第126話「知ってた」




 第百二十六話『知ってた』





 ハーピーの話を聞き終わった。

 案の定、イライラしますねぇ。


 ふぅ……なんてこった。



『――調査結果と我々の推測は、以上となります』


「……そうか」


「大丈夫かナオキ?」

「深呼吸よぉ~」


「あぁ、問題無い。ただ、『十四年間』ってところは、我慢するのに苦労したぜ」



 ヴェーダは上手い具合にハーピーが負った苦痛の部分を省略して教えてくれたが、ハーピー達が体を差し出した年数は重要な点だったので、腹を据えて聞いた。


 その年数を聞いた瞬間、俺はトモエとイセに体を前後から押さえられていた。いったい何が起こったのか解らなかったが、彼女達の判断が正しかったのは間違い無い。


 怒りで我を忘れたわけではない、北伐を命じる気も無かった。


 だが、俺は何かをしようとしていた、それが何だったのかは分からない。それ故に、トモエとイセの判断は正しい。


 俺より数倍強い二人が『押さえるべき』だと判断した、それが十分な答えとなる。


 イセは背後から右腕を俺の首に回し、左腕を俺の左肩に乗せ、左腕の関節を右手で掴み、曲げた左腕と手で俺の頭をガッチリ固定、『裸絞め』だ。


 チョークスリーパーやスリーパーホールドと呼ばれる絞め技である。非常に苦しい。


 トモエは単純に、正面から俺の腕ごと腰の位置を抱き締めた。正直、これが一番キツかった。何故なら、腕が動かせず『タップ』が出来ないからだ。いろんな骨から変な音が聞こえていました。


 イセの裸絞めで声は出せない、トモエの熱い抱擁でタップも出来ない。何か、下半身が温かくなったところで失神おちた。


 当然のように落とされた俺は、腰に数枚の布を巻かれた状態で目が覚めた。


 俺が座っていたソファーも別の物と交換されている。『そんなハズはない』と疑念を振り払い、皆に謝罪と感謝を伝えてヴェーダの話を聞いた。


 ……って言うか、消臭も徹底してもらいたかった。





 ヴェーダはハーピー達の記憶と、事情聴取によって詳細な状況確認を行った。ハーピーが過ごした苦痛の十四年間は、この時点でヴェーダが把握。


 同時に、アカギとカスガもヴェーダから報告を受けてハーピー達を労わりながら事情を聞いた。そして、前述した諸事情により俺への報告を後日にと決める。


 魔竜眷属襲来の後、辺境伯の北上を確認したヴェーダは、俺が辺境伯対策に集中出来るようにする為、魔竜の動きを俺に報告するに留め、魔竜対策はカスガとアカギの両者と共に練る事にした。


 先ず、カスガとアカギは魔竜が森の掟を何故破ったのか、それを確認しておくべきだとヴェーダに告げる。


 ヴェーダは魔竜に関する情報と大森林の歴史を二人に教え、三人で念入りに調べた。


 すると、三人はある点に気付く。


 五十年ほど前から大森林深部の魔性生物が増えていない。しかし減ってもいない。魔族は増えているが、彼らの経験値となる魔性生物の数は変動していない。


 中部魔族の増加は緩く、魔性生物の数も緩く減少。浅部の魔族と魔性生物は、人間との戦いもある為どちらも減少。


 中部と浅部に於ける生物の増減は自然な形、納得出来るが、深部は不自然だ。


 三人が出した答えは同じ、『魔竜が家畜を飼っている』。そして、肉壁が減らないように、何かを悟られないように、家畜を定期的に深部へ放っている。


 何故、五十年前からこの状況になったのか?

 そして十四年前、魔竜の眷属がハーピーの許へ現れた。


 ヴェーダが見たハーピー達の記憶、そこには肉欲に溺れるかのようなダンジョン内の様子が映っていた。魔竜の眷属がひたすらハーピーを抱く。無論、愛情は無い。


 ハーピー達が見たモノは眷属の顔と薄っすら明るいダンジョンの一室。牧場も魔竜本体も見てはいない。


 ハーピー達は、獣や果実と共に自らの体も献上し続けた。


 何も文句を言わず、疑念を抱かず、笑って従う都合の良い魔族は、彼女達だけだ。


 魔竜はハーピーにのみ体を要求した。そして、八年ほど前から深部と中部のクソ共が魔竜の『やり方』を真似て、ハーピー達を都合よく使い始めた。


 そのまま月日は流れ、苦痛の始まりから十四年目を迎えた今年、魔竜はハーピーに『冒険者』を献上せよと言ってきた。


 男女問わず、老いた者は不要、と。



 それは今から約二ヵ月前の事だった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 今から約二ヵ月前、魔竜の眷属が北浅部のハーピー集落に現れる。そして、毎日二人以上の冒険者献上をハーピークイーンに求めた。



 魔族には異種交配が可能な種族が存在する。その代表と言えばゴブリンと猪人だが、彼らは男女共に交配が可能な特殊ケース。


 また、ハーピーやラミアと言った女性しか居ない『単性種』は、異種交配でしか子が生せず、生まれる子供は全て母親の種族となる。


 しかし、単性種の女性が交配して子を生せる相手は、ゴブリンと猪人の男を除けば人類(人と獣人)の男しか居ない。あ、俺もだな!!


 ハーピーは下級中位の魔族なので、交配相手に格下のゴブリンは選ばない。


 中部に住む北都猪人は中級中位の格上、しかも住むエリアが違うので呼び出されない限り近付けない。残る交配相手は大森林浅部に侵入する冒険者の男、または長城近くを通る人類の男のみ。


 以上の理由で、北浅部に住むハーピーは人類の男を襲って集落へ連れ去る。


 人類と言っても、メハデヒ王国は人間の国、長城付近を移動する男は人間ばかりで獣人はほぼゼロ。大森林に侵入する冒険者に限れば獣人は皆無。


 西浅部ではラミアが冒険者の男を捕らえて、名実ともに『天国』へ送る。中部では妖蜘蛛の女性達が西中部の南端で浅部の奥に侵入した冒険者の男を捕らえ、『枯れ尽きる』まで天国を見せ続ける。


 しかし、ビ・アンカの乙女達は違う。


 何と、彼女達は攫って来た人間の男達を殺さず、相手の健康に気を配りながら交配し、王に仕える侍女の如く世話をする。



 まぁ、解ってはいたが……

 これが当然のように不幸を招く。


 ですよねー、とか、知ってた、とか、そんな言葉しか浮かばんのです!!










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