第127話「ファァーww」






 第百二十七話『ファァーww』






 人間、獣人、魔族の三種族は互いを嫌い合い、決して好意を抱く事は無い。


“世界”が定めた仕様なので、強制力と言うか、嫌う以外の思考になれない。


 それは理屈云々で表現出来ない『嫌いなモノ』に対する認識に似ている。ガキの頃の俺で例えるなら『イモムシ』に対する認識、いくらでも嫌いになれるが好きにはなれないモノ。


 しかし、嫌いだからと殺していたのは少年時代の話。年月が過ぎれば『嫌いだが、こちらに害が無いならどうでもいい』となった。


 イモムシを目にすれば視界から外したし、わざわざ見付け出して殺すような事もしない。つまり、嫌いなモノに対する対処が変わる場合もあると言う事だ。


 そして、その『嫌いだが……』の後に続く言葉は人それぞれ、俺の場合は『害が無いならどうでもいい』だった。


 エルフを抱く人類やドワーフを酷使する人類にも『嫌いだが……』の後に続く言葉と考えがあるので、殺さずに利用する。


 そこに“世界”の意図ルールは関係無いし、敵対種を嫌うという遊戯の設定を無視してもいない。


 それはハーピーも同じ。


 攫った男達に好意を抱く事は無いが『何だか申し訳ない』ので殺さずに世話をした。嫌っていても世話をするのがビ・アンカよ!!


 無論、彼女達も魔族だ、殺す必要がある時は躊躇無く殺す。ただ、俺達よりずっと穏やかなだけだ。人類に『優しい』わけではない。


 そんなハーピー達の集落には種馬として『ヒモ生活』を続ける人間の男達が二十名ほど居た。


 魔竜の要請を受けたハーピークイーンは、その種馬達を毎日二名ずつ魔竜に献上する事にした。


 しかし、二十名など十日で献上し尽くしてしまう。


 ハーピー達は浅部へ侵入する冒険者を必死に攫った。


 それでも足りないので長城を越える回数を増やし、街道を行く人類を攫う。男女問わず、老人を除く人類に狙いを定めて攫った。


 その無理な人狩りで、ハーピー達もかなりの被害を出したようだ。


 それだけではない。

 仲間を多く失うだけに留まらず、ハーピー達の不運ハードラックはさらにダンスってしまう。


 ハーピー達が無理な人狩りを始めてからひと月ほど経った頃、浅部で捕獲出来る冒険者が激減した。


 しかし、冒険者による浅部への侵入が減ったわけではない。


 冒険者は浅部に侵入していたのだが、既に浅部の南側には東浅部の端から西浅部の端までヴェーダによる『防衛戦力展開ライン』が敷かれていた。


 メーガナーダやスコル&ハティ率いる狼軍団によって、冒険者ギルドが不審を抱き難い程度の冒険者狩りと撃退が行われた結果、ハーピー達が攫うはずの冒険者は浅部から姿を消す。俺達の所為ですゴメンなさい。


 ハーピー達は焦った。


 魔竜へ献上する冒険者が足りない。長城越えでの冒険者狩りだけではリスクが高過ぎる上、そもそも北方街道は武装した人間が付随する往来が基本。


 つまり街道を通る『普通の人間』が少なく確保し難い。


 さらに、ただでさえ仲間が減って狩りの効率も下がっている状況で、中部や深部の魔族は食料と体を要求して来る。


 さすがのビ・アンカ達も泣きが入った。

 だが魔竜の要求を断る事は出来ない。


 已むを得ず長城を越えて街道の人間を襲い、仲間を減らしながら献上を続けた。


 しかし、長城越えを余儀なくされて暫らくたったある日、彼女達に転機が訪れる。


 妖蟻と妖蜂の両族からハーピークイーンの許へ檄文を持った使者がやって来た。


 檄の内容は両族ともに同じ。人類への非難から始まり、南浅部を統一した猿王を旗頭に推戴して浅部魔族を団結する事の重要性と正当性を説き、その是非を問うものだ。


 この話にハーピークイーンは飛び付いた。

 藁をも掴む思いだったのかも知れない。南浅部の猿王など彼女は知らないのだから。


 結果、クイーンの掴んだ藁は意外にも頑丈だった。


 俺の指示でハーピー達は浅部魔族と共に地下帝国へ避難。避難完了の当日、俺達は無傷で魔竜の眷属を四体仕留め、ハーピー達は腹の底から安堵の溜め息を漏らし、ナオキ・ザ・グレイトの名を歓喜の歌に乗せて大森林の青空へ響かせた。




