第121話「見破ったよ、君の正体を、ねっ!!」




 第百二十一話『見破ったよ、君の正体を、ねっ!!』





 俺のルパン宣言でアカギとカスガは頬を染め……ていない。

 二人の眼光が鋭くなった。あれれ~。


 イセは寝てるしトモエは瞑想。


 僕は大泥棒になれるのだろうか……


 そんな僕を余所に、カスガが僕の左脚に体を預けながら、何度か頷いて口を開いた。



「フム、あの二ヵ所は半年置きに蟲を入れて調査しておる、長い間どちらも五階層しかない魔窟だったが……本当に魔窟なのかは判らん。すぐ傍に『魔ドンナ』のダンジョン『パパドンプリーチ』が在るからな」


「そうねぇ、あの二つは魔ドンナの『サブダンジョン』臭いわねぇ~。もし普通の魔窟だったら第五階層に在るコアと接触した冒険者は多いはずよぉ?」


「左様、どちらの魔窟もダンジョン化していない。何年も若いままの魔窟では不自然だ。考えられるのはただの洞窟を異空間化して、その後解除したサブダンジョン」



 ふむふむ、カスガの読みは的確ですね。ちょっと褒め――

 あ、まだ続きがあった。要らん事言わんで良かったぜ!!



「もしくは、魔窟コアのお眼鏡に適う侵入者が居なかった……如何ですかな姉上様?」


『如何にも。あの二ヵ所に在る魔窟のコアはどうやら二つとも“指南役”が居るようです」


「ほう、指南役、ですか」


『恐らく、名の知れた異世界勇者レベルの契約者を望んでいるのでしょう。三皇五帝ほどまでに成長する見込みの有る強力なマスターを確実に得る、指南役がそう考えているのならば、最低でも異世界人との契約を必須と定めているのかも知れません』



 ヴェーダの話を聞いたアカギは「あらぁ」と言って難しそうな表情を作り、さり気なく僕の大事な所を上下する。おぅふ。


 カスガは俺の左脚に体を預けながら自分のコメカミを左手中指の指先でトントンと叩き、少しだけ眉根を寄せて黙考している。


 カスガとアカギが話していた二つの魔窟はサブダンジョンではない。


 この事は蟲を眷属化した翌日からヴェーダが念入りに調査済みだ。魔ドンナのパパドンプリーチ城には蟲を入れなかったが、今もその周囲を蟲に包囲させて監視している。


 何故、サブダンジョンではないと判ったのか?


 ヴェーダは先ず、魔窟に入る冒険者の生気量を侵入前と後で測定し、体力の消耗や魔力使用等で減少する生命維持活動の糧として消費した生気量を侵入時間と取得経験値量で算出した。


 さらに、教国の魔窟に侵入した冒険者とパパドンプリーチに侵入した冒険者にも同様の測定を施したのち、それらの生気量を比較した結果、パパドンプリーチのみ生命維持活動での消費であると説明出来ない量の大幅な生気減少を確認出来た。


