閑話其の四『震える神界・前編』
閑話其の四『震える神界・前編』
白銀の鎧をカチャリと鳴らし、戦神ムンジャジは右手で眉間を揉みほぐす。
結い上げられた美しい金髪も、健康的な小麦色の肌も、かつての輝きを失ったかに見える。それほど彼女は、戦神ムンジャジはやつれていた。
また神の一柱が滅んだ。
これで何体目だろうか、下級神とは言え簡単に滅びすぎる。
滅んだ理由は……考える必要も無い。分かり切った事だ。
神々の誰かが、恐らく若い神であろう、その阿呆が愚かにも『
戦神はそう考えるが、それでもやはり多すぎる。
不可触神によって愛神の一派が滅ぼされてから幾日か……既に二千ほど神々が滅んでいるのだ。
厳密に言えば、探りに向かわされた眷属神とその三族(今回は父母・兄弟姉妹・妻子の三族)が滅んだ。残念な事に、探りに向かわせた阿呆は健在だ。
眷属の滅びは報復による正当な結末と言えるが、三族誅滅は過剰報復ではないのか……神々に恐怖と疑問が生じた。
しかし、不可触神が魔界落ちしていないところを見ると、ルールに抵触せず報復を行った事が分かる。
そして、それは即ち、阿呆の方は遊戯のルールによってその命が守られていると推測される。だが、眷属神と不可触神との間に何があったのか、どのような経緯で滅ぼされたのかは分からない。
一番大事な部分が分からず、戦神は苛立ちと疲労を溜めていく。
単純に、例えば『不可触神に喧嘩を売った』といったものなら考える必要も無い。馬鹿が滅んだ、それで済む話だ。
しかし、報復以外で『不可触神の神域に侵入を試みた』等の、侵入未遂だった場合、神々から良い顔はされないがルール違反ではない場合、そんな状況で滅ぼされていたとしたら?
それはつまり、不可触神またはその眷属は罰を受けずにルールを無視して神々を滅ぼせる、そういう事になってしまう。
そんな馬鹿な、有り得ない……とは言えない。言い切れない。
神々の中では常に警戒すべき存在。遥か彼方にある中央神界から対処法等の情報は流れて来るし、現に今回も中央からの連絡で存在が発覚した。
それはアートマンもヴェーダも知らない事実が含まれている。
曰く「辺境第116宇宙域より転移したる現地発生型始原の一柱、覚醒す。触れるべからず。浅部第98宇宙域を封鎖す」
突然の警告と封鎖通告。
浅部第98
その後は酷いものだ。
古い神々はいつもの威厳を無くし慌てふためき、それを見ていた若い神々は意味も分からず右往左往。
不可触神の恐ろしさを知る者や、その認知度によって行動が分かれた。
戦神ムンジャジは太古の神とは言えないが若くはない、中堅の神。不可触神の恐ろしさを体験したわけではないが、その脅威は散々聞かされてきたので知っている。
故に封鎖も理解出来たし不可触神に関わろうとも思わない。
しかし、若い神々や威勢のいい神々は違う。
魔族に加護を与える愚かな異世界神など恐るるに足らず。たかが一柱、どれ一つ
彼らは運が良かった、上下を明白にするため自ら出向かず眷属に向かわせ、
次々に滅ぼされる神々、威勢の良かった神も追従した若い神も震え上がる。なんだこれは聞いてないよと同派閥の上位神に泣きついた。泣きつかれた方は白目を剥いて気絶する。
戦神ムンジャジも白目を剥いた一柱だ。
不可触神は関わらなければ基本的に無害である。間接的な被害(甚大)はあっても直接的な被害(致命傷)は
それでもまだ不可触神を探ろうとする者や接触を図る者が絶えない。
それは何故か?
圧倒的だから。
その力、備えた能力が『そんなアホな』と叫びたくなるほど通常の神々を圧倒している。
各神話系統の先頭に立つ創造神でさえ鎧袖一触、いや、触れる必要も無い。そんな力を歴代の不可触神は備えていた。
今回出現した不可触神も、これまでの結果を見ればその実力は伝記通り。半ば伝説と化した存在の力を垣間見た若い神々には、むしろ伝記以上の凄まじさと畏怖を覚えた。
伝説に近付いて『おこぼれ』に
そして、
無論、今回現れた不可触神のように、自らの神気を以って“産んだ”御子を溺愛する等の例外は有る。偏愛はどの不可触神も同様。
そんな誰も触れられない無敵の神、歴代の不可触神が何処へ消えたのか分からない。彼らは突然現れて突然消える。
滅んではいない。身を隠す、隠遁、そういったモノに近い。
今回の不可触神、魔族から『マハーアートマン』や『大森林の大神』等と呼ばれる存在も、いずれは消えると思われるが、それがいつなのか分からない。
大人しく待っていれば消える。しかし、魔素枯渇によるゲーム終了までに消えてくれるのか?
もし、消えなかったら?
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