 ハーピー達と魔竜との関係はここまで。


 ヴェーダとアカギ、そしてカスガの三人は、魔竜がハーピー達に冒険者の献上を要求した時期に目を付ける。


 今から約二ヵ月前、大森林での出来事と言えば南浅部で俺が積極的に活動を始めた頃。他のエリアでは特に何も起きていない。


 約二ヵ月前の大森林で、ヴェーダの知識にある重要な出来事は俺に関する事ばかり。だが、その中に一つだけ気になる出来事があった。



 チョーの死霊召喚だ。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 死んだチョーの彷徨さまよう魂が、どこの誰と死霊契約したのか分からない事件だったが、時期としては重なる。


 ヴェーダは一応カスガとアカギにその事を伝え、留意しつつ、現時点で可能な情報閲覧権と蟲の情報収集を用い、大森林で起きた主な出来事を遡って調べる事にした。



 十八年前に俺と大岩が出現した事と、地下に陰遁した妖蟻族が地上の護りを放棄した事によって、三十年前に両段持ちの高ランク冒険者パーティーが南浅部から北浅部を抜いて深部まで到達した事件以外は、王国と浅部魔族が戦った四十一年前に遡るまで注目すべき出来事は無い。



 更に遡って今から五十一年前と五十二年前、アカギとカスガが生まれる数年前まで遡ったところで、重大な出来事があった事を発見。


 五十一年前の出来事はアカギとカスガも知っていたが、その原因と詳細については知らなかった。


 五十一年前の大森林、その年、浅部魔族が急激に数を増やし魔族大繁殖スタンピードが起きていた。実際は中部魔族も若干増えているが、ゴブリンとコボルトを有する浅部に比べれば誤差の範囲だ。


 ヴェーダは大繁殖の原因を確かめる為に、その年の気候や大森林の食料事情等を調べたが、特に大繁殖の原因となる要素が見当たらない。


 調査する年代と地域の範囲を広げ、もう一度確かめたヴェーダは、スタンピードの前年に王国の冒険者が『二ヵ所の魔窟』を発見していた事を確認。


 その二ヵ所の魔窟とは、現在、まさに俺達が攻略に行こうとしている魔窟の事だ。


 小さな山の麓、その麓の東西に藪で覆われた洞窟の入口が在った。


 最初に見付けられたのは東の魔窟、発見した冒険者のパーティーは小山の麓を隈なく探索し、東の魔窟発見から十六日後、西側の山麓で二つ目の魔窟を発見した。


 王国は前王朝以来約三百年ぶりとなった魔窟発見で大いに沸く。


 二つの魔窟は冒険者の人気攻略対象となり、魔窟が発見されたその年は冒険者による大森林での魔族狩りが激減。


 そして、魔窟の発見から一年が経つ頃、二つの魔窟は成長も契約もしない『稼ぎの悪い魔窟』として冒険者達に認識され、国や冒険者ギルドもそれを認め『超低難易度魔窟』に認定した。


 国もギルドも冒険者も、いささかガッカリな結果となってしまったが、魔窟が大切な資源供給源である事は変わりない。


 とりあえず両魔窟を大切に保護しつつ、新人冒険者や騎士見習いの修練場として役立たせる事にする。


 王国と冒険者ギルドはノンビリそんな事を考えていたようだ。



 ファァーーーww

 一年間、一年間も大森林を放置して魔窟攻略に力を入れた王国。


 馬鹿なの?

 死んでしまうなの?




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