第99話「僕は宣言するのです」其の一
第九十九話『僕は宣言するのです』其の一
実に複雑な気分である。
現在、俺は妖蟻帝国の皇城アリノスコ=ロリ中層に在る『迎賓の間』に居る。
妖蟻族は椅子に座ってテーブルを囲むと言った風習は無い。
分厚い絨毯の上に脚の短いテーブルを置き、丸い座布団の上に腰を降ろしてテーブルを囲む。
例外は皇帝のアカギだけだったが、現在の彼女は蟲腹がコンパクトになった事で、公務の時以外は玉座から離れ、巨大なベッドかソファーの上で横になるようになった。
その点はカスガも似ているが、彼女の場合は寝る時以外に玉座から離れる事は無い。移動出来るようになった今でも、彼女は背筋をすっと伸ばして半日以上玉座に座っている。王の鑑だな。
この『迎賓の間』にはそんな彼女達の席も用意されている。
彼女達が座る、と言うか寝そべる場所は当然の如く上座。
室内の最奥に在る皇帝専用の数段高い場所、その壇上に巨大なソファーが三つ並べられ、向かって左からカスガ、俺、アカギが並んで座っている。
そう、何故か俺が中央に座り、なおかつ女王と皇帝から酌を受けている。
カスガの背後にトモエ、アカギの背後にイセ、俺の背後に半泣きのメチャ。これは何の罰ゲームだろうか、メチャが不憫でならない。
この大広間には皇太女と女帝候補の二人、彼女達の護衛三人、そして浅部に居る氏族長達が全員招かれている。
氏族長の数は百一名。
ドワーフとエルフから二名、ダークエルフの代表としてラヴ、この五名も百一人の中に含まれる。ジャキも南都ブロンソン氏族長としてミギカラやレインと共に招かれた。
招かれた氏族長の半分以上はゴブリンとコボルトだが、彼らの多くはキンポー平原の戦いに従軍した猛者なので、侮る者は誰も居ない。
むしろ、キングやメーガナーダ等の逸材を輩出したゴブリンには尊敬の眼差しが向けられている。
レインやジャキの偉容にも注目は集まるが、やはり壇上のイセとトモエは別格だ。
俺が浅部に現れる前から有名だった彼女達は、眷属進化による爆発的な能力向上で、それまで以上に大量のフェチモンを周囲に撒き散らし、その身に宿る魔核から尋常ならざる魔力を漂わせ、マハトマ種となって美しさに磨きが掛かり、そのアイドル性を一介の魔族では手の届かない所まで高めてしまった。
さらに、毎日飲用しているマハトミンCと、愛用している美肌セットのお陰で、二人の姉も含めて彼女達は四十路とは思えないピッチピチの外見。おまけに贈答用アムリタで不老長寿。
トドメに彼女達が持つ神の武器だ。
トモエのジャマダハルと、イセの
トリシューラは大盾と一緒にアハトマイトでアートマン様に造って頂いた物で、盾はアカギにプレゼントした。
自分と姉カスガのジャマダハルを腰に差しているトモエと、右手にトリシューラを持ち、左手に大盾を構えるイセ。神々し過ぎて氏族長達は二人の顔を直視出来ない。
そんな二人の間に挟まれた村娘メチャの心中は察するに余りある。ハッキリ言えばムゴイ。
しかも、ツバキが用意してくれたドレスを着なかった彼女は、この状況下で柔道着を着ている。新品なのが救いだが、俺の両目からしょっぱい水が溢れそうで困る。
こんな状況になると知っていれば、俺がアートマン様にお願いして何か良い感じの服を賜ったのにっ!!
