第100話「僕は宣言するのです」其の二



 第百話『僕は宣言するのです』其の二





 妖蟻皇帝と妖蜂女王を両脇に侍らせ、酌をさせるゴリラ。


 そう、すなわち俺の事、だっっ!!


 彼女達の立場を理解している俺としては、少し落ち着かない。

 酌を受ける度に氏族長達が何らかの反応を見せる。正直ウザい。


 俺は謁見の時からずっと大猩々状態でアカギとカスガに挟まれている。


 彼女達に「ここへ座れ」と手招かれ座ってみたものの、俺のソファーが二人の物よりデカい。大きな蟲腹を持つ二人のソファーよりデカかった。


 その時点で二人より目立つ。俺への注目度が上昇した。見てんじゃねぇよ、ぶっ飛ばすぞ?


 二人は現在、蟲腹以外を俺のソファーへ移し、自分達のソファーには蟲腹しか乗せていない。贅沢な腹置きだ。


 ベッタリ寄り添われている状態の俺を見て、氏族長達が何やらコソコソと話している。あ、ジャキがそのコソコソ話に加わった、アイツはあとで説教だ、柔道式のな。


 何でアイツはあぁなのかな? 小物臭がちょっとね、アレだよね。



 などと考えていたら、カスガが「婿殿に酒を」と侍女を手招きした。


 俺への注目度がイセとトモエを超えて天井を突き破った瞬間だった。これが『天井突破紅蓮カスガ』と言うやつか(混乱)。


 すかさずアカギが皇太女シナノ(十二歳)を呼び、「お父様に酌を」と言って娘に酒を渡し、室内の時を止めた。これがアカギの最強スキル『ザ・ワールド皇太女』と言うやつか(錯乱)。



「お父様、どうぞなのじゃ」

「お、おぅなのじゃ?」



 さすがの大猩々も、イキナリお父さん呼びするロリっ子にキョドってしまった。


 そのクッソ可愛いのじゃロリフェイスと小さな蟲腹が俺を狂わせる。


 シナノがお猪口ちょこいだ妖蟻酒をグビッと飲み干し、ゴリラは優しく礼を述べる。


 好い男ってのは、たとえそれがクッソ可愛いロリっ子であったとしても、酌をしてくれた女性にはレディーとしての対応で返礼する。返礼したいんだが……


 ……あぁ、この子あれだなぁ、ビ・アンカ臭がするんだ……


 妖蟻帝国は大丈夫なのか?

 この子さっきから「にぱ~」って笑ってるんだよ。

 ハーピーよりほわほわしてるよこの子……やべぇよ。


 気付いたら、俺は皇太女シナノちゃんに、FPでお菓子セットを購入していた。ば、馬鹿なっ!! やはりこの子、放ってはおけんぞ……っ!!


 ってか、そんなお菓子セットは無かったのに……あ、ママンですね、有り難う御座います。あふん。


 とにかく、シナノちゃんにお礼を。



「ありがとう、美味しかったよ……」

「えへへ、お菓子貰ったのじゃ!! 有り難うなのじゃ!! チュッ。ではお父様、またあとでなのじゃ。ばいばい」



 ちゅうしてもらったのじゃ。益々放っておけんな。


 そして時は動きだす。



 ミギカラが勢いよく立ち上がり万歳を叫んだ。

 うん、どう考えてもお前サクラだろ。ヴェーダにバンザイ仕込まれたな?


 これほど分かりやすいサクラを初めて見たわ俺。

 お前キングだろうが、もっと威厳を保てよ!!

 ウインクしてくるんじゃねぇよ、『やってやりました』感がムカつく!!



「帝王の御結婚を祝して~、バンザーイ!! バンザーイ!!」


「ブヒ? 兄貴結婚すんの? 誰と?」

「……兄者の左右に御座おわす方々だ、多分」



 氏族長達が立ち上がってミギカラに倣う。

 ラヴも笑ってバンザイ、コイツもヴェーダから聞いていたのか。

 非眷属のジャキとレインは知らなかった様ですね、何か可哀そう。


 アカギとカスガ、トモエとイセが俺に顔を向けて微笑む。


 俺をここに座らせたのはこの為か、やってくれるぜ。

 元々そのつもりだったから結婚するのは構わんが、発表に今日を選んだ理由は何だ?


 氏族長達を前にしての結婚宣言は、浅部を俺が纏めると印象付けるには打って付のシチュエーション、対魔竜戦に備えて早急な纏まりを欲したからか?


