第114話「悪い女王蜂っ!!(出オチ」




 第百十四話『悪い女王蜂っ!!(出オチ』





 異次元袋に生物が入らない。

 人類はそう信じて疑わないようです。

 僕は戸惑いでついうっかりカスガの胸を触ってしまったのです!!



「……愚か者。あとで、な」



 と、胸元で囁く悪い女王蜂。ハァハァ……


 断腸の思いで魔王をいさめ、比較的どうでもよくなってきた異次元袋の話に戻るのです。



「オカシイぜそれ、お前と出会った時にテント収納してただろ、森でテント広げれば裏に小さい虫とか付いてるかもって誰も思わねぇのか? それ以前に…… おいヴェーダ、皆に細菌とか、微生物の事を教えて差し上げて」


『了解しました。少々お待ち下さい』



 ヴェーダの脳内授業が開始。

 終始笑顔だったカスガと、鼻風船を二回作ったイセを除き、細菌や菌類の画像に皆が驚いていた。


 皆が微生物の存在を知ったところで俺の話を再開。

 カスガとアカギ、そしてラヴは、俺の言わんとする事に気付いた様子だった。



「つまり、生物が入らんも何も、れてるだろうがって話だ。別に微生物だけに限った話じゃない、ラヴも蟻が入っているのを見てそう思ってたんだろ?」


「そうですね、私の頬を張った騎士も【影沼】の中に婚約者から貰った『観葉植物』を鉢ごと入れておりましたが、蟻が巣を作っておりました。あの男はそれを知っても矛盾に気付かず放置しておりました」


「クックッ、愚かよな。人間共には蟻が木偶デクにでも見えるのか、それとも【影沼】に入れる事の出来る生物を何らかの基準で分けておるのか…… フッ、小虫の事はさて置き、奴らは微生物を意識しておらんよ、存在を知っておったとしても小虫以下の生物に『生命』の有無を問わんさ」



 基準を設けて分ける、か。

 どちらかと言えば『蟻が木偶に見える』の方じゃないか?


 それに、カスガが最後に言った言葉が答えだと思う。

 生命の有無を問わない、小さな虫を生物として認めていない、つまり『物』であるから異次元袋や影沼に収納出来ても不思議に思わない。


 だとすると、やはりカスガの言った『基準を設けて分ける』が出てくるな。


 どこからが『生物』であるのか、蟻と蜂は大きさがかなり違うが、蜂が収納出来ても驚かないのか、昆虫全般は驚かないのか、基準が分からん。


 しかし異世界人は生物収納を試さなかったのか?

 魔族や獣人を実験に使う事にサイコが躊躇するとも思えんが……


 これも“世界”が定めた仕様か?

 強力な異世界勇者には結構なハンデが付いているしな……

 最初から『生物は入らない』って認識させられている?

 ついでに『入ったとしても認識出来ない』もか?


 いや寧ろ『入れたくない』の方がしっくりくるな……

 そうすりゃ試す事もしないだろうし、う~ん……


 駄目だ、憶測の域を出ない。

 軍事に関わる事なだけに重要なんだがなぁ……


 分からん!! ただ単に人類の低能化が酷いだけかもしれん。


 この話はもっと情報を集めてからだ。

 今は微生物の話に戻ろう。



「とにかく、人類が微生物の存在を知らないという事も考えられる、恐らく知らんだろう。しかし、異次元袋の制作者である勇者は微生物の事を知っていると思う。嫁や義父の辺境伯に教えたかどうかは知らんが」


「でもナオキさん、勇者……異世界人共は皆『さいこぱす』であると、偉大なる姉上様が仰っていたじゃない。彼らは『阿呆』ではないの?」


「いやいや待てアカギ、サイコはクソだけどアホじゃねぇよ。アホでも気が触れた者でもないから社会に溶け込んで誰もその狂気に気付かない。だからサイコ野郎の周囲では事件が頻発する」


「ふぅ~ん、自分の狂気を隠すわけだから、どちらかと言えば狡猾で頭は回る方ねぇ」


「頭の回転と知識とは関係無いかも知れんが、嫁を貰える歳の人間なら微生物の存在は常識として知っているはずだ」



 俺がそう言うと、俺の右隣りに寝そべっていたアカギは「そっ」と言って肩を竦めた。


 そして、俺の左頬を撫でながら頬笑みを浮かべるカスガは、アホな俺の思い込みを正す。



「その常識と知識は、お主の前世で得たモノであろう? 異世界人共は皆お主と同じ世界から来たのか? 以前お主が申しておった『同郷の転生者』と思われるチョーは、お主と同じ常識や価値観を持っておったか?」



 まったく、俺の周りに居る女衆は……

 駄目男矯正師ばかりだな、惚れ死にさせてぇのか?



「あぁぁ、また下手打つところだった。有り難うカスガ。そうだな、微生物を知らない世界の人間かも知れんし、自分用に新たな常識を構築するチョーのようなヤツだっている。異世界人が皆似たような知識や常識を備えているという証拠も根拠も無い。ヴェーダ、異世界人の出身って、分かるか?」


『限定出来ません。ご質問の答えにはなりませんが、アートマンから送られる知識の中に、この惑星より文明レベルの低い惑星は存在しません、一応申し上げておきます』


「そりゃ……何とも言えねぇな。文明レベルがこの世界より高くても、微生物の存在を知る手段が有るとは限らん。それに、微生物が存在しない世界だって在るかも知れん」


『微生物が存在しない世界は神界のみです』


「それなら、手段の有る無しが奴らの常識と知識を判断する手掛かりだな」


「フフッ、ナオキよ、その話に答えは出らん。全ては憶測、異世界人の脳内事情など今は捨て置け。“世界”とやらの設定も何やら臭う。我々が今討議すべきは人類が持つ輸送手段とそれに関する奴らの認識だ」


「おっと、そうだな。現状で俺達が分かっている事から片付けようか」


「それに、我らが偉大なる姉上様は何か心当たりがおありのご様子」


「えっ、マジで?」


『推測ですが、昔の勇者が信じた常識が一般化されたかと』



 何だそりゃ……

 勇者の常識? 生物が異次元袋に入らない常識?


 俺みたいに決めつけた奴が居たのか?

「生物は入らないっ!! (キリッ」的な感じ?

 プークスクス、だっせ。俺もでした。ブーメランでした。


 カスガの顔を見てみる。「慣習として根付いたか……」と呟いてます。


 あぁ、生活上の伝統として教えられると……

 有り得るかもなぁ。


 さらにアホ化と他生物への関心の低さ、さっきの話と合わせて考えると、当たっているような気がせんでもない。



「召喚された時に“世界”から『入らない設定』を頭に入れられてたら、当たりじゃねぇか?」


『確証を得るには、世界各地の勇者に関わる話を収集する必要が有ります』


「そうだよなぁ、まぁ敵の人員輸送が貧弱なのは確かだ。今はそれが分かっていれば良しとしておこう」



 そのうち情報は集まってくる。俺達はまだ長城の外に拠点の一つも持ってないしなっ!! まだまだですわ。


 ヴェーダと蟲達が集めてくれた情報は、その精度や質、信頼性が高い。その収集された情報と、俺達が現場で見聞きした情報を合わせ、決定的な証拠や納得出来る根拠の伴う答えを探し出す。


 今はそれでいいさ。




 時刻は午後九時を回ったところだ。


 今夜中に俺がアカギとカスガの考えを聞きたい問題は三つ。

 輜重兵や兵站、ダークエルフの事などが最初の一つだ。




 夜はまだ長い、じっくり御教示願いたい。




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