第118話「誰もアカギを注意しない件」





 第百十八話『誰もアカギを注意しない件』





 一旦トイレ休憩を挟み、討議を再開。

 時刻は午後11時30分。まだまだイケる。


 しかし、早寝早起き娘メチャの我慢に限界が来ている。


 彼女に甘いヴェーダの指示を受け、「ね、眠くないですぅ」とグズるメチャをラヴが背負って退場。


 案内役として呼ばれたササミも同行、彼女も睡魔で足下が怪しい。


 ラヴの投げキッスを股間に受けつつ「お休み」と投げゴリキッスで見送った。


 誰かの舌打ちが草原に響いたが、カスガに怒られていた。少し離れた場所で吹っ飛んだ走竜は無事だろうか? ナナミの悲鳴が聞こえる。


 何となくトモエの美を讃えたい義務感と衝動に駆られたので、「また若返った?」と、この秋一番の真剣な表情で聞いてみた。


 すると、一瞬だけ目を合わせ「ぃゃ、別に……」というハニカミ赤面デレを頂いた。ふぅ。今夜は腰が砕けそうだな……


 安心したところでイセと目が合った。冷や汗が垂れる。


 イセは可愛らしく鼻筋にシワを寄せ、狼のように犬歯を見せながら威嚇の表情を作り、視線を俺の顔から徐々に下げていき、ある場所で止めると、歯を「カチンッ」と鳴らした。


 俺は気が遠くなるのを耐えつつ、イセにウインクを飛ばす。


 彼女はそれをパクンと食べる素振りを見せ、俺に向けて舌を出し、舌先で何かをチロチロ舐める真似をしたあと、「チュッ」と可愛らしいキスを飛ばして来た。


 まぁ、実際は可愛らしいなんて物ではなく、カマイタチ的な効果の乗ったキスだった。俺の後方から木が倒れる音が聞こえる。間伐かな?



「まったく、お主ら、ナオキで遊ぶのはヤメぬか」

「そうねぇ、見なさい、こんなに小さくなって…… あら可愛い」


「ハッハッハ、なに、構わんさ。『妹』と戯れるのは、兄貴の務めだ」


「フフッ、そうか、お主と我らの妹か、ならばよし

「ヤダ、それって、ヤダちょっと、朕恥ずかしい」


『そろそろ宜しいですか?』


「ムムム、姉上様よ、無粋は困りますぞ?」

「クッ、無念ですぅ……」



 ヴェーダのお陰で、ヤキモチスパイラルが回避出来たぜ。

 トモエがイセに物凄いガンを飛ばしているが、イセは睡眠学習に突入した。この二人はそれぞれの姉に任せて、次の話に移ろう。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「つまり、王国が隣国と小競り合いを続けている期間中、俺達は人類と戦わず魔竜戦に備えるわけだ。そうなると、なかなかレベルが上がらん、大森林では経験値を稼ぐすべが無いからな。中部の魔族を襲う訳にもイカンだろ」



 真剣な表情でそう語る俺は、委縮して小さくなったアホ息子をツンツンして遊ぶアカギの頭を撫でながら、トモエの視線を必死にかわすす。


 躱せていなかった。股間と俺の顔をガン見だった。


 それを見ていたカスガが、呆れつつ会話を繋げる。愛してると言っていいですか?



「ウム、長城の城門が閉じた今、冒険者の侵入も無い」


「そうねぇ、人間に似たエルフとダークエルフ以外は長城を越えて狩りに出掛けられないものねぇ。ところで、そのエルフ達は今何をしているのかしらぁ?」


『彼らとピクシー五名、そしてメーガナーダは公爵領に囚われた六名のダークエルフ救出に向かいましたが、その六名は精気型二重結界に護られたエロフソン公爵の居城に収容されている為、現在はアイニィ達の影沼内で公爵軍が動くまで待機させています』


「待機っつってもアレだろ、夜は冒険者狩りとか国境超えてスーレイヤ人狩りしてんだろ?」


『もう少しでダークエルフの三名が進化可能となります』


「クックッ、公爵領の冒険者が死滅せねばよいが」

「ウフフ、朕も長城の向こう側へ地下道掘っちゃおうかしらぁ」


『長城まで地下帝国の領地を広げるのが先です』

「は~い、ウフフ、楽しみねぇナオキさん」


「ハァハァ、そうだな、先ず長城を陥落させて――って違う」



 危ない危ない、ウッカリ対人戦の話で盛り上がるところだった。人間ブッ殺す事を考えるとワックワクすっぞ?


