第98話「大丈夫だンほぉぉっ、問題無イクゥゥ!!」
第九十八話『大丈夫だンほぉぉっ、問題無イクゥゥ!!』
本能のみで行動するスライムは、果たして飼い主と共に戯れてくれるのだろうか?
知性が無いと扱いに困るな。
『無知性こそ人間がスライムを使役する
「それは…… 道具扱い的なアレか?」
『そうですね、汚物の処理等に使われる事が殆んどです。死体処理や殺人現場の血痕処理など、クリーナーとして重宝されています』
「なるほどなー。戦力としてはどうだ?」
『進化させて大量虐殺兵器とする者も居るようですが、魔核や素材・討伐部位など全て溶かして吸収、または著しく損壊させてしまいますので、数段進化したスライムをテイムする者は稼ぎが悪く、肥大化したスライムの居住スペース確保の為に極貧の者ばかりです』
あらら、意外と低評価だな。
弱くはないが、費用に対して効果が薄い。
そう言えば、経済学に費用対効果とか言う変な日本語あったなぁ。どうでもいいが。
そんな事より、他にスライムの有益な何かは無いのでしょうか?
「進化したら人化するとか、無い?」
『有りません。脳が有りませんので、人化しても容姿を真似た動くマネキン、もしくは冷たいダッチワイフです。場所によっては挿入したモノが溶けます』
「だよな、表面以外は溶解液だしなアイツら。体内に入れた物体が溶けないなら、接触部分が保護されているか、溶けない物質かのどちらかだ」
悪いスライムではないスライムは居ない、と言うより善悪以前の問題だった。脳が無いなら仕方ない。スライムロマンは消えたのだ!!
となれば、動物セラピーにスライムは要らんな。今のところ小さな益と大きな害しか無い。
スライム大好きっ子が現れるまでは飼う必要無いな。
糞尿も残飯もエルフ達の魔法で栄養豊富な土に出来るし、掃除は自分達でやる、無駄飯喰らいは要らん。
他の魔性生物と言えば…… この森では蟲が代表的か。
妖蟻族が飼っている土蜘蛛とか、妖蜂の蜜蜂とか、産業動物的な蟲は素直で可愛いと思うが……セラピー以外の愛玩動物的なのは、個人の趣味で飼って下さいって話だ。
ナイトクロウラーを保護して育てるなら話は別だな。
羽化したらピクシーに成るし、幼虫時代は超貴重な糸を吐いてくれる上に意思疎通も可能。どちらかと言えば飼育と言うより、魔族の子供として育てる感じか?
妖蜂や妖蟻の赤ん坊と同じように小さな個室で育てるのかな?
『マハーカダンバに張り付ければ、勝手に育ちますね。神木の葉を食べて強力な固体になるでしょう』
なるほどなー。
ガンダーラに避難して眷属化したピクシーは二十四人、アムルタートとハルワタートを合わせて二十六人居る。
ナイトクロウラーは八十八体。うち孵化して一年未満の『一齢妖蟲』は四十五体、二齢妖蟲が二十一体、三齢妖蟲が十八体、秋に入る頃に
このナイトクロウラーは全部眷属化した、つまり新種だ。
マハトマ種同士の親から生まれたわけではないが、マハトマ種として羽化するので、俺の彼らに対する期待感は相当なものになっている。
彼らが羽化し、やがてマハトマ種の番いを見付けて子を生した時、その子は眷属進化ではないマハトマ種となる。神木の葉を食べて育った子らは、もっと凄そうだ。
現在ガンダーラに居るゴブリンやコボルトの赤ん坊達と同じだ。
親より遥かに優れた資質を持ちながら、神気溢れる水や栄養価の高い食事を摂り、俺の精気と眷属の各属性高魔力を毎日浴びながら育っている。色々と期待せずにはいられない。
マハトマ種同士での子作りを繰り返すと、代を経るごとにマハトマ種の血は濃くなり、元の種族と完全に別種となるだろう。
外見的特徴も体色以外が大きく変わるかも知れない。事実、マハトマ・ゴブリンの赤ん坊は親より凶悪な面構えだ。
あ、子供達と遊ぶというのもセラピーにはいいかも知れんな。
エルフの男娼として兵舎に閉じ込められていた十四歳のアーベは、毎日ゴブリンとコボルトの赤ん坊達をアヤしている。
と言うか、毎日のように両族の女衆が子供を産むので、駐屯地の病院がアーベのホームと化した。
アーベは男の大人達と行動する事に抵抗があるようだ。
俺は眷属の主だし、彼を助けた一人なので警戒はされていない、むしろ懐かれているが、俺が居ない時のアーベは必ず女性集団の中に居る。
しかも男衆はアーベが女衆の中に居る事を誰も気付かないし、気付いても素通りです。違和感が無さすぎる。
そんな彼が自分の居場所として見付けたのが駐屯地の病院だ。