 ここまで確認して、ヴェーダは俺から許可を取って蟻を二つの魔窟に一匹ずつ突入させた。


 異変が有ればすぐに撤退出来るように出口付近で待機させていた二匹の蟻は、一時間経過しても生気減少は一定で微少。


 さらに一時間、また一時間、そうやって確認を続けたが、蟻の生気は自然回復でカバー出来る程度。


 これは素の魔窟に見られる非効率的な徴収法だそうです。


 誰かが永続的に住むなら効率は良いだろう。魔窟でありコアが在ると隠すのなら、この徴収法は都合がいい。魔竜のダンジョンでコアが長期間地竜から生気を得た方法だな。


 とまぁ、それを確認したヴェーダは飛行待機していた蜂も一匹ずつ突入させ、空中浮遊体に対するトラップや、高低差による生気減少の有無を調査。


 そして、この度も異状無しと確認したヴェーダは、二つの魔窟にそれぞれ百の蜂と九百の蟻を突入させる。


 だがしかし、魔窟はこの蟲の量で何のアクションも起こさなかった。あのデカさの眷属蟲が千匹来たら警戒すると思うよ僕は。


 仮にサブダンジョンだったとしても、メインから情報を得ている魔ドンナは動いていないし、サブマスターが指示を受けて動いた様子も無かったようだ。



 一つの階層を隅から隅まで念入りに調査し、フロアボスが控える部屋の扉を冒険者が開けるタイミングで少しずつ蟲を次の階層に進め、二週間掛けて五階層全ての調査を終えた。


 蟲に犠牲は無し。両魔窟に侵入した計二千匹の蟲達は、今でも魔窟内や周辺でスパイ活動を続けている。


 調査結果は前述の通り、サブダンジョンではなく魔窟であると断定。


 ダンジョン化スキルで造られた異空間化していないダンジョンでも効率的な生気徴収、つまり精気量に応じた意図的な累進徴収は必ず行われるので、それが確認出来ない魔窟をダンジョンとして扱うには無理があるようだ。


 両魔窟の魔素溜まりから湧く養殖も、全てのコアが最初から創造出来る基本の五種のみ。


 マスターの眷属適性によって創造された養殖は居ない。ここ重要。


 さらに、マスターが居れば創造された養殖は【隷属体】か【眷属体】のどちらかになるが、そのどちらも存在しなかった。


 魔窟の最下層では第五フロアボスとコアを確認している。


 ボスと同族の取り巻きが十体ほど居たが、全てヒャッハーゴブリン並みの能力だった。


 西の魔窟コアを護るボスは一般的な養殖の『コボルトリーダー』、東は『ゴブリンリーダー』。進化種ではなく、ジョブ名が種族名に付いている。


 大森林のコボルトやゴブリンには無いジョブだが、いずれも普通の養殖、サブマスではないし隷属化も眷属化もされていない。


 東西の魔窟で眷属蟲が若い冒険者パーティーと共にボス部屋に侵入し戦ってみたが、蜂や蟻の毒で簡単に死んでしまう。


 その冒険者パーティーも始末して蟲の存在を隠蔽しつつ、魔窟が死体を吸収する様子を確認し、その生気がコアに貯まるのも確認。


 そして、生気がメインコアに送られる事は無かった。まぁ、送らないサブマスも居るかもしれんが。背信は有り得ないし出来ないとの事。



 ヴェーダはそのままボス部屋で蟲を待機させ、次の冒険者がボスと死闘を繰り広げる様を観戦。


 辛勝した冒険者はボス部屋の奥に安置してあるコアの前に足を進め、コアを見つめて生唾を飲み込むが、首を左右に勢いよく振って怖気を払い、ゆっくりとコアに手を伸ばした。


 東西のボス部屋で同じ出来事が何度も起きている。


 人類は自ら進んで魔人になる事を望む者も多い。


 二つの超低難易度魔窟に侵入する冒険者は総じて弱く精神も脆い。新人ならまだしも、ベテランでこのレベルの魔窟に通う冒険者は『敗者』、この世界では負け組だ。


 そんな彼らは人類を超越した存在である『魔人』に憧れる。


 コアと契約するだけで人類を超越出来るのだという愚かな発想だが、そんな考えしか出来ないから負け組なのだと嘲笑するしかない。


 そして、超低難易度の魔窟コアに手を伸ばして『夢』に触れた冒険者達は、ウンともスンとも言わないコアに絶望して夢追い人を辞め、肩を落としながら転送魔法陣に乗って地上まで戻り、蔑みが待つ場所へ帰るのであった……



「――と、そんな感じだ。契約者となった者は現れず、負け犬が去ったボス部屋に現れたのは……」



「指南役……堕ちた神か」

「邪神かしらぁ?」


『どちらも正解ですね』



 アカギはニッコリ笑い、カスガは小さな舌打ちを響かせた。

 可愛い音だな。


 あ、トモちゃんのも可愛いですよ?(震え





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