第97話「部屋を用意して待ってな!!」
第九十七話『部屋を用意して待ってな!!』
斉暦元年、九月一日、午前三時半。
昨日、五人の英雄を天に送る為の盛大で明るい葬儀を終え、妖蟻と妖蜂の弔問使節団をガンダーラの民全員で感謝を示して地下プラットホームで見送り、再び第一砦前広場で『送別会』を開いた後、日付が変わる頃地面に寝転がって皆で寝た。
皆が寝静まると、夢の中で眷属の皆に出会った。
何も無い白い空間に見覚えがある
眷属達は当然ながら不思議現象に戸惑っていた。
以前と違うのは、マハーカダンバの周囲に植えられた花や樹木が茂っている場所が在る事だ。白いテーブルや椅子なども沢山ある。
眷属達に俺が何とか説明していたところ……
そこにヴェーダが現れた。しかも、天に昇った五人と共に。
当然驚く、サプライズにも程があるぜ。
ミギカラやウエカラ達が彼らを抱きしめ、泣いた。
五人は輪廻の船に乗り、願い通りアートマン様の護衛として転生したようだ。とても立派になっていて、眷属の皆が祝福した。ウエカラは特に喜んでいた。
シタカラ達が転生して手に入れた体は
皆の祝福が収まった頃合いで俺は彼らに謝ろうとしたが、それは違うと思い直し、「ありがとう」と深謝を告げた。五人は笑いながら照れていた。本当に有り難う。
その後、俺達は色々な話をした。
彼らがアートマン様と共に愛神の神域へ向かい、横槍事件の首謀者たる愛神を放逐し、その眷属を
スコルとハティの血族も愛神に報復したらしいが、何故、神域に二匹の血族が居るんでしょうか?
聞いても苦笑いで誤魔化された。言えんのかな?
そして、楽しかった最期の会話も終わり、眷属皆で五人を送った。
俺も皆も五人もサヨナラは告げず、「また会おう」と笑い合った。
皆が確信していた。
悲しむ者はもう居ない。
皆が前を向いていた。
散って逝った英雄に笑われないように、彼らが託した夢を背負って走り続ける。
って言うか、夢の神域ではあったが、はるか遠くにあった山脈?的なアレは、アートマン様の指先ではなかろうか?
と言う事は、俺達は孫悟空の如く神の手の平の上で――
『あれは
あ、そうですか。
デカすぎワロタ。
釈迦涙目ワロタ。
構造分からなすぎワロタ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
東の空がほんのり明るくなりだすと、眷属達が次々に目を覚ます。
俺の隣で寝ていたラヴは三人のダークエルフを伴い、既に朝の狩りへ出かけたようだ。
俺の枕と化しているハティの尻尾には、アムルタートとハルワタートがしがみ付いて寝ている。
そして今回の浅部魔族総避難で妖蜂族が保護した二十四人のピクシー達が、スコルとハティの体を覆うように張り付いて寝ていた。
この二匹は体長が10mを超えてしまったので、まだ狼と呼んでいいのか僕には分からない。ギリギリすぎて分からない。
メーガナーダの七匹も、その体長が4mを超えた大狼となっている。以前のスコルやハティより少し大きい、どこの群れに行ってもボスになれるだろう。
この七匹にはヴェーダが何か考えがあるみたいです。
ヒドイ事はしないようだし、むしろ喜ぶと言っていたので、彼女に任せる。
メーガナーダは先日の戦いが終わった後、久しぶりにガンダーラ入りした。
二度の進化を果たして戻って来たメーガナーダの七名を見た女性ゴブリン達は、精悍な彼らに猛烈なアピールを開始したが、残念な事にメーガナーダの七名はガッチガチのメチャ信者である。
彼らのハートを射止めるには、武道を学んだのち、最低でもラクシャーシーに進化して、極悪フェイスと豊満ボディを手に入れる必要がありそうだ。
