第124話「ヒゲ、剃れば?」



 


 第百二十四話『ヒゲ、剃れば?』





 九月十二日、深夜午前一時。


 コアと魔窟関連の話が長引いて、日を跨いでしまった。

 あとはコアを奪う理由と、魔窟攻略部隊の人員を挙げるだけ。


 しかし、人員の方は口に出すのが難しい。

 何故なら、俺が入っているからですねぇ。

 皆が許しても俺が許しませんよ的な感じもしますな。


 この時期に俺がガンダーラを離れるのは、かなり問題がある。



『ここに居る四人は、攻略部隊に貴方が入っている事を既に察しているかと』


「え? マジで?」


「そう考えるしかあるまい。コアに触れた場合の干渉が如何なる属性のモノか判っておらんのだ。魔力属性、神経属性、精神属性、暗黒、神聖……全ての状態異常を防ぐ事が出来るのは、お主しか居らん」


「そうねぇ、もし、コアが契約を結ぶ交渉をナオキさん抜きの攻略部隊に居る眷属に持ち掛けて来たとしてもぉ、契約の言葉を無視してコアを手にする事は出来ると思うけどぉ……」


「あぁ~、まぁ、ただの契約交渉だったらな」



 キンポー平原でクソみてぇな事されたばかりだ、いろんな“角度”からの攻撃を防げるバステ無効の俺が向かう。それがベストなのです!!


 実際それ以外の選択肢は無い……無いなっ!!

 だってバステ無効じゃなきゃ、危険がデンジャラスで危ないんだぜ!?



「左様。邪神と繋がりのあるコアと接触した以上、通常の契約交渉だと考える事は出来ん。邪神がコアに何を吹き込んだか分からん上に、邪神も滅んだわけではない」


「魔竜とコアが邂逅した様子を姉上様にお伺いしてぇ、その奇妙な状況を知る身としてはぁ……ナオキさん以外が無事にコアをガンダーラへ持ち帰られるとは思えないかなぁ」


「俺もそう思う」


「次点でスコルとハティだな」

「邪神の干渉だけは絶対無さそうねぇソレぇ~」



 そう、二人が言う通り、俺はスコルとハティをラヴの【影沼】に入れて魔窟に向かおうと思っていた。


 あの二匹はもう隠密行動が出来る大きさではない。


 従魔として『これは大きなエッケンウルフだっ!!』と王国人に説明しても『お巡りさんこの人です』と衛兵を呼ばれる事必至。


 そうなれば『むむむ、白と黒の狼……貴様が虐殺魔獣使いかー!!』となって泥沼状態へ突入するだろう。


 結果、逃亡もしくは目撃者を消す為に二度目の虐殺を開始……

 魔窟攻略どころではない。


 移動中はスコルとハティの存在を隠す必要がある。


 そう言う事で、攻略に行く際メチャは留守番をしてもらいたい。何故なら、スコルとハティの総合力が高い為、いくらラヴの魔力とMPがトモエとイセの次に高いと言っても、高総合力者を三体も【影沼】へ入れるとラヴのMP減少スピードがエライ事になるからだ。


 ラヴのMP自然回復量は、トモエとイセを除けば速度も量もガンダーラでトップだが、その自然回復でも追い付けないとなると、MP回復薬やマハトミンC等のアイテムは焼け石に水。


 ラヴの腹が数分でタプンタプンになってしまう。


 総合力が2,000の人間を三千人ほどラヴの【影沼】に入れても、その三千人の合計総合力は六百万、メチャ一人分以下である。一般兵を【影沼】にブチ込むのとはワケが違う。


 ラヴの【影沼】には総合力2,000の人間が一万は入る、つまり総合力2千万前後はイケる。


 そして、スコルとハティは総合力1千万超えの強者、二匹合わせるとラヴの【影沼】許容量を超えているが、何とかMPの自然回復量がMP減少量を上回ったのを確認した。


 そうなると、二匹が入った【影沼】へ総合力800万近いメチャが入る余地も、術者として魔術維持以外にほぼ負担の無いラヴ本人が入る余地も無い。


 収納する物が生きた魔性生物でなければ、体積が許す限り何でも詰め込めるんだが……


 他のダークエルフ達はまだ【影沼】のかさが小さい、進化すればどうにかなるかもしれん。しかし、どちらにせよ彼らは公爵領にてダークエルフ奪還任務があるので今回の魔窟攻略に加わる事は出来ん。


