第86話「キンポー平原の戦い」其の四




 第八十六話『キンポー平原の戦い』其の四




 スコルとハティによる無慈悲な火焔ブレスが、敵陣地中央までの道を一直線に赤く染め上げる。


 火炎を吸収する俺にとっては心地良いレッドカーペットだ。


 俺は両肩にメチャとアイニィを担ぎ上げて最初の虐殺現場へ向かい、二人を下ろして作戦通りに行動させる。


 メチャはアイニィの護衛と【威圧】。アイニィは瀕死と重体の敵を魔法で殺し、重傷の敵は影沼で沈めて中に控える眷属が殺す。レインとミギカラの部隊にも同様の処置をとらせている。



「二人とも、開始しろ」

「りょ、了解しましたっ!!」

「畏まりました」



 地面で蠢く戦奴達の影が揺れ、身動きのとれない彼らを闇が沈めていく。

 アイニィは土魔法で作った【土槍どそう】を沈みゆく戦奴達に次々と撃ち込んだ。


 アイニィが【土槍】で仕留めなかった重傷の敵は、影沼内に潜むピクシー達が始末する。この方法でアイニィとピクシー達のレベルを上げていく。


 影沼内で待機する者達が重傷者を仕留め、それと同時に影沼内で瀕死状態の教国兵を殺し、死んだ王国兵と数名の教国兵を地上へ放出する。


 レインとミギカラの部隊に居るダークエルフ達も同様の処置を取っているが、彼らの影沼内に入っている者達は、部隊内でレベルの低い者達が選ばれている。


 低レベルの者は影沼の中でレベルを上げ、地上に居る部隊員の最低レベルを超えたら交替、それを繰り返しながら全体のレベルを底上げしていく作戦だ。


 これから乱戦になると予想されるが、基本的にダークエルフ達は自分の影沼に身を潜めてもらい、ヴェーダの指示で自身の放出や物資の出し入れをしてもらう。


 ダークエルフの彼らだけを安全な場所で楽にレベル上げさせる事は不公平かも知れないが、これに対して不満は出なかった。


 輜重隊・輸送隊である彼らを絶対に失ってはならないと皆が理解していたからだ。


 総合力100万を超えている俺やジャキ達は、今回の戦いでレベルを上げる必要は無い。無論、敵兵を殺しても構わないが、ジャキやレイン達ならゴブリン達が手古摺る騎士団相手でも軽く無力化出来るので、無力化した騎士はジャキ達以外の眷属が仕留めるのが理想的だ。



「理想的だが、そう上手くはいかんか」


『騎士の数が多すぎますね、総合力1,400から13万まで能力は様々ですが、九千人の騎士を十名以下で殺さずに無力化するとなると……』


「まぁ、『おこぼれ』が出るだろうな」

『蟲で牽制は出来ますが、騎士団の魔法兵によって多くが殺されるでしょう』



 冗談じゃねぇ。

 わざわざヘボ魔法の前に晒して大切な蟲眷属を殺されてたまるかよ。



「牽制は要らん。騎士団との戦いになったら蟲は後退、倒れた敵兵の中に息の有る者が居たら始末させろ。数の減った獣人部隊を駆逐してもいい」


『了解しました。空挺団のコボルト部隊は矢が尽きますので、予定通りこちらに合流させて矢を補充させます』


「いや、合流はしなくていい。アイニィ、ここに残りの矢と替えの弓を出してくれ。ヴェーダは降下地点をワイバーンに知らせて誘導しろ。スコルとハティのお陰で戦線が押し込めた、もうここに敵は来られん」


『では、そのように』

「畏まりました」


「俺は少し前に出て軽く【圧壊】を放って来る、メチャはアイニィの隣で【威圧】を高めておけ」


「け、賢者様お一人では、あの……」



 急激にテンションを下げ、泣きそうになるメチャ。

 可愛いので、ほっぺたをつつく。



「大丈夫だ、スコルとハティの後ろから支援するだけだからな。アイニィが物資を出し終わって影沼に潜むのを確認したら、すぐに追って来てくれ」


「は、はいぃっ!! すぐに、すぐに行きますぅっ!!」



 うむ、ヨシ!!

 俺を心配するメチャの肩をポンッと叩き、アイニィから小石を二百個ほど貰ってスコル達の後を追った。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 俺達が進む西側中央ルートの獣人達は既に全滅している。


 スコルとハティが放った【ヘルヘイムの業火】は獣人の体と草花を燃やし、深夜の平原に造られた地獄への道を赤々と照らしていた。


 露払いされた炎の道、俺はその魔力の籠った炎を吸収しながら前進する。


 脳内に映し出された九つの映像には、ヴェーダが選出した各所の戦闘状況と辺境伯の動きが映し出されている。


 レイン部隊とミギカラ部隊は順調にこちらへ向かっているようだ。まだこちらに死傷者は出ていない。蟲達は後退して闇に潜み、獣人駆逐に向けて大半が移動した。


 辺境伯を監視していた蟲達は結界を張られた時に結界外へ弾き出されているので、現在は結界の外から辺境伯のテントを監視しているのだが、辺境伯はまだテントから出て来ていない。


 辺境伯は娘が虫刺されで死んだと思っているので、虫除け対策は万全だ。十人長以上の地位にある騎士には、虫除けの護符を装備させる徹底ぶり。


 無論、辺境伯自身も虫除けグッズで固めている。最初は娘の虫刺され報告を信じていなかったのに、ズルい野郎だ。


 こちらのカードを二~三枚無効にされた。

 まったく、アホの警戒心を侮ってはイケナイ。


 戦闘開始後、辺境伯のテントに三名の騎士団長が出入りしたのは確認している。現在、テントの中には辺境伯の他に侍女一人と護衛が四人居るはずだ。


 そのテント内に居る侍女が『異次元袋』という【影沼】に近い性能を持つダンジョン産レア魔道具を所持しているのだが、その中に攻城魔導兵器が格納されている。


 つまり、結界で守られつつテント内に隠れている辺境伯の手元に危険物が有るわけだ。ジーザス。


 危険物を所持したアホの行動が確認出来ない状況、勘弁して欲しい。悪夢と言える。


 これはちょっと状況を整理する必要があるな。





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