第88話「キンポー平原の戦い」其の六
第八十八話『キンポー平原の戦い』其の六
スコルとハティが大暴れしている間に、レイン隊とミギカラ隊が俺達に合流した。
空挺団はゴブリン隊とコボルト隊がワイバーンから降り、マハトミンCを飲んで効果を持続させたのち、第四騎士団の西側に布陣して空と陸から挟撃を開始した。
空挺団の救援には、南から来る獣人部隊を蹴散らしながら前進するハティが向かっている。レイン隊とミギカラ隊が北から来る第三騎士団との戦闘開始を確認後、スコルも空挺団の救援に向かう。
「よし、マハトミンCを飲んだ後、ミギカラは【雄叫び】を頼む」
「はっ、畏まりました」
ミギカラがキングになって取得したスキル【雄叫び】は、その声を聞いた仲間の物理攻撃力を十分間だけ二割上昇させる。総合力で上昇率を見ると一割程度の上昇だ。
全能力を三十分ほど三割上昇させ、肉体疲労解消と栄養補給、HPとMPを二割前後回復させるマハトミンCの効能よりも効果は劣る【雄叫び】だが、五回まで重ね掛け出来るので、実質、物理攻撃力は二倍となる。
マハトミンCの効果と合わせれば、物理攻撃力のみ130%上昇した近接特化軍の出来上がりだ。キングの影響でゴブリンだけは更に効果が上がる。
胸一杯に空気を吸い込んだミギカラが、星の煌めく真夏の夜空に向けて雄叫びを上げた。
腹にズシンと響くゴブリンキングの雄叫びが戦場に轟き、領軍の動きが一瞬鈍る。
五回続いた雄叫びが止むと、ガンダーラ軍全体から戦士達の力強い咆哮が上がり、その地響きにも似た魔族の咆哮は、馬蹄の響きと怒号が支配する闇夜を切り裂いた。
耳がキンキンするが、頼もしい気合だ。
フゥと一息吐くミギカラの肩を叩き、互いにサムズアップして微笑み合った。
ジャキが首の骨を鳴らし、レインが右腕を軽く回す。
ラヴが魔力回復薬を不味そうに飲み干し、メチャが口直しの干し柿をラヴに渡した。
メーガナーダの七名が相棒の狼達に干し肉を与え、影沼から出てきた二人のピクシーが俺の両肩に座ってマハトミンCと魔力回復薬を楽しそうに飲んだ。
三人のダークエルフ達も魔力回復薬を飲み、敵の始末と影沼の維持に努めようとする強い意思を見せる。
ドワーフ達が祝勝会で浴びる酒の話を囁き合い、リザードマン達は黙って尻尾を揺らしている。
古参のゴブリン達はシタカラの背後で整然と並び、敬愛するキングと共に戦える事に興奮しているようだ。
闇に潜む蟲達は体を小刻みに揺らして雄叫びに反応している。
ここから300mほど離れた場所で戦っている空挺団の眷属達にも、ミギカラの雄叫びは届いている。魔法攻撃を繰り返すハード達はまだその効果を発揮する事は出来ないが、弓兵のコボルト達が放つ矢には雄叫びの効果が乗るようだ。
ゴブリンとコボルトを降ろして背が空いたワイバーン達は、上空から急降下してヒットアンドアウェイの直接攻撃に移り、繰り出す尻尾の一撃や噛み付き攻撃も雄叫び効果で威力を増している。
ワイバーンの背に乗るハイエルフ五人衆は、余裕を持って魔力回復薬を飲みながら地上の騎士達に三属性魔法の魔術を放ちまくって楽しそうだ。
夜襲を掛けてきた相手が魔族であると確実に認識しているのは、今のところ空挺団と戦っている第四騎士団だけだが、その戦い方から明らかに侮りの色が見える。
憐れな奴らだ、この場に居る魔族はお前達の知る魔族ではない。
空挺団の主力であるハイエルフの五人衆はスコルとハティが来るまで全力を出さずに足止めしているに過ぎん。
五人衆が放つ最下級の魔術を防いでいる魔法騎士の障壁など、少しばかり燃費は悪いが、五人衆が1ランク上の魔術を放つだけで破壊出来る。
白と黒の魔狼がそこへ辿り着いた時、お前達は終わる。
「フフッ、よっしゃ。これから戦う相手は正規の騎士団だが、士官級は手強いし下士官級は以前のミギカラと互角程度に強く、雑兵は戦奴や獣人兵より強い。ナメて掛かると痛い目に遭う、絶対に気を抜くな」
『兵数は九千、うち騎兵は二千七百、魔法攻撃と補助も加わります。戦闘開始後は今まで以上に慎重かつ冷静に行動して下さい』
「第三騎士団と戦う時の注意点だが、騎士団の西側に張り付いて戦ってくれ。辺境伯のテントが見える位置で戦うな、魔導兵器の射線に入る事は避けろ」
「ブヒッ、回避不可能の場合はどうする?」
『砲撃準備を確認次第、私が即座に散開指示を出しますが、それでも回避不可能であると私が判断した者は、口を開けて両腕で頭部を守りながら地に伏せて下さい、個別に指示を出します。回復薬を飲んでから地に伏せると生存確率が高まります』
ヴェーダの無茶っぽい注文に皆が苦笑した。
周囲に敵が居なければ伏せる事は出来るかも知れんが、腰袋から回復薬が入った竹筒を出し、蓋を外して飲みながら防御姿勢となると…… 結構な訓練期間が必要だと思う。砲撃準備から砲撃開始までの時間がどれだけ掛かるのか分からんしな。
「一応、お前達が砲撃されないように、俺がテントの正面に立って結界魔道具の破壊に全力を注ぐが、辺境伯の行動は常軌を逸する。魔導兵器が自分を狙っているのだと事前に意識しておけば、アホが異常な行動を取った場合に起こり得る混乱や被害を少なく出来る」
「……兄者が盾になるのか」
「ブッヒ、激シブだぜぇ……」
「くっふぅ~、このミギカラ、涙で前が見えませぬ!!」
「そ、そんな、賢者様が……」
「陛下、豚の彼が盾になればいいと思うの」
男衆は何やら熱くなっているが、ラヴやメチャは沈痛な面持ちだ。
魔導兵器の砲弾程度、俺のシックスパックな腹筋で跳ね返してやるぜ?
『ナオキさん、第三騎士団が南下して来ます』
「おう、それじゃぁ行くか。ミギカラ、レイン、ジャキ、ラヴ、メチャ、常時軽めの【威圧】を放って戦え、【威圧】で倒れた敵兵は他の眷属達に狩らせろ。総合力二万超えの士官級相手には『グチャッ』っとしない程度に本気出せ、油断はするなよ」
もう暗中の光に注意する必要は無くなった。
遠慮なく大猩々化しましょうかね。
皆が見守る中、発光しながら変身。皆の士気が上がる。
さて、戦奴と獣人部隊相手の肩慣らしは済んだ、ここからが本番の殺し合いだ。
長巻をブン回す機会を作りたいところだ。
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