暗躍と防諜でその実態を隠し続けて来た魔竜は、こうして、謎と言う名の闇に身を包んだその体を丸裸にされたわけだ。
たとえそれがカスガの脳内に在る盤上での出来事であったとしても、彼女の差しスジと勝負の展開を特等席で観させてもらった身としては、「お見事、勝負あり」と言わざるを得ない。
俺の知らない所で、彼女達は必死に戦っていた。
そして勝った。良い意味で呆れてしまう。
今回の件は、高性能な軍事衛星を有する難攻不落の要塞から、電子戦による支援活動と遠距離狙撃用ライフルで援護してもらった感じだろうか?
果たして、銃後の護りとはいったい何だったのか、ヴェダペディアで小一時間ほど調べ直したい。
情報戦や心理戦といった根気の要る戦いは、アホで短気な俺には難しい。向かないと言っていいだろう。彼女達はその辺りも分かっていたようだ、お恥ずかしい限りです。
さて、そろそろカスガの打った最後の一手と謎の全容を解説しよう。
『次は死霊召喚に関する調査と見解ですね』
……おうっ!!
ありがとう!!
『お気になさらず。良妻の務めですから』
な、なるほどなー。
なんだろう、ヴェーダがグイグイ来るなぁ……
良妻って……俺は結婚していたのか?
って事は、ヴェーダと……
『……えっち』
すまんな、息子がウェイクアップしてしまった。
「むむむ、どうしたナオキ、寝るまで待てぬか?」
「あらあらまぁまぁ、元気ねぇ……うふふ」
「ハッハッハ……違うんだ」
さっきからヴェーダが体内からイタズラし始めたなのだ。
こ、これは新しい体験なのだ。
す、スッゴイなのだ。
バクハツしてしまうなのだ。
『良妻ですから』
意味が分からんなのだっ!!
良妻は会議中にイタズラしないのだっ!!
『でも、止めて欲しくはないでしょう?』
当然なのだ。
『はいお終い。真面目にやりましょう』
ヒドイなのだ……
おまえは鬼かなのだ……
『ウフフフ』
『『……ほのぼの、
『『……恨めしや、代われヴェーダ』』
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