第87話「キンポー平原の戦い」其の五
第八十七話『キンポー平原の戦い』其の五
レイン隊とミギカラ隊が合流するまで時間がある、僅かな時間だが状況を整理してみる。
現状で確認出来る敵の動きは四つ。
北側から結界内に入って円陣を敷く第二騎士団、東側から北回りで西へ移動中の第三騎士団、空挺団の攻撃を受けて足止めされている第四騎士団。
そして、蟲達の攻撃を受けて数を減らしながら西側へ移動中の獣人部隊。
これらの動きはこちらに都合が良い。
東に居る第三騎士団が結界に入って、南北の第二・第四騎士団が上下から西へ来られると面倒だったのだが、スコルとハティが上げた火の手を見た第二騎士団団長が迅速に中央の護りを固めたお陰で、空いた北側へ東から第三騎士団が移動してくれた。
第三騎士団がこちらへ来る前に、俺達は中央へ進んで結界の魔道具を破壊すればいい。
騎士団はそれぞれ三百名の騎兵と二千七百名の歩兵で構成されている。騎兵のみで編成された騎馬隊ではないので、移動速度は有る程度制限される。
南で足止めしてある第四騎士団を空と陸から挟撃するのも手だが……
東から回って来た第三騎士団に背後を突かれると厄介なので、西側へ集結して来る獣人部隊を蹴散らしながら予定通り中央を攻めた方が良いだろう。
現状はこんな感じか、今のところこちらに不利は無い。
あとは予定通りの行動をとるだけだ。
大丈夫だ、上手くいっている。問題無い。
北から来るであろう第三騎士団はレイン部隊とミギカラ部隊に任せ、俺が結界魔道具の破壊を試みる。
結界や魔法障壁を展開する方法は五種。
『神気型』、『仙気型』、『精気型』、『魔力型』。そして、命を削って結界を施す『生気型』の五つ。
結界は指定範囲を球体で包み込むので、地中や上空からの侵入は不可能。結界内に入れるのは仲間と認定された者達だけ。エネルギーの供給が止むまで高速自動修復を続ける優れモノだ。
魔法障壁は主に個人を護る為の盾として使用される。
高位の障壁を張れる術者は、幾重にも重ねられた障壁を魔力や精気等が尽きるまで展開出来る。結界とは違って障壁の修復はされず、破壊された障壁の代わりに新たな障壁が張られる仕組みだ。
ガンダーラの簡易結界は、地中に埋めたミニ神像が展開する魔法障壁を繋げ合わせた『なんちゃって結界』である為、上空や地中深くからの侵入は可能、魔法障壁自体の耐久力も高くはない。
ガンダーラに張られた障壁の再展開速度を上回るスピードで俺が殴り続ければ、いつかは障壁の一部を破壊出来るかも知れない。
と言っても、ガンダーラの簡易結界は『神気型』なので、神気より二段も劣る精気しか宿していない俺の両拳は、障壁を破壊出来た頃にはズタボロで使い物にならなくなっているだろうし、完璧な神気型の結界だった場合、傷一つ付ける事は出来ない。
今回、辺境伯の周囲に展開されている結界は『無属性、精気・魔力混合型』。
結界を展開している魔道具は八つ、それぞれに魔法騎士二人が付いて『火属性、魔力型』の魔法障壁を張り、結界魔道具を護る事になっているようだ。
火属性に強い土属性の上位互換である岩仙術で飛ばす精気を纏った【飛石】なら、魔法騎士が張る魔力型の障壁を破って魔道具を破壊する事は出来る。
しかし、精気・魔力混合型の結界に穴を開けるのは時間的に無理だ。
俺が仙気を宿せるようになれば穴を開ける事自体は可能だが、攻撃の手を休めれば瞬時に穴は塞がるだろう。魔力を宿せない俺が混合型に穴を開けるには、通常よりも労力と時間を掛ける必要がある。
魔族嫌いな辺境伯がエルフやダークエルフを陣中に置いていないのはラッキーだった。彼らが結界魔道具を護る役に就いていたら、人間の数倍有る魔力で三属性のしぶとい障壁を張られていた事だろう。
『ナオキさん、スコルとハティが南北に分かれて獣人部隊の牽制に入りました。レイン隊とミギカラ隊は敵の妨害を受けずに予定道り中央で合流出来そうです』
「ああ、今映像を見ている。順調だな……」
『辺境伯の動きが気になりますか?』
「気になるだろ、気味が悪くてしょうがねぇ」
この騒ぎの中、テントから一度も姿を見せないアホ大将。
気にならない方がおかしい。
メハデヒ王家は何故、アンポンタンに攻城魔導兵器所持を認めたのか?
辺境伯が個人で入手した魔導兵器だとしても、リスクが高過ぎるだろ、没収しとけよ!!
『辺境伯は勇者の義父ですので、魔導兵器の召し上げは見送るしかありません。王家も頭の痛いところでしょう』
「はぁぁ…… 勇者の影響力が強過ぎるな、この国は」
『この国、ではなく“この世界”です』
「ろくなもんじゃねぇな」
ハァ~。ついつい溜息が漏れる。
しかし、それだけ勇者が強力だと言う事か。
完勝以外は負けに等しいと考えて気合を入れ直そう……
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