病院の職員は全て妖蜂族、患者は今のところ妊婦だけ、つまり女性と赤ん坊しかいない。
たとえ見舞いの男性が来たとしても、周囲が軍人の女性ばかりなのでアーベも安心。レベル50のハイエルフであるアーベが病院内で一番強いわけだが、それはナイショだ。
アーベは子供達に囲まれて非常に明るくなった。
これもセラピーと言えるだろう。
彼は保父さんや教師に向いているかも知れない。
子供達もアーベによく懐き、「マ~マ」と呼んで甘えている。アーベは美少年だが男だぞ、間違えてはイケナイ。俺は初見で間違えたが、あれは仕方が無い、アイツは可愛過ぎる。
最近アーベは俺の顔を見ると胸のあたりを押さえて苦しそうな仕草をする、診断した結果、健康だったが心配だ。今度一緒に風呂でも入って体を労わってあげよう。
『…………』
よせよ相棒。もう少しDONKANで居させてクレメンス。
アーベの境遇と年齢が僕をドンカーン大統領にするんだ。
『…………』
……男の娘は、すこ。
『宜しい』
ふぅ。
ヤスシの首筋を撫で、「またあとでな」と巡廻に戻る。
エルフ達と立ち話をしていたメチャが慌てて話を切り上げた。
エルフ達はこれからクララ山脈に向かってワイバーン達と狩りに行くそうだ。妖蜂の城『クララ・ガ・タッタ』や王都の周囲も視回ってくれるらしい。
彼らに「気を付けて」と言ってその場をあとにする。
水濠の様子を見て回っていたら、ナーガ族が水濠に入って泳いでいた。彼らの氏族長達には色々と話がある。
その
しっかしラミアの娘は…… スゴかった。
ラミアは女性しか居ない種族なので、全員スゴイんですけどね!!
下着と言う野蛮な文化はガンダーラに不要だと思わせてくれる素晴らしいモノだった。やはりチューブトップは要らんね。
俺はいつの日か必ず『非下着三原則』を宣言しようと誓った。
履かず、着けず、持ち込ませず。薄衣チラリズム推奨(褒賞有り)。
しかし男は下着必着、破った奴は『全裸に蜂蜜でアリの巣送り』の刑だ。ポコチンには念入りに塗ってやるっ!!
ガンダーラを一周して朝の巡廻終了。
神木の下で休憩したあと、メチャと朝稽古だぜ「呼んだ?」呼んでねぇ、寝ていろ愚息。一発殴っておく。
『王妹の映像が有』
「あ、結構です」
危ない危ない。震えながら稽古に入るとこだったぜ。
メチャが淹れてくれた麦茶を飲んでいると、空から一枚の黒い羽が落ちてきた。
二人同時に空を見上げる。
神木の太い枝に腰を降ろしたハーピーのピッピが右の翼を俺達に振っていた。
衝撃的な光景だった。
マハーカダンバは妖鳥族の巣になっていた。
可憐な真ッパ妖鳥の巣に!!「また呼んだ?」呼んでねぇ黙れアホ。
眷属化したのはピッピ達だけなので正確な数は分からないが、相当数のハーピーが神木の枝に留まっている。
マハーカダンバは樹高も太さも【世界樹】と言っていいスケールだが、その巨木に数百の妖鳥が留まるこの光景は、驚嘆すると共に崇高なものを感じる。
しかし、あれでは雨風を防ぐ事は出来ない。
彼女達の住み易い家を提供せねば……
『アートマンがマハーカダンバ上部に妖鳥族が住める“
「え~っと、それは……」
『影沼と同じ様なものです。外部の景色は監視塔のように360度見る事が出来ます。収容人数に限りは設けないようですが、一人あたり一日20MPを徴収させて欲しいとの事です。洞の維持費ですね』
「それは願っても無い。早速ピッピを呼んで伝えておこう。今日の地下帝国会議でハーピークイーンとその話を詰める」
う~ん、今日も忙しくなりそうだ。
「け、賢者様ぁ、楽しそうですねぇ」
「ん? あぁ、そうだな、楽しいよ」
「それは良かったですぅ。えへへ」
メチャも昨日の晩は落ち込んでいたが、今朝は幾分マシになっている。
彼女は俺以上にヘコんでいたからな、普段通りに戻るのは数日掛かるだろう。
しかし、メチャは恐らく眷属の中で一番マトモだ。
彼女の存在が、今後俺達が行動を起こす時の指針となるかも知れない。
色んな意味で貴重な存在だな、この子は。
さて、朝の稽古を始めますか。
先ずは寝技からだっ!!
寝技が終わったら次は寝技の応用だぞっ!!
さぁ来い!! スーハー、スーハー、上四方バンザイ!!
「あわわわっ、けけ賢者様ぁ、おっきな、キノコ様が顔にっ、ハァハァ」
「大丈夫だ、問題無いっ!!」
『御子息のバクハツまで、あと69秒です』
だ、大丈夫だンほぉぉっ、問題無イクゥゥ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます