第四章
第95話「ありがとう、トモエ(震え声)」
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【注意っ!!】
第四章は推理・推察が主で御座いますっ!!
苦手な方は第108話と109話、そして閑話のみ読んで五章へ飛ぶ事を推奨っ!!
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第九十五話『ありがとう、トモエ(震え声)』
早朝から俺達を出迎えてくれたツバキ達妖蜂族の大隊。
彼女達が用意してくれた
眠り続けるメチャを愛でつつ、ツバキを先頭に駕籠の周りを囲う六百五十六名の大隊隊員を見渡し、彼女達を手配したカスガの意図に若干ヘコまされる。
これが名君とプロゴリラーの差か。
少しばかりお迎えの数が多いが、現在は大森林も厳戒態勢だ、敵を侮って眷属を死なせた男が言うのも何だが、これくらいの姿勢で行動してもらわねば困る。
この大隊を率いたツバキも、大隊での出迎え指示を出したカスガも、俺なんかよりよっぽど危機意識と言うものを理解している。
本音を言えば出迎えなど不要なのだが、俺が率いたガンダーラ軍は兵力十倍以上の敵を殲滅して“凱旋”している形だ。女王カスガや皇帝アカギにはそれを出迎える義務がある。
たとえそれが敗将の率いる不運な軍隊であったとしても、だ。
蟲を使った周到な監視警戒体制をヴェーダが大森林全域に敷いているので、出迎えに危険は無しと判断された上でツバキ達を迎えに寄越したのだと理解している。
しかし、辺境伯に匹敵する不気味さを持つ魔竜を相手にしての事なので、よしんばヴェーダの許可が下りていたとしても、簡易結界の外へツバキ達を出す事に対して不安を覚えざるを得ない。
辺境伯が俺に与えたインパクトは強烈だった。
あの男を軽く凌駕する能力と強兵を持つ魔竜がすぐ傍に居ると思うと、努めて明るく振舞ってくれているツバキ達の癒し効果も2%ほど下がると言うものだ。
美しい妖蜂族からキスと抱擁の『おかえりなさい』を体全体で受け止めた際、彼女達の瞳に映るほんの僅かな憂いを感じた。
やはり、眷属から初めて戦死者が出た事は、拠点防衛組の皆も堪えたようだ。
ツバキは戦死した五人について触れようとしなかった、ただ、抱擁を交わした時に耳元で「
その言葉には多くの意味が込められている。
俺の愚策と油断、辺境伯の意外な行動と神の横槍、そして仲間の死とその後の虐殺に至るまで、その一言に戦場での理不尽を全て詰め込み一刀両断した重い言葉だ。
それ以上の事は何も言わないが、不世出の名君カスガと長年軍に身を置いた大尉ツバキにとって、俺の戦い方はさぞ歯痒いモノだったに違いない。
ガンダーラや地下帝国で待つ眷属達は、ヴェーダを介するネットワークによって俺達や蟲が見た戦闘風景をリアルタイムで見ていた。
戦闘を見ていた者の中には、シタカラの母であり他の四人にとって祖母であるウエカラを始め、彼らの嫁や姉、妹、そしてシタカラの娘も居る。
彼女達は果たして『戦だから』と理不尽を許容出来るだろうか。
彼女達の孫や兄弟である男衆は、父親同然の伯父シタカラや兄弟・従兄弟を殺されて怒り狂い、その怒りと恨みを敵兵にぶつけた。彼らに宿った復讐心は消えていない。
俺はマナ=ルナメルの女衆に対して、男衆に感じた罪悪感とは別の物を背負う事になるだろう。
この事に関する全ての事象も、ツバキはあの一言に含めていた。
敗将の責務と遺族の思い。
未熟な俺が遺族の思いに答えを出せるのか
『大尉の言葉は大森林で育った眷属の総意です。マナ=ルナメルの女性達も帝王が
「……ガンダーラの女衆は強いな」
『皆、戦場での理不尽は百も承知、大森林で人間に狩られ続けてきた彼らは常に“死”を意識していました。辺境伯と戦う意思を貴方が固めたその時点で、死別の覚悟は出来ています』
