第84話「キンポー平原の戦い」其の二




 第八十四話『キンポー平原の戦い』其の二




「どうすればいい…… なぁヴェーダ、何か良い策は無ぇか?」


『私の知識に有る戦術や策略等で宜しいのであれば、適切なものを選んで脳へ送ります。全て私に任せると仰るのならば、私の知識にある兵書の内容や過去の英雄が執った行動を基に、この状況に適した作戦を組み立てます』


「すまねぇ、眷属を犠牲にしたくねぇんだ。作戦を組み立ててくれ、俺の頭の中にもブチ込みを頼む」


『了解しました』


「ところでヴェーダ、辺境伯も低能化してんだよな? 稀代の名将とかじゃないよな?」


『彼はメハデヒ王国が召喚した三名の勇者と懇意にしておりました。その内一人は辺境伯の長女と結婚しております』


「つまり…… アホどころの騒ぎじゃねぇって感じ? ついでに聞いておくが、辺境伯の知力は……」


『14です』

「え?」

『14です』



≪14です 14です 14です です です です す ……≫


 頭の中に『14です』エコーが響き渡る。

 有り得ない、ヒャッハーゴブリンと同レベルだなんて……



『もともと知力は平均以下だったようですが、辺境伯の娘と結婚した勇者と出会った事がトドメだったようです。辺境伯の豹変と余りの阿呆ぶりに、事情を知る王家も困惑し、今まで辺境伯が身に付けていた隷属の指輪を回収して、新たに制約と指示を施した隷属の指輪を辺境伯に授け、現在の状態に落ち着かせました』


「もう死なせてやれよ……」


『勇者の義父ですので、その案は却下されました。極端な制約も施せません。後継ぎの男子も居りませんから隠居を申し渡す事も出来ません、勇者が後を継ぐ事もありません。そもそも勇者の姻族ですので、王家は辺境伯家に手出しが出来ません』



 隷属の指輪を新しくして辺境伯の行動に制限を掛けたのは、勇者と低能化の関連性が外に漏れないようにする為の緊急処置か……


 勇者の血を引く王家には低能スキルが効かないって事が救いだったな、でなきゃ今頃この世界は魔族の天下だぜ。



『そうだったかも知れませんね。では、いくつか作戦を用意しましたので、ご確認ください』


「おう、有り難う」



 ったく、要らねぇ時間取らせやがって。

 ヒャッハー辺境伯めぇ……侮れん。


 まぁ、自領内だから警戒が緩いってのは分からんでもないが……

 目と鼻の先に大森林が在ってコレじゃぁなぁ……


 ハーピーやワイバーンに対する布陣でもないしなぁ……

 そもそも上空を警戒している奴が見当たらん……



 あぁ駄目だ、解らん!!




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 俺がヴェーダから得た戦術等の知識は素晴らしいものばかりだったが、地球の知識は少々使い勝手が悪い。


 魔法やスキルの存在が主な理由だが、『結界』が一番面倒だと感じた。これのお陰で最後の一手がもたつく。


 結界を城や要塞などに置き換えて色々と考えてみたが、結界は攻撃を加えれば破壊出来るといった物ではないので、この世界に有る結界破りの対処法か、物理的に結界の元を絶つしかない。


 この世界の対処法と言えば、トモエやイセをすぐに思い付くが、それは無理なので除外。アンチバリアの魔術や魔道具は我が軍に無し、ヴェーダの分析で解除法は解るが実行するヒマが無い。


 結界を排除しなければ、この世界のルールで地球の戦術を使う事になる。十分に通用するが、チェックメイトが出来ない。


 ヴェーダがアートマン様から得ている知識は地球の物がほとんどだ。それ以外は様々な制限を設けられている。俺の成長とアートマン様の『復活状況』に合わせて限定解除されるらしいが、今のヴェーダが有する知識に他世界の情報は僅かしかない。


 しかし、この世界の歴史などは十分過ぎるほど開示されている。


 ヴェーダはその知識の中からこの世界の兵法を調べ上げ、俺に教えてくれたのだが…… 残念ながら、地球の兵法に勝ると思われるモノは無かった。


 さらに、四百年ほど前から急激に兵法の質が落ちている。

 勇者の低能化がもたらした悲劇だが、脳筋を量産する事には貢献したようだ。


 即ち、この世界の兵法も役には立たない。


 その内容は、九割が『スキルと魔法の力押し』である。

 残りの一割は低能化した敵を棒立ちにさせて魔法を打ち込む等、相手がアホだという事が前提となった兵法だった。


 力押しは実力差があれば有効な手段だ。俺だって普通に使う。


 しかし、今回は人間同士の戦いであると偽装する必要が有る。死体の損壊具合を見た人間が『未知なる攻撃手段を持つ相手』だと思ってもらっては困る。


 疑念と推測の中に『魔族』の存在を入れるわけにはいかん。


 出来る事なら【飛石】の雨を降らせて領軍の兵力を削ぎ落としてやりたいが、眷属達に経験値を稼がせるという理由も含めて、飛石の雨は封印せざるを得ない。



「結局、オーソドックスに奇襲を掛けて、結界の元を絶ちに行く方向で決まりか」


『鼻の利く獣人が居りますので、風下の西側から奇襲を掛け、野営地の西側の二角と中央の三方から突撃しましょう。戦奴に騒がれますが、西側には騎士団が配置されておりませんので、野営地中央までの進攻が比較的早まるかと愚考します』


「三十人で固まってなきゃぁなぁ、肉壁に守られた奴が必ず吠えるってのが厄介だ……。じゃぁ、速度重視でダークエルフの三人に三か所の見張りを影沼で沈めてもらって、空と地上から一斉に同時攻撃、蟲も一斉攻撃に加える。これでやってみるか」



 三方から攻めて、すぐに中央で合流させよう。

 中央は俺とメチャとスコル&ハティ、北はジャキとレインとラヴ、南はミギカラとメーガナーダ。


 兵は半分に分けて南北に配置、俺が居る中央には要らない。

 ピクシーはダークエルフの影沼内に潜ませて、戦奴を魔法で殺させておく。


 連携はヴェーダの眷属ネットで完璧。

 あとは…… うん、問題無い。



「よし、始めようか」





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