 ちなみに、俺の息が荒いのは、人間ブッコロンブスに変身した為ではない。アカギが悪い事をしているからだ。すげぇテクだぜ……ッ!!


 んほぉ……、と、とにかく、魂が完全に人外仕様になったからな、気を抜くと「ちょっくら冒険者狩りに行って来るわ」的な感じで長城を越えたくなる。


 今は我慢して横道に逸れた話を戻そう。股間の情熱も我慢だ!!



「んっふぅ、獲物が無くなる前に、娘や姉妹達を狩り場に送りたいと願うお前達の気持ちも解る。しかし、妖蜂も妖蟻も前線には出さんぞぉ~」


「フフッ、構わんよ。我らはガンダーラ軍の兵站を護る要だ、前線から送られて来る見事な獲物を皆で分けるさ」


「う~ん、足りるかしらぁ?」

『人類は三十五億人、ガンダーラ国民の約一万倍です』

「足りますねぇ~」


「そうだぜアカギ、狩って狩って狩りまくって――違う、そうじゃない」



 クソう、クソう、ヨダレまで垂らして何を興奮しているんだ俺は。

 イカンな、人間ぶっ殺したすぎワロタ。さっさと話を進めねば。アカギさんもそろそろヤメテ下さい。



「じゅるり。確かに、長城を越えて人間を掃滅しつつ、領土を広げながらレベルアップといきたいところだが、背後に魔竜を放置したままでは安心して王国と戦えない」


「しかし、魔竜を倒すには力が足りない、か?」

「困ったわねぇ~」


「そこで、二つ提案が有ります。あのですね――」


「ほぅ……」

「あらぁ」



 興味深げに俺の話を聞いてくれるカスガとアカギ。

 目を閉じて静かに聞くトモエとイセ。イセは聞いているのか?


 先ず俺はミギカラの話をした。


 ミギカラは下級下位種からの急激なレベルアップでキングまで進化したが、進化の段階を踏まなかったので能力の上昇率は低かった。


 しかし、マハトマ種であった為、ただのゴブリンが進化した状態よりはマシだ。五倍ほど違いが有るはずだとヴェーダは言った。俺もそう思う、アイツは強い。


 ハイ・ゴブリンだったチョーはレベル54で総合力9万。


 ガンダーラには同レベルのマハトマ・ハイ・ゴブリンも数名居るが、彼らの総合力は全員20万~40万。


 ミギカラに至ってはレベル255で総合力2千500万を軽く超えている、能力の上昇率がチョーとは段違いだ。


 そして、ここからが本題。


 チョーはあの時点で火魔法の熟練度が8しかなかったが、総合力9万のうち、熟練度8の火魔法が占める加算値の割合は4%、総合力に3,600も加えられていた。


 チョーの魔力は色がオカシイとイスズは言っていたが、これは転生による変色である事が解っている


 チョーがレインやジャキのような特異体であると言うわけではない。身体的には普通のハイ・ゴブリン。勇者の称号は有ったが、備わっていたはずの能力バフや成長補正は消えていた。


 即ち、普通のハイ・ゴブリンが火魔法の熟練度を8に上げただけで、総合力が3,600も上昇したと言う事。


 魔法攻撃力を上げる為の要素は、魔力、知力、技術、熟練度の四つ。チョーはこれらの要素がマハトマ種より数段低い。



「――って事だ。レベルアップ時の大幅な上昇ほどは見込めんが、能力値の上昇は基礎訓練を積めば少しずつ上がっていく」


「クックッ、しかもレベル上昇よる能力上昇ではなく、訓練によって基礎能力値が上がる為、レベルアップ時の能力上昇にプラス補正が掛かる。その補正も先天的に基礎能力の高い奴らに比べれば可愛らしいものだが、馬鹿に出来ん」


「スキルの熟練度も、同じ事が言えるわねぇ~」



 よしよし、理解が早くて助かる。


 だがしかし、イヤな予感がするのです……

 この話題は速攻で終わらせたいのです……


 T子ちゃんとI子ちゃんの補正値とか聞きたくないのです……

 耳が腐ってしまうなのです……



『算出しました』



 ヒドイのです……




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