 俺が今回のコア奪取で【影沼】を使っての移動に拘る理由は、魔窟やダンジョンの入り口に必ず設けられている『関所』にある。


 国の貴重な財産である魔窟の警戒は厳重だ、魔窟入り口の関所に騎士団が四六時中張り付いている。


 余談だが、この世界の『騎士団』とは軍編成に於ける部隊名である為、テンプル騎士団やキリスト騎士団のような独立した組織を指すものではないので、騎士団の数を表す単位は『個』である。俺の翻訳ではそうなっているので気にしない。


 今回俺達が向かう二つの魔窟には、どちらも一個騎士団が駐屯している。


 全五階層の魔窟に一個騎士団三千人の兵を置く……大げさに見えるが、これでも世界的にみると平均以下の兵士数だ。それだけ魔窟やダンジョンが人類にもたらす利益は大きい。


 魔窟の入り口ごと覆う関所の結界も面倒だ、蟲なら冒険者の行き来で結界が一部解除された時に入り込めるが、変装したメチャでは見咎められるだろう。


 冒険者の証であるカードは幾らでも確保してあるので、俺やラヴは人間の冒険者に成り済ます事が出来る。


 いや、俺もギリギリだな。体毛を見られたらアウト、顔の毛は手入れのされていないヒゲで通す。冒険者の大半はそんな感じだしね!!


 天罰マンの俺が何か言われるのは確実だが、ラヴの場合は俺の奴隷魔族として偽称させる手も有る。国が発行したダークエルフの奴隷登録証も確保済みだ。


 だが、これは心情的に使いたくは無い、再びあの首輪を彼女に……そう考えるだけで人間の街を襲いたくなる。


 とにかく、メチャはあの容姿だ、まず間違い無くストップが掛かる。魔族奴隷でも通らんだろう。戦奴や奴隷闘士として召し上げるとか言われそう。


 辺境伯との戦いでは『新種オーガのメス』とか言われてたからなぁ。


 オーガは中級中位の少数魔族だが、人類の価値観では『非常に醜い』とされている為、隷属化して連れ歩く冒険者は居ない。当然、隷属登録証も無い。


 勇者お手製の異次元袋にメチャを入れて運ぶのも却下。魔導兵器や食料医薬品を詰め込んでガンダーラ防衛の総大将ミギカラに渡しておくので使えない。


 いつものように変装させるという手は諦めている。


 関所を通るとなるとさすがに厳しい。

 メチャには悪いが、留守番決定だ。



『どうにかなだめておきます』



 ハハッ、頼むわ。


 とりあえず、反対意見は無いようなので、俺が行く事は決まった。他のメンバーはスコルとハティ、そしてラヴ。



 それ以外はガンダーラ防衛と……


 って言うか、俺の体毛剃ってしまおうか?

 せめて顔は綺麗なヒゲにしとこうかな……



『アハトマイトナイフでも剃れませんよ、貴方の体毛は。王妹と帝妹の嫉妬から幾度も流血を防いできた見事な体毛です』



 え、マジで?

 じゃぁ、イセかトモエに【貫壊】を乗せてもらったナイフで……



『ボス猿人の体毛消失を【バッドステータス無効】がどう判断するかによりますが、恐らく『威厳たいもう無しはバッドステータス』判定が下されるかと。耐性ではないので彼女達にも破壊出来ません』



 えぇ……

 僕の威厳は体毛で出来ているの?

 体毛は僕のステータスなの?



『獣系魔族は仰る通り。レインやジャキがフサフサになったでしょう?』



 ヒュ~。

 おいおい、それじゃぁ何?

 俺はステータスの塊って事でファイナルアンサー?

 その上、常時大量のフェチモン振り撒いてた? セクシーに?


 かぁ~っ!!

 マイッタナ~、そんなつもりじゃナカッタンダガナぁ~!!




 ヴェーダはん、毛艶けづやが良くなるFP品の樹液…………おまっか?



『おます』



 よろしおまっ!!



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