メチャの衣装はあとで何とかするとして、問題は俺が座っている位置と境遇だ。
アカギとカスガに挟まれ、二人に寄り添われながら酌を受けるという現状。
プライベートな空間なら悪くは無いが、格上の二人が格下の俺に公の場でこういう態度をとると言うのは、魔族社会ではタブーのはずだが……
大人しいイセはともかく、カスガに酌をさせる俺をトモエが無視し続けているというのは、オカシイ。
どうもカスガとアカギが共謀してこの状況を作ったように思える。
大森林の覇者である魔竜を除いて最も権力を持った存在は誰かと問われれば、浅部に住む者は皇帝アカギの名を挙げるだろう
次点で女王カスガだ。そこに中部や深部に住むエリアボスの名はない。
浅部以外に住む魔族ならば、深部を東西に分けて支配する二人のエリアボス名を挙げるはずだ。
しかし、浅部の魔族はアカギ、またはカスガを挙げる。
魔族社会は力こそ正義、故に、イセとトモエを従え巨大な軍隊を所持するアカギとカスガの名を迷い無く挙げる。
先の戦いやガンダーラの現状、そしてアートマン様の加護を知った浅部の魔族達は俺の力を理解し、俺が一目置くイセとトモエの力を改めて思い知った。
イセとトモエを密接不可分の存在として常に侍らせる妖蟻皇帝と妖蜂女王。浅部の魔族はそれを理解しているので、中部や深部の実力者から最高権力者を選出しない。
それとは逆に、眷属進化した妖蟻と妖蜂の実力も、イセとトモエの圧倒的な性能も知らない深部や中部の魔族達は、深部のエリアボスのどちらかを最高権力者として挙げるだろう。浅部のエリアボスなど初めから選考外だ。
え?俺? たっは~っ!! 勃起ゴリラなど論外ですわ!!
勃起ゴリラの話は置いておく。
当たり前の話だが、四か月前の浅部魔族だったらアカギやカスガの名を挙げていない。
中部と深部の魔族というものは、浅部の魔族にとって畏怖の対象だった。
イセとトモエが強いと言っても、それは中部のエリアボスと渡り合える強さに過ぎず、深部の中級上位魔族には敵わない。浅部の魔族はそう理解していた。
そのような考えだった浅部の魔族が、今ではアカギとカスガを推す。
何故なら、彼らが今回の総避難で大森林の現況を知り、アートマン様と言う異世界神の加護を得た妖蜂・妖蟻の総合的な強さを見て導き出した答えが『中・深部恐るるに足らず』だったからだ。
その両族の長であるアカギとカスガの名を最高権力者として挙げるのは当然の事だろう。
そこには浅部魔族の身内贔屓が有るかも知れないが、決してアカギとカスガが深部のエリアボスに劣っているとは考えていない。親愛としての贔屓だ。
元々二大勢力として浅部に長期間君臨してきた妖蟻と妖蜂、かつては共に手を取り合って王国軍から大森林を護った事もあるし、大森林で対人戦の経験を最も多く積み、防衛に成功している。
そういった歴史と実績を踏まえ、浅部の魔族は昔から妖蟻の皇族と妖蜂の王族に敬意を抱いていた。
ホンマーニの
この『迎賓の間』に招かれた氏族長達の中で、アカギとカスガに話し掛けた者は居ない。皆それぞれ謁見を済ませているが、ほとんどの氏族長が自己紹介して謁見終了、その緊張した様子は見ていて痛々しかった。
レインも謁見前は威勢が良かったのだが、皇帝と女王の寝そべる御前に
それを見たジャキはクソむかつくニヤけ
跪いたジャキに、カスガが以前ジャキから贈られた斧の礼を言うと、豚骨はキョドって『漢の道』なる哲学を語り始める始末。
息は荒いし発汗がヒドすぎて、見た目は最悪のイキり豚戦士に変身。
汚い汗を氏族長や妖蟻の衛兵に撒き散らしながら、俺とのバトルが熱くて云々と、どうでもいい事を盛りに盛って話す。そもそも、発汗豚骨マンと熱いバトルになるほど拳を交えた記憶が俺には無い。
カスガとアカギは俺に視線で『説明しろ』と訴えてきた、しかし、狂った豚の思考など俺にも分からない。独演会は二十分ほどで終わったが、終わる頃には幼児退行化した子豚が居た。
俺はジャキ少年が何をしたかったのか、本当に心の底から分からない!!
まぁ、とにかく、中部出身のジャキが威光に耐えられず恐慌状態に
その皇帝と女王に酌をさせているのが私です。
ハッハッハ、参ったなこりゃー……
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