第123話「思ってた以上でワロタ(白目」





 第百二十三話『思ってた以上でワロタ(白目』





 邪神アホの思惑は外れるのだっ!!


 第一に、契約者となる強者が現れなかった。いや、居たのかも知れないが、神格を失った邪神には見抜けなかった可能性もある。


 何故なら、三皇五帝に異世界人は一人しか含まれていないからだ。つまり、逆に言うと異世界人並みに強い存在は七人しか居なかった。希少だと言う事だな。


 明らかに強者と分かる異世界人と、この惑星生まれで強者と呼ばれる存在には、残念ながら強さに大きな開きがある。


 しかし、残りの七名に加護を与えた神々は自らの目で彼らの可能性を見出し、支え続けて世界に冠たる超最上級難易度指定ダンジョンに君臨する三皇五帝の大魔人マスターに仕上げた。


 その点に関しては、南エイフルニアで暴れ回る魔皇帝に加護を与えた神も同じだろう。


 アートマン様による情報開示でヴェーダが蓄えた『非敵対勢力』の諸事情で知った事だが、魔皇帝は俺なんかとは比べ物にならないほど苦労、と言うか迫害を受けていた模様。


 そんな彼に加護を与えた神を、ヴェーダは『やりますね』と少しだけ褒めた。


 神々が魔族への加護を取り消す中、忌子魔族として生まれた一人の幼児に加護を与え続け、その幼児はやがて二十代でエイフルニア大陸の半分を支配する大帝国を築いたわけだから、『アレはワシが育てた』と言って高笑いしているかも知れない。


 信者ゼロの状態で五千年ぶりに俺へ加護を授けて下さったアートマン様にも同じ事が言えるが……


 俺はまだ山に囲まれたジャングルの端っこしか支配していないので、がっ頑張りたいと思います!!



 さて、邪神の思惑が外れた第二の要因だが、これは第一の要因とも重なる。


 それはメハデヒ王国内に居る異世界人の少なさだ。


 メハデヒ王国内をうろつく異世界人は三人の勇者以外居ない。強者という枠を異世界人のみに絞ると、このように悲惨な結果となる。


 彼らのうち二人はメハデヒ王国の中央南寄りに在る王都で召喚されたが、王都周辺には四つの魔窟と一つのダンジョンが存在する為、召喚された二人の勇者はその魔窟やダンジョンでレベルを上げた。


 つまり、勇者達はわざわざ1,500km以上離れた北部の大森林や魔窟に足を運ぶ必要が無かったと言う事だ。


 更に言えば、成長速度が速い異世界勇者が五階層程度の魔窟に挑むのは、訓練初日と翌日くらいのものである。


 そしてもう一人の勇者、辺境伯の娘婿。


 コイツはメタリハ・エオルカイ教国大聖堂で集団転移召喚されたのち、数日で大聖堂を抜け出し逃亡。


 野盗や魔獣等を殺してレベルを上げつつメハデヒ王国辺境伯領に辿り着き、そこで出会った辺境伯の長女とファックしてそのまま亡命。


 このサイコ勇者も既に低難易度魔窟に潜るレベルを超えていた。


 メハデヒ王国在住の異世界人が、邪神の待つ五階層の魔窟に近付く事は今後も無いと思われる。



 そして最後、邪神の思惑が外れた第三の要因は――



「それはスコルとハティの存在だ」



 カスガとアカギが片眉を上げ、トモエは両目を少し開いて僅かに顔をこちらへ向け、イセは睡眠学習を終えて俺の顔を黙って見つめていた。いつ起きたの君!?


 カスガが俺を見上げて小首を傾げる。



「スコルとハティ、実際に見た事は無いが、とんでもない巨狼と聞いておる。モッフモフらしいな」


「そうだな、モッフモフだ」

「あらぁ、触りたいわねぇ」


「して、その二匹が要因とは、如何なる理由かな?」

「お姉様の仰った『魔界の伝手』と、関係があるのかしらぁ?」


「大アリだな。俺は薄々感付いてはいたが……あの二匹は、悪魔だ」


「ん?」

「アクゥマ?」


『魔界の住人です』


「何とっ!?」

「神様っ!?」



 皆の驚きは想像以上だった。

 イセやトモエも目を大きく開けて身を乗り出している。

 地上界以外に住む存在は、基本的に神として扱うのが魔族です。


 とりあえず、ヴェーダに魔界の事と悪魔の事、そしてスコルとハティの正体を皆に伝えて貰った。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 ヴェーダによる魔界講座は、四人には非常に好評だった。


 魔界の社会構造や理念は大森林に近い、ガンダーラの理想とする国が魔界には多く存在する。


 時に知恵を人間に授け、時に多様な性行為を教え、時に偏愛の素晴らしさと嫉妬の可愛らしさを説き、時に異種間の恋愛に祝福を贈り……


 様々な喜びを人類に与えて『我』を貫いた末に信仰を失ってしまった愛すべき神々が御座おわす聖域、それが魔界。


 力こそ正義の旗を掲げ、皆が混沌をこよなく愛しながらも秩序を保つ不思議な世界。


 そんな理想郷が在ったのかとトモエの肩が震え、カスガがその肩を抱き、珍しく興奮して鼻息を荒くするイセと、何やら妄想してトリップ中のアカギ。


 彼女達は魔界の魅力に取り憑かれた。


 そろそろ正気を取り戻して欲しい。

 こんな時はカスガが…… ヨシっ!!