 それだけじゃぁないはずだ、俺に相談しなかった事に関係しているのか?



『貴方に何も言わなかったのは、単なるサプライズです』


「早急な結婚は何の為だ?」


『貴方の推察通りです。それに加えて、眷属がそれを望みました。彼らは貴方の死を最も恐れます、その血脈が途絶える事など想像したくもないでしょう』


「それは…… 解るが、そう簡単に俺は――」



 死なんぞ、そう言おうとした俺の口を、カスガの細い指が塞いだ。



「ナオキ、私の兄や妖蟻の先帝陛下はそう言って人間と戦い死んだのだよ。ナオキ、それは驕りだ、先の戦いでお前も解っただろう?」


「あぁ……そうだった、その通りだ、驕りだ」


「トモエやイセ、そしてお前の様に我々は強くない、特に南浅部の魔族はその事を重々承知している。そして命が突然奪われる事も知っている、しかし、奪われないように出来る存在を知ってしまった」



 カスガはそう言って俺の鼻を指先で突いた。

 アカギが俺の左腕を抱き締め、肩に頬を擦り寄せる。



「ねぇナオキさん、希望が無くなると、凄く辛いのよぉ~」

「ナオキ、弱い我々に希望を与えてくれないだろうか」


『眷属達が欲するのは、貴方が昨夜出した“正解”の否定。即ち、“途絶えない夢”です』


「……俺が死んでも、夢を追えるようにしておけば、アイツら、泣かねぇか?」


『夢を追う手段や希望が無い状況よりは、流れる涙も少ないでしょう。偉大なる帝王の死を嘆かぬ眷属など居りませんが』


「子は希望だナオキ。いつの日か帝王の子が生まれる、いつの日か帝王の子があとを継ぐ、いつの日か帝王の子が…… 夢を追う手段の一つとして子を利用していると言われても否定はせんよ、ただ、我々はお前を失うのが怖いから、安心したいのだ」



 カスガが少し悲しそうな顔で微笑んだ。


 そんなツラ見せるなよ。

 子供を利用してるなんて思わんし、夢を見せておいて放置、なんて事もしない。


 夢を追い続ける手段は幾らでもある、カスガやアカギはそれも承知している。


 しかし、眷属達が欲しているのは俺が“今すぐ”用意出来る手段、確実に俺の子が出来るという保証、夢は覚めずに追う事が出来るという希望であって、俺が死ぬまでに用意すればいいというものではない。


 領軍との戦いで見せた俺の『死に対する驕り』は、彼らに夢が覚めるという危機感を与えてしまったのだろう。


 俺が眷属の主としてその感情に気付かなかったという事は、彼らは本能的に危機感を覚えていたが、まだ意識していなかったという事だ。


 だがヴェーダは気付いていた、俺の寝ている間にこの話を皆にして子作りの決を採った感じか。



『お察しの通りです』

「いい手際だよ、相変わらず」


『それで、答えは出ましたか?』


「答えも何も、ただ俺は結婚を早める理由を知りたかっただけだ」


「ほほぅ、ならばナオキよ、早ぅプロポーズ致せ」

「あらやだ、まぁまぁ、恥ずかしい、どうしましょぅ」


「いや待てお前ら、それは後日改めて、然るべき場所で然るべき時に言わせて貰うよ」


「フフーン、左様か、なるべく早ぅ頼むぞ」

「そうねぇ、早くしてねぇ」


「ああ、そうする」



 彼女達にそう約束した直後、イセとトモエから意味ありげな視線を送られた。


 あぁぁ、この二人もかぁ。

 まぁ、望むところだな、構わんよ。


 俺を見つめて頬を染め、自分のお腹を撫でるメチャと、物凄い笑顔で近付いて来るラヴに苦笑を浮かべつつ……いやいや、メチャの反応おかしいよね?


 ま、まあいい。

 とにかく今日の本題に入った。


 俺とカスガ、アカギの三人で氏族長達に新国家樹立を告げる。



 ガンダーラは妖蟻帝国と妖蜂王国を併合。

 妖蟻・妖蜂両国の制度や元首はそのまま、ガンダーラ内の国家として維持。


 国家連合形式の連邦と言ったところだな。


 これを聞いた各氏族長は俺を主と認め、氏族総眷属化に同意。


 本日を以って大森林浅部全域はガンダーラの領土となった。

 国の主体は妖蟻族の地下大帝国だ。




 斉暦元年、九月一日。

 俺は浅部統一と『ガンダーラ地下大帝国(仮)』建国を宣言した。




 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る