第116話「僕はシムラを推すね」




 第百十六話『僕はシムラを推すね』





 さぁ、仕切り直しだ。

 トモエが挙げた点は二つ、メハデヒ王国軍の北方を護る王国騎士団と軍属、そして北方に住む人類に『影沼使い』は居ない。


 では、人類以外ではどうか?

 ヴェーダが纏めた情報では、ダークエルフが六名ほど居る。


 その六名はメハデヒ王国北東に位置する『デイヴィー・ポン・エロフソン公爵領』に奴隷として囚われている。


 公爵領はスーレイヤ王国と国境を接しているので、軍事面で優遇された領地だ。


 そんな土地に輸送兵として重用されるダークエルフが、たったの六名しか配備されていない事に驚く。しかし、これには理由がある。


 初めに指摘しておくが、一つの領地にダークエルフ六名は多い。


 辺境伯領でさえラヴ一人、アイニィ達三人が居たのは大国スーレイヤの伯爵領、その伯爵領にヴェーダが大量の蟲を派遣して調査した。


 その結果、四十三名のエルフと百十二名のドワーフ以外、他の魔族もダークエルフも居ない事が確認出来た。



 話は逸れるが、伯爵領で囚われていたドワーフとエルフは、アイニィ達が装着していた隷属の首輪をヴェーダが解析し、救出部隊であるメーガナーダやハイエルフ五人衆、そしてアイニィ達三人のダークエルフに首輪の解除法を学ばせ、先日救出に向かわせて無事保護した。


 ヴェーダの指示とハイエルフ五人衆が居れば、既に死属性拘束や即死トラップは恐怖の対象ではない。今後、人類の皇族や王族は、隷属魔道具の改良や術式の研究開発に忙しくなるだろう。



 そう言う事で、話を戻す。


 ダークエルフやエルフと言った魔力の高い種族は、体内に宿す魔核の体外魔素吸収が著しい為、大気中に含まれる魔素量の多い場所に住む必要がある。


 例えば、魔窟やダンジョンの付近はどこも大気中の魔素が豊富だ。


 魔素放出量はダンジョンや魔窟の成長度合いよって大きく異なるが、生まれたての超低難易度魔窟であっても、その周囲半径約100km圏内は新鮮な魔素で覆われている。


 魔力の高い魔族達は自然とその周囲に集まるわけだが、如何せん魔窟やダンジョンの周囲は人類の街『迷宮都市』が出来上がっている。


 こうなると魔族達は近付けず、魔素放出の中心地から最も近い安全な場所に腰を据えるが、高確率で人類に発見されて集落を滅ぼされる。


 その際、【影沼】を扱えるダークエルフと、夜間はほぼ無敵の上に身を隠す能力に長けたヴァンパイアだけは生存率と逃亡成功率が異常に高い。


 敵襲を察知した時点で、ダークエルフ達は家族や自身を影に沈ませて逃亡を図る事が出来る。


 しかし、魔術封じの手段を用意されてからの不意打ちや、隠密スキル等の身を隠す能力で不意打ちされると、【影沼】や三属性魔法を駆使する事無く隷属魔道具を装着されて捕縛される。