そのメーガナーダの七名も、相棒の狼を連れて北浅部へ狩りに向かったようだ。彼らはヴェーダの強制目覚ましコールで眷属の誰よりも早く起床し、早々に狩りへ出かけている。
俺もボケッとしてはいられない。
先に起きて俺の髪の毛を結い上げていたメチャと一緒に井戸へ向かう。
口を
皆に挨拶して回りながら色んな所をチェック。
ボスワイバーンのヤスシが近付いて来たのでアゴの下をくすぐってやる。
よーしよしよし、グッボイグッボイ。
俺達のすぐ傍でエルフ達がワイバーンの世話をしていた。
ワイバーンと相性の良かったハイエルフ五人衆は、テイクノ・プリズナで死属性契約を進化で強制解除した十六名のハイエルフや、他のエルフ達を誘ってワイバーン達に餌を与えている。
性奴隷であったエルフ達は心の傷が癒えるまで、俺は戦いに参加させる気はない。
しかし、彼らがワイバーンに騎乗したいとか、狩猟に出たいとか、前向きに行動したいと言うのなら止めはしない。
ワイバーンと戯れながら、同族に囲まれる彼らの表情は明るい。性奴隷だった屈辱の傷は少しずつ癒えているのだろう。完全に消える、とは言えんのが悔しい。
恐らく彼らと同じ境遇の者はこれからもっと増えていく。そんな者達を最も励ます事が出来るのは、かつて同じ境遇だった彼らだ。
役を押し付けるようで申し訳ないが、彼らには心の傷を癒した先駆者として、あとから続く者達の希望や目標となって欲しい。
子供達と聖泉の水で顔を洗っているドワーフ達もそうだ。性奴隷ではなかったが、彼らもまた心身共に酷く傷付けられた過去を持つ。
彼らは『内向的ではない引きこもり』として有名だ。
根は明るいが鍛冶場に籠って鉄を打つ事が大好きな彼らは、心に傷を負って外出したくないと言う者達に、新しい生き方を見せてくれるのではないかと思う。
家屋の中で暗い雰囲気に沈むのではなく、鍛冶場や調理場などの小さな空間で明るい奴らに囲まれながら何かに集中する事で、嫌な事を楽しい出来事で塗り潰す。
そんな癒し方も有るはずだ。
たとえ『一人になりたい』と言う者が現れたとしても、一人で何かに取り組むという姿勢は、仲間達と黙々と鉄を打ちながらも自分以外の存在を遮断するドワーフ達に通じるものがある。
そんなドワーフ達の背中を見るのは、決して無駄な事ではないと思う。
傷の癒し方は様々、その人物に合った治療法でなければ効果は薄い。事によっては逆効果だったという事も有り得る。
今のうちに治療法を色々と模索していた方がいい。
例えば動物セラピー、嫌いな動物には近付かないだろうし、好きなら愛でるので分かり易い。
駐屯地のあちこちで草を食べている九百頭の軍馬、彼らは既にガンダーラの人気者だ。全頭眷属化したので大人しいし、狼達を恐れる事も狼達が襲う事も無い。
まぁ、馬達がスコルに対してビビリまくっているのは御愛嬌。たとえ眷属同士であっても威圧されたトラウマは拭えない。
それに、巨狼と化したスコルとハティは誰が見ても恐ろしい。
そんな馬や狼達の世話をして心の傷が癒えると言うのなら、全力で支援させて貰う。動物達を住まわせる
そうすれば常に動物達と一緒だ。人との関わりが苦手な者や、他人に囲まれた環境が苦痛となっている者達にもお勧め出来る場所を提供したい。
しかしそうなると、獣以外の魔性生物も動物のカテゴリーに入るのだろうか?
あのプリンとしたスライム等は、人類、獣人より人間が好んで使役するらしいが、スライムには知性が無い、本能で行動している。
そんなスライム達が飼い主と戯れるとは思えんが……
さてどうしたものか。
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