「出来ていなかったのは俺一人、油断したのも俺一人、笑えてくるぜ」
『獣のように追われて狩られていた彼らが、敬愛する主と共に戦って人類に一矢報いる。それは彼らにとって夢想だにしなかった出来事、たとえ神による理不尽の前に斃れたとしても、獣としての死を迎えるより幸せだと信じて疑いません。それが貴方の眷属です』
「……俺には、勿体ねぇヤツらだ」
『ならば、彼らの忠義に見合う帝王になって下さい』
「ああ、そうする。必ずな」
南浅部のシンボルと化したマハーカダンバが眼前に迫る。
先行した空挺団がガンダーラの上空を旋回していた。
アイニィが何やら呟いているのが見える。
影沼に眠る五人の戦士達に、見納めとなる故郷の風景を語り聞かせているのかもしれない。
彼らが最初に造った水路に流れる泉水が、日の光を反射して煌めいていた。
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「ぉかぇり……」
「ただいま」
先頭に立って大勢の妖蜂族を従え、駐屯地の広場で俺達を出迎えたのは、腰に差した二本のジャマダハルを弄りながら決して俺と目を合わせない純情戦乙女トモちゃんだった。
これには凱旋組も全員驚いた。
レインやジャキがさり気なくポンプヘアの乱れを整え、ミギカラが無駄に生えた胸毛を
ピクシーの二人は特に畏れる事も無く、トモエの蟲腹に二人で座って「お馬さんだー」などとハシャいでいた。
その光景を見ていた多くの者達が白目を剥いて倒れたが、俺は足の指を地面に突き刺して耐えた。
ハイエルフとダークエルフ、そしてドワーフ達はトモエが何者なのか判っていないようだったので、親切なヴェーダがトモエのスペックと恐ろしさを懇切丁寧に教えた結果、全員が俺の顔を見て憐れんだ。
ヴェーダは何を吹き込んだのだろうか、気になるところである。
唯一他とは違った反応を見せたのはラヴだ。
彼女はヴェーダからトモエの話を聞いていたので、出迎えられた時は非常に驚いていたが、トモエが時折見せる俺への不自然な態度を見たラヴは、何を血迷ったのか俺の右腕に抱き付いてきた。
その瞬間、俺の耳が『パキッ』っという音を拾った。
音が鳴ったのはトモエが見つめる1m先の空間だ……
なるほど、勉強になった。
俺は知った、何も無い空間に亀裂を入れる女性が居る。
亀裂の向こうに闇が見えた、ブラックホールかな?
オカシイ、体が震える。大森林は暖かいというのに。
亀裂は数瞬で塞がったが、俺の開いた口は塞がらない。
あの亀裂は広げちゃダメなヤツだ、好い男は空間の亀裂を広げさせない。
悪い男でも亀裂を広げさせない。基本だ。
「妖蜂一美しいお姫様に迎えられたら、戦勝パーティーの必要は無くなるな。これ以上に華やかな空間を創造する
「ぁ……ゴメン、なさぃ……」
「もう少し自分の美しさを自覚してくれ。さぁ、色々とやる事がある、砦に入ろう(空間を裂かれるので)」
「ぁ、ぅん」
「さぁ陛下、参りましょう」
「お、おう。あ、トモエも一緒に――」
ラヴが空気を読まずに俺の腕を引っ張り、トモエを横切ろうとした。ブラックホールの恐ろしさを知らんのか貴様っ!!
その時、俺は可愛らしくも猛々しい舌打ちを聞いた。
俺の後ろに居たジャキが遠くへ吹き飛んだ。
ふ、不思議な現象があるものだなぁ。
俺は素早くトモエの腰に右手を回し、彼女とラヴを伴って砦に入った。
ちなみに、メチャは俺の背中にしがみ付いてヨダレを垂らしながら寝ている。
まったく、どいつもこいつもメチャのように疲れているだろうに。
トモエもラヴも周りの皆も、俺に気を遣い過ぎだ。
いつものように、普段通りに……振る舞えてねぇんだよ、大根役者どもめ。
『良い眷属達です』
ありがてぇこった。
チクショウ、ゴリラの魂じゃぁ涙が出ねえ……
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