 そういった不幸は少なくないが、それでも彼らを捕縛する事は至難の業と言っていい。


 長命で魔力の高い魔族は数が少ないので、集落の発見も難しい。


 そして、エルフとダークエルフは、排卵・受精・着床・妊娠までに掛かる日数が人間の約五倍、妊娠から出産までの期間は六年と長い。


 一組の夫婦が一児を儲ける為には最低でも六年以上必要となる為、両種族の年間人口増加率は極めて低く、必然的にこの世界で最も数の少ない魔族となった。


 実際は純血種ヴァンパイアの方が少数だが、彼らは生気を失った劣化同族を量産出来るので除外する。人類も含めて最も少ない種族は俺。


 皮肉な事に、その少数魔族であるエルフとダークエルフは、両魔族の有用性を知った人類によって虐殺の対象から捕縛の対象に変更され、絶滅の憂き目から免れている。


 しかし、ダークエルフはヴァンパイアに次ぐ逃亡成功率を誇る『逃げ巧者』、エルフとは違って奴隷落ちする者の数は極めて少ない。


 一般奴隷ダークエルフが少ない理由は以上だ。

 軍属としてなら多少は増えるが。


 ちなみに、純血種ヴァンパイアは【闇の湖】と言う【影沼】の上位互換魔術を扱える。その効果範囲も威力も桁違い。


 こちらは元祖逃げ巧者、彼らの存在もメハデヒ王国北部では確認出来ていない。


 俺達が確認出来なかったダークエルフやヴァンパイアが闇に潜んでいるという可能性は有るが、身を隠せると言う事は囚われていないと言う事だ。そんな彼らを人類の輸送手段として数える必要は無い。



「って事は、闇魔法以外の収納魔術を扱える者の数と、異次元袋などの魔道具所持数が敵の輸送能力を測る鍵になるな」


「王国の人間共は異次元袋なる魔道具に『生き物』は入らんと思っておる、今現在も蟲を使って観察しておるが……国の大事と言うのに、北部への兵士輸送はノンビリ徒歩だ。我々とは違って兵と軍用動物は異次元袋での輸送対象から除外していい」


「そうねぇ、あとは……翼竜の数かしらぁ、『翼人』は関係無いわねぇ」



 兵と軍用動物を輸送対象から除外していいと言うカスガ、その二つを除外すると『普通の物資輸送』だ。


 大部隊を密かに万全の状態で展開させるといった事も出来ない、収納魔術使いや異次元袋がいくつ有っても『物』以外の輸送量は増えない。


 輸送される物資に大量の魔導兵器や銃火器等が含まれる場合、それを敵陣に運ばれるのも奇襲で大量に放出されるのも厄介だが、魔導兵器も銃火器も数が少ないので現実的に難しい。


 大型魔導兵器は一国に数個、大量破壊魔導兵器に至っては所持していない国の方が多い。


 無論、魔導兵器以外の危険な武器も存在するが、ほとんどが勇者専用武器なので、その数はもっと少ない。


 ダンジョン産異次元袋も魔導兵器ほどではないが少ない。三皇五帝の最高難易度ダンジョンでの入手か、異世界人に作成を依頼するしかない。しかし、技術力の高い国では異次元袋の類似品開発に成功している。


 収納出来る物の重さに制限は無いらしいが、魔道具の種類によって収納出来る体積が変わる。平均して2立米、2千リットルの水が入る大きさだ。


 劣化袋の量産にはまだ至っていない、しかも高価だ。だが、ダンジョン産の異次元袋よりは入手し易い。


 とにかく、人類は物資を大量に詰め込む『コンテナ』は確保している。


 次に重要となるのは輜重車、荷車や幌馬車といった運搬車両などだが、メハデヒ王国ではこれらを軍で多用しない。


 コンテナである異次元袋を所持した者は馬か翼竜に乗って移動する。辺境伯率いる領軍では馬だった。


 敵は大量の物資を空輸という手段で運搬出来るわけだ。

 アカギはその点を踏まえて『翼竜の数』を挙げ、『翼人』を除いた。


 翼竜は両腕が翼となった『竜』の亜種、背中に翼を生やした『飛竜』とは別種で、強くても中級下位の亜竜である為、飛竜に比べれば格段に従魔化し易い。


 しかし、メハデヒ王国ではハイジクララ山脈にしか生息していないので、王国内の冒険者や兵士による捕獲は厳しい。


 その上、クララ山脈に棲んでいた群れの一つは俺の眷属となった為、捕獲出来る機会は大幅に減った。


 もう数日経てば山脈のワイバーンは全て俺の眷属になる予定だしな。頑張れシムラ!!


 シムラにもお嫁さんを探してやらないとなぁ、メスの多くはヤスシに取られたっぽいし、リュウちゃんはお奥さんとして不安が残るし……



 ……いやいや、シムラの事は後で考えよう。

 翼人だ翼人。次のテーマは翼人です!!



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