「行ってみたいものだ、そのような楽園へ……フフッ」


「連れていくのは難しいかも知れんが、魔界の住人に会わせる事は出来る。あの二匹の力を借りればな」


「スコルとハティか……まさか魔神の孫であったとは」

「ハァハァ、お、驚きよねぇ~」



 スコルとハティ、彼らの姓は『フロズヴィトニルソン』、その意味は『フロズヴィトニルの息子』だ。


 ハティの肉体はメスだが、魔界での魂はオス。まぁ、性同一性障害らしいので、こっちに来て『本当の体』を得て喜んでいる。


 そしてフロズヴィトニルは『魔神ロキ』と『巨女神アングルボザ』との間に生まれた三兄妹の長子『フェンリル』の別名。たはーっ!!


 ちなみに次兄は『ヨルムンガンド』、末の妹は『ヘル』である。ビッグネームの三兄妹だった。


 俺は頭を抱えた。ヒドすぎワロタ。


 魔界のトリックスターであるロキと、その息子巨狼フェンリルの名は有名だが、その力がどれほどのモノか人類も魔族も知らない。


 魔界に居た頃のスコルとハティも相当なものである。


 ここは二匹のパパであるフェンリルの事について一部触れてみるが、フェンリルは武神の腕を食い千切ったり、主神を丸飲みして喰い殺すワイルドな狼さんだ。


 その巨体は標高一万二千メートルのハイジクララ山脈を『ヒョイ』とまたいで越えられるほどデカイらしい。ちょっと意味が解らない。


 口を開けると上顎が大気圏を突破して宇宙に出る、とヴェーダの説明を受けた。もっと意味が解らない。さすが巨女神の息子さんですねと言っておいた。


 そんなフェンリルパパは父と同じく巨神の娘と子を作り、大勢の子が生まれる。スコルとハティはそのうちの二匹。


 神界の神を殺す父と巨神の母、強烈な叔父と叔母、トドメに魔神の祖父と祖母。


 そんな親族に囲まれたスコルとハティは、当然の事ながら魔界に於いて超が付く大貴族である。って言うか王族です。


 世界は違っても天界と冥界は繋がっている。この世界の神界から魔界に移った神々も、天界内に在る神界三丁目から冥界近くに在る魔界の三丁目へ移動したに過ぎない。


 魔界の三丁目に移った邪神は、四丁目に居る大親分の存在を当然知っている。恐らく神界に居た頃から存在は聞き知っているはずだとヴェーダは言った。


 そして、落ちぶれた自分と大親分一家との『格』の違いも十分理解している。


 たとえ大親分の孫が下界で受肉し只の魔獣になっていたとしても、その体内に宿る魂には大親分一家の代紋が刻まれている。


 あの二匹には【ファールバウティ】と言う名の曾爺ちゃん――つまり魔神ロキの父に連なる血族と言う名の代紋が有るのだ。


 落ちぶれ邪神が決して無視出来るモノではない。


 ヴェーダは魔窟のボス部屋で邪神の介入を確認した直後、アートマン様経由でロキに報告。


 その時、魔神ロキは驚喜の雄叫びを上げたそうだ。

 さすが魔界のトリックスター、揉め事大好きである。



「そして、ロキは居城の窓から外に向けて叫んだ。『テメェが見ている蟻と蜂は、俺の孫のファミリーだ』ってな」


「クッ、何と男らしい……お主が居なければ惚れておったわ」


「あ~、ヤバい、朕ちょっとキたわ~」


「だ、旦那様の方が、ぃぃ」

「ナオキも、頑張って」



 極道の妻っぽい感性を持った女性陣が頬を染める。

 ちっ、クソう、クソう、ロキめぇ……



「まぁ、そんな感じで、邪神は蟻と蜂に手出しせず、コアへの神託を切った」


「なるほど、合点がいった」

「そうねぇ、コア奪取時の安全度は上がったかしらぁ」


「して、誰を魔窟に向かわせる?」

「時期も悪いわねぇ、魔竜が……」



「その事なんだが……」



 実際、難しい。

 一応は決めてあるが……



 賛成を得られるかは微妙なところだ。





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