第90話「キンポー平原の戦い」其の七




 第九十話『キンポー平原の戦い』其の七




 第三騎士団の足止めは成功。第二騎士団はまだ元気だな。

 第四騎士団は――



『ナオキさん、第四騎士団を殲滅しました。大将首はハードが上げたようです、副団長はワンポが射殺いころしました。スコルとハティは東側から第二騎士団を襲撃させます、空挺団は如何致しましょう?』


「第三騎士団は……もうすぐ終わるか、救援の必要は無いな。空挺団は結界が破られるまで上空で待機、魔導兵器の攻撃範囲に居る必要はない」


『了解しました。レインとハードが軍馬の処遇に対する指示を仰いでおります、全てラヴの影沼に沈めておきますか?』



 そりゃぁ入るならお願いしたいですな。

 しかし軍馬かぁ、って――



「ん? 南の軍馬……契約主以外の言う事も聞くのか? 空挺団は闇魔法持ちが居ないだろ」


『スコルの一吠えで服従しました、スコルが許可を与えるまで待機状態です』



 それは可哀そうだなぁ。スコルとハティはもう怪獣だからなぁ。岩から生まれて初めて見るのが今のスコルだったら、天罰ヒドすぎワロタつって、岩の中に戻るね僕。



「なるほど。それなら、ワイバーンでラヴの所まで空輸出来るか?」


『ワイバーンの鉤爪で持ち上げる事は可能ですが、十中八九馬体に爪が刺さりますので、ラヴを南に空輸した方が早いでしょう』


「じゃぁそれで頼む」


『了解しました…… テントの果実が毒リンゴでなければ良いですね』


「ハッ、そもそもアレはリンゴじゃねぇよ、『喰えねぇ男』だからな」


『なるほど』



 毒でも何でも喰ってやれるが、汚物を喰らうにはいささか経験不足だ。



 ……そんな事より、今さっき俺、もの凄くウマいこと言ったよね?

「なるほど」で済ませていいネタじゃないよね?


 よく聞こえてなかったのかな?

 もっぺん言っちゃおうかな?



『結構です。喰えない男、ですね。宜しいかと存じます。解説も致しましょうか?』



 ヤメロよ。

 き、聞いてたならヨシ!!

 



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 




 さて、スコルとハティが敷いてくれた火炎舗道レッドカーペットのお陰で、第三・第四騎士団がこちらに寄越した歩兵の邪魔は入らず、黙考しながら敵の本陣まで辿り着いたワケだが……


 辺境伯は相変わらずテントの中、第二騎士団は円陣を解いて西側に集結、テントを隠すように弧を描く形で布陣した。


 俺の姿を見た騎士達の瞳に憎悪の炎が灯される。

 さすがアートマン様の天罰、どんな時でも効果テキメンですな。


 いつの間にか俺に追い付いたメチャが、俺に罵声を浴びせる騎士達に殺気の籠った視線を向ける。


 俺に向けて数十本の矢が飛んで来た、体毛に『ポスッ』っと当たって地面に落ちた。火と土の魔術も俺に向かって放たれたが、火魔術の矢は吸収、土魔術の槍は反射した。


 結界内からの一方的な攻撃、これこそが結界や魔法障壁の真髄だろう。


 メチャにも俺と同じ攻撃が加えられたが、物理半減の上に総合力が750万有る彼女に矢が通るハズも無く、俺の眷属は火・金・土の三属性耐性を必ず取得するので、魔法騎士が放つ魔術は何の意味も無い。


 メチャに至っては水・木属性の耐性も備えているし、火・金・土の三属性は無効化出来る。彼女は魔導兵器のみ注意しておけば問題無い。


 しかし、可愛いメチャをクソ共の目に入れさせるのも不潔な攻撃に晒すのも頂けない。


 物凄い形相で敵兵を睨むメチャを少し後退させよう、何か様子がオカシイ。



「少し下がれメ――」


「に、に、人間風情がぁぁぁ、偉大なる賢者様によくもぉぉぉ、殺してやるぅぅぅ、殺してやるぅぅぅっ!!!!」



 うおおおおい!!

 待て待て待てっ!!



「ちょ、待てメ――」

『あの子の怒りは理解出来ます。見守りましょう』


「必殺っ!! 南都小林十字脚ぅぅ!! 死ねぇぇぇっ!!」



 えぇぇぇぇ……


 俺の制止を聞かずに敵陣へ飛び込んだメチャは、跳び蹴りを独自に改良した『空中連続蹴り』を前衛の騎士に放とうとしたが、見えない防弾ガラスによって阻まれた。


 結界だ。


 攻撃を阻まれたメチャが舌打ちする。結界の存在を思い出したようだ。しかし、それでも彼女は果敢に蹴りや正拳を結界に打ち込んだ。


 結界魔道具の存在は怒りで忘れているな。



『それほど貴方を慕っているのです』

「そりゃぁ分かるがよぉ……」



 彼女の攻撃は全て弾かれている、それでもメチャは攻撃を止めない。

 その様子を見ていた騎士達に嘲笑が漏れる。ナメやがって……



「殺してやるっ!! 殺してやるっ!! くそっ、壊れろっ、壊れろぉぉ!!」



“アハハハ、化け物が、無駄無駄ぁ!!”

“スゲェ顔だな、オーガの新種か?”

“だが肉付きは良いぜ?臭そうだがなぁ!!”

“あ、軍馬とヤらせるってのはどうだ?”

“そいつぁ面白そうだっ!!”

“後ろに居るデケェ怪物は従魔か? お似合いだな”



「これはなかなか――」

『イラッとしますね』

「お前もか、気が合うな」



 神の知識たるヴェーダをイラつかせるとは、大したもんだと褒めてやりたいところだが……


 拳に血を滲ませながら、必死に結界を破壊しようと頑張る眷属を、ゴミカスに笑われるってのは、気分の好いものじゃぁない。


 教育がなってねぇな辺境伯、かなり頭にクるぜ。



「アイニィィィっ!! 小石を全部出せぇっ!!」

「はっ!! 只今っ!!」



 待ってろメチャ、今すぐソイツらを蹴り殺せるようにしてやるからよ。




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