第131話「ッッ!! いつの間にっ!?」





 第百三十一話『ッッ!! いつの間にっ!?』





 え~っと、何だっけ……



『カスガ女王の推理をナオキさんが纏める、ですね』



 おう!!そうだった、サンキュウ相棒!!



『好いお嫁さんはアシストが得意なのです』



 お?おうっ!!

 好い相棒の条件かな?


 まぁいいや、先ず現在。

 ガンダーラは魔竜対策として、地上と地下に広範囲の任意型魔法障壁と常時発動型簡易結界が設置されている。


 地上は主に中部魔族対策、地下は魔竜の『ダンジョン化』や『ダンジョン創造』での奇襲対策。


 俺やミギカラ等の幹部連中は、この地下に対する攻撃を特に警戒しているわけだが、アカギだけは例外的に落ち着いた様子だった、妖蟻族全体が例外だったと言ってもいい。カスガや妖蜂族も他の眷属達より余裕を持っていた。


 魔族・人間・獣人の三種族の中で、『種族全体の平均』という前提で見た場合、五感が最も鋭い種族は獣人だ。視力・聴覚・嗅覚の三つはダントツ、味覚も人間の三倍は鋭く、獣人の体毛は一本一本が疑似的な触角となっており、触覚も鋭い。


 獣人の次に五感が鋭いのは魔族、最後に人間。感覚の数は五つ以上有るが、とりあえず代表的な五感を挙げた。無論、意味も無く五感の話をしたわけではない。


 三種族の中では獣人が最も優れた五感の持ち主となるが、分類学的にもう一段細かく三種族を分類して見た場合となると、獣人の中に五感のトップとなる種族は居ない。


 では、どの種族が最も五感に優れているのか?


 答えは『蟲系魔族』だ。

 複眼・触角・翅・繊毛・気門……等々、体外体内問わず、物理的・化学的・魔法的刺激を受け取る感覚器、いわゆる『受容器』が多彩、それが蟲系魔族。


 ガンダーラにはそんな蟲系魔族が二種と特例一種が存在する。

 今更だが、妖蜂族と妖蟻族の事だ。特例としてピクシー。


 そのガンダーラに居る蟲系魔族の片方を率いるのが妖蟻皇帝アカギだが、彼女は魔竜の地下帝国急襲をそれほど警戒していない。


 その理由は、地下に住む妖蟻族の優れた感覚器が『掘削』の音と振動を一切感知していないからだ。


 ダンジョンマスターが有する『ダンジョン創造』という能力は、コアに貯めたDPを消費してダンジョンを創造するモノだが、コアの説明時に述べた通り、ダンジョン創造で作った通路や部屋は全て異空間で固定される。


 つまり、どれだけ『ダンジョン創造』で地下帝国方面にダンジョンを伸ばしても、『開通』はしない。


 実際には異空間を広げているだけなので、地下帝国に向けてダンジョンが伸びているわけではない。


 開通させるには、ダンジョン入り口の非異空間スペースや、ダンジョンとは無関係の場所から普通に地下道を掘って地下帝国の壁をブチ抜く必要が有る。


 安全や効率化を図って掘削途中で『ダンジョン化』していっても意味は無い。


 異空間化すると非異空間の穴が掘れないので、異空間化を解除して地道に掘り進めるしかない。


 地下帝国をダンジョンに取り込むには、非異空間で開通させたのちに地下帝国全体を『ダンジョン化』しなければならない。


 即ち、魔竜が地下から地下帝国に近付こうとすると、絶対に掘削の音と振動は発生する。


 だが、妖蟻族は音も振動も感知していない。


 地下生活のプロフェッショナルである彼女達は、大森林を走り回る俺達の足音と振動を地下1,500mの場所から感知出来るほど感覚が鋭い。


 そんな彼女達の感覚を誤魔化しながら穴を掘り進めるとなれば、様々な準備が必要となる。


 スキルや魔道具等で土砂や岩盤を軟化させるなどの防音・防振、無音化、無振動化等々……


 他にもまだまだ有るが、これらの処置がとれるスキルをDP使用で眷属達に獲得させる、またはDPで魔道具を購入、あるいは眷属に製作させて、全て用意出来たとしても、蟲系魔族を誤魔化しきるには最後の難関を越えなければならない。


 先ず、魔力の乗った超音波の反射と通過による探査。物体や魔力に反応するので、掘削人員や魔道具、スキルの魔力も全て感知出来る。


 次に、不可視光線の視認と熱感知。低温の地下で魔力混じりの赤外線放出は命取り。対象の前に遮蔽物が在っても、蟲系魔族の目には物体が放出する魔力や赤外線が視えている。


 遮蔽物が在る場合は目に魔力を宿してサーモグラフィーのように視覚情報を得る。


 この二つは、言ってみれば『力を使うとバレる』仕組みだ。スキルも魔道具も魔力や精気といったエネルギーを必ず使う、音や振動を遮断すれば常時エネルギーを放出するので、『見付けてくれ』と言っているに等しい。


 そういった理由で、魔竜の地下帝国侵攻に対し、アカギやカスガは比較的落ち着いていられた。無論、これは絶対の話ではない、現実的に見て掘削の可能性は低いという話なので、すぐ調子に乗る俺には確証を得るまで黙っていたようだ。


 しかし、今回ヴェーダは俺に全てを教えてくれた。

 カスガの推測はヴェーダとアカギにとって『確証』と言えるものだったらしい。



 現況の説明は以上。次に行こう。



『次は魔竜が攻勢に出ない理由とそれに対する女王の推測、ですね』



 お、おう!!

 ありがとう?



『いいえ、良妻として当然のアシストです』





『『ウザし』』

『『汝ぃ……』』


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