第115話「白目だけじゃない、尿漏れも、だっ!!」




 第百十五話『白目だけじゃない、尿漏れも、だっ!!』





 人類の、とはいかないが、少なくともメハデヒ王国軍の兵站と輜重兵に対する情報は、長年にわたって王国と対峙してきた妖蟻族や妖蜂族の蟲による諜報活動で入手したものと、ヴェーダを擁する俺達が入手した情報の二つがある。


 妖蟻と妖蜂の眷属が得た情報はヴェーダが全て把握しているので、重複する情報や誤認識、誤解や食い違った情報など、与えられた情報によって俺達が混乱しないようにヴェーダが一旦纏めて整理し、脳内やステータス表示欄からいつでも閲覧出来るようにした。


 不要と思われる情報も一応閲覧出来る。


 早速、整理された情報をステータス表示欄から閲覧していたカスガとアカギが、感心しきった様子で唸った。



「……お見事。さすがは姉上様よな」

「そうねぇ、こんな報告が上がってきたら……」


「私ならコレを纏めた者を諜報部には置かん、内務卿に据えて国内行政を任せる」


「名案ねぇ。見てこの数字、知らなかったわぁ。ほらココも、人間と軍用動物の年齢・性別・体格別に分けられた一日平均糧秣消費量と費用、分かり易いわぁ。従軍民間人の項目もあるわねぇ、それにコレ」


「ん? あぁ、こちらも妖蜂語と魔族語併記だ。恐らく、念じればどのような言語でも併記されるのではないかな?…… ほら」


「あらヤダ本当、スゴイわねぇ~」



 二人は何やら楽しそうだ。


 左右からカスガとアカギに寄り添われ、間に挟まれた俺は黙々と石を食べながら脳内で情報閲覧。


 ん?

 今食べたミスロリ銀は甘いな、あぁ、精錬済みのヤツか。

 美味い、が……昼間食べたミスロリ銀鉱石の方が栄養有りそう。



『鉱石、鉱石から還元製錬した金属、それを精錬した金属、この順に栄養価が下がります。自然金はその限りではありません。鉱石に限らず、未加工の鉱物ほど栄養価は高いとお考えください』



 なるほど。

 鉱石のまま食べた方が良いな。

 今度は宝石食べてみよう、原石。


 ちなみに、今の俺はゴリラ状態です。石を食べ易いので。


 そんな感じで石をポリポリ食べながら、他の四人を見てみると、メチャとラヴはアカギ達と似たような遣り取りをしている。こちらも楽しそうだ。


 イセとトモエは姉の隣に座って瞑想状態、そこに隙はまったく無い。


 トモエは脳内閲覧をしているようだが、イセは鼻提灯を膨らませている。彼女はあの状態で知識を蓄える事が出来るらしい、睡眠学習かな?


 そろそろ討議を再開しよう。

 討議と言うか、俺の矯正会だな。



「ヴェーダの纏めを見ると、メハデヒ王国の兵站と言うか『軍事』に関する大まかな全体像が浮かんでくるが、とりあえず『輸送』に焦点を当てよう。輜重兵科は存在しないので、『輸送兵・輸送隊』として扱う」


「よかろう、では輸送隊に関して我々が確認している事を挙げていこうか。トモエ」



 カスガの急なキラーパスだ、大丈夫かトモちゃんっ!


 しかし彼女は動揺する事無く、ゆっくりと目を開き、華麗にボレーシュートを決めた。今日は一度も俺の方を見てくれないね、君。



「メハデヒ王国軍北方騎士団、並び軍属に人間の『影沼使い』は居ない。軍以外でも同じだ、人間や獣人が【影沼】を扱ったという情報は得られていない。ヴェーダ姉様がお纏め遊ばした情報通りならば、メハデヒ王国北部に居る人類で【影沼】を扱える者は存在しない」



 ん?

 疑問が湧きました。



「人間も獣人も【影沼】使えねぇんじゃねぇのか?」


「だ、旦那様よ、今は、情報の確認で……」

「ナオキ、推測はマダ、だよ?」


「あ、イセお早う。そうだな、今は正確な情報の確認だ。スマンなトモエ」


「別に……ぃぃ」



 トモエはそう言って再び瞑想に入った。


 ダブル妹にツッコまれて反省っ!!


 ところでトモちゃん、頬が赤いので可愛いが、君はいつ、どうやって、俺が今まで持っていたコップを奪った?


 何故その中身は空なんだ? いつ飲んだ?


 輸送隊の事より気になるじゃないか……


 とりあえず、喉が渇いたのでングッ……ン、ン……!?

 ……これは、妖蟻酒!? 何故、俺の口に酒が……ッッ!!!!


 なっ…… なん、だとっ!!


 イセ、君は何故、唇に『小石のつぶ』が付いている?

 その手に持つ妖蟻酒の壺、いつの間に封を開けた?


 何だこれは、彼女達の動きが見えなかったのか……



『これが、能力差と言うものです』



 バカな、圧倒的じゃないか……(白目

 彼女達は今まで本来の『力』を見せていなかったのか?



『能力を誇示する者も居れば、彼女達のように隠す者も居ります。人類も同じです、身体能力値の改竄、スキルや称号の隠蔽、ステータスの不可視化……能力を隠す者達の多くは、国家機関による召集を避ける傾向があります』



 あぁ、なるほど。

 表には出て来ない『影沼使い』も居る、かも知れないって事か。



『如何にも。無論、私に隠蔽等の誤魔化しは通りませんので、能力を隠した者が現れた場合は即座に看破出来ます。しかし、“今のところ”そのような者は居りませんでした』



 解った、影沼使いは居ないと判断するにはまだ早かったな。

 能力を隠すヤツの存在も頭に入れておくよ。ありがとう。


 って、お前がイセとトモエに何か言って、さっきのアレやらせたのか?



『いいえ、先ほどの行為は彼女達の趣味です。ちょうど良いタイミングでしたので、貴方の為に活用させてもらいました。妹二段活用です』


「そりゃどうも」

「ん? 何だその顔は、姉上様に叱られたか?」

「あらぁ~、悪い事したのぉ?」


「まぁ、そんなところだ」



 カスガとアカギに頭を撫でられながら、反省っ。


 隠蔽スキルなんてモノは初耳だったが、そんなモノが無くても能力を隠そうとする奴は必ず居る。俺だって必要が有れば隠す、いや、身を隠す。


 自分の立場で考えれば当たり前の事。

 逆に、目立ってナンボと言う考えの奴も居るだろう。


 人の行動原理は様々、枠に嵌めて考えるのは危険だ。

 俺が理解出来ない事、納得しかねる事、そんなモノは相手に関係無い。


 その辺りを念頭に置いて、もっと視野を広げる必要がある。



『……隠蔽スキルの事も教えましたが、また鼻ホジ状態でしたね』



 ゴリラww鼻ホジりすぎワロタw



『笑えませんが』



 たはーっ……


 だってさぁ、隠蔽とかさぁ、ヴェーダが見破るじゃん?

 そうなると俺的にはどうでもいい感じだったんじゃないかな?


 俺とお前はいつも一緒じゃん?

 いわゆる密接不可分ってヤツじゃん?

 最高の相棒が一緒だとねぇ、気が緩むんだよねっ!!



『……フム、宜しい』


 



『『チョロし』』

『『遺憾を覚ゆ』』

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