第82話「キンポー平原へ」其の二




 第八十二話『キンポー平原へ』其の二




 虐殺現場は血の海、砦の食堂に在る大きなテーブルには下士官級以上の首が並べられている。

 

 首実検だが、既にヴェーダが本人確認しているので、俺は軽く目を向けるだけで首実検を終えた。


 大将と副将の首を挙げた三人に「よくやった」と声を掛け、今回の褒賞とは別に『芋けんぴ』と干し芋・干し柿セットを渡した。


 とてもケチ臭い褒美に思えるが、彼らにとって『FP下賜品』は、そりゃぁもう物凄い贅沢品扱いなので、非常に喜ばれる。特に今回のような甘味は大人気。

 

 士官や下士官の首を挙げた者達にも同様に渡したが、挙げた首級によって褒美の量は調整している。


 褒美を受け取った眷属達は大喜び。貰えなかった者は祝福しつつ褒美のオコボレに与っていたようだ。スナック感覚で楽しく分け合っていた。


 失敗したなぁ、将官討ち取り組には三セット渡せばよかったっ!!


 次回は期待しておき給えよ諸君っ!!



『あれで宜しいかと存じますが』



 うるさいうるさいうるさーーい!!

 お黙りなさいっヴェーダさんっ!!


 プロフェッショナル・ボスゴリラは――

 干し芋と干し柿を出し惜しみ……しないっ!!


 それが、俺流、だっ。

 さぁ次だ次っ!!


 もうこの砦に用は無いのです。

 物資をダークエルフ達の影沼に放り込んで、ラヴが用意した教国兵の死体をその辺に放れば作戦終了、次の戦地に向かうだけだ。



「ラヴ、砦の出口から適当に放って行け」

「畏まりました」



 ラヴがニコリと笑って一礼し、影沼から次々と教国兵を出してゴブリン達に渡していく。


 だが――


 ――ラヴが影沼から出した教国兵は瀕死状態で生きていた。

 殺して影沼に入れた方が楽だったろうに……



「何でソイツら殺さなかったんだ?」

「え? ヴェーダの指示でしたが……」

『腐敗した死体では偽装になりませんので』


「あっ、あぁ~、そりゃそうだな、危ねぇ、失敗するところだった。助かったぜヴェーダ、有り難う」


『どういたしまして』

「うふふ、仲良しですね。では早速殺して、廃棄致しましょう」



 本当にヴェーダが居てくれて助かる、アートマン様には感謝の申し上げようもない。ヴェーダが居なかったら俺の今生はグダグダ展開待った無しだった。大森林の勃起大猿とか冒険者共に言われていたはずだっ!!


 俺の反省を余所に、ゴブリンやコボルト達が迅速に瀕死の教国兵を刺し殺していく。やはり、戦場にはフレッシュな死体が一番だ。



「兄貴、物資の調達が終わったぜ」

「……蟲の収容も済んだ」


「よっしゃ。死体を放ったらダークエルフ達の影沼に入れ、長城の第一城門まで急行するぞ」


『ジャキ、レイン、ミギカラの三名はスコルに騎乗、ダークエルフの三人はラヴの影沼に入りなさい。メチャとラヴはナオキさんとハティに乗って移動、空挺団は引き続き高空から周囲を警戒しつつ先行、ここから第一城門の間に在る町と村を滅ぼし、露払いしなさい』


「と、言う事だ」


「兄貴は何もやってねぇなぁ」

「……姐者が居るからな」



 うるさい、俺の仕事は……

 ピ、ピクシーの監視なのである。監視なのであるっ!!


 そのピクシーズが俺の両乳首をイジって遊んでいる。


 よしなさい、メチャが見ているのです。

 生唾を飲み込みながら見ているのですっ!!


 クッ、やるじゃねぇかピクシーズ。

 それ以降は戦闘の後でお願いします。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 サモハン砦から第一城門までの距離は約120km、進攻ルート上には人口千人以下の町が一つと村が三つ在ったが、空挺団の露払いによって壊滅している。


 現在の時刻は午前二時半。

 場所は長城第一城門から15kmほど離れた平原。


 俺達は領軍に追い付き、領軍が野営地とした場所から南東へ1kmほど離れた場所に在る小さな丘の裏側に身を隠した。


 領軍は獣人を各地から吸収し、その規模を拡大させながら進軍してきた。さらに、後方から戦奴が続々と領軍に送られ、現在の領軍は兵数を一万に増やしている。




 こっちの準備も整ってきた。

 ラヴやダークエルフ達の影沼から蟲達を放ち、野営地を取り囲んでいく。


 常に領軍を監視していたヴェーダが敵の状況を俺達に告げた。

 草むらに身を伏せながら静かに聞き入る。



「夜警の兵が……たったの二百四十、だと?」

『八方に三十人ずつ配置しております。全て戦奴です』


「戦奴はどうでもいいが、二百四十は辺境伯が居る軍の夜警として少なくないか?」


『戦奴の後方には契約魔法を施した獣人部隊が肉壁として寝かされていますので、問題無いと考えたようです』


「いやいや、逆だろ、獣人を夜警に当てろよ、鼻も利くし夜目が利くだろアイツら」


『獣人は大森林での狩りと教国戦での先陣に当てられます。一応給金を払っているので、ここで体力を消耗させるのは得策ではないと決まりました。タダで入手出来る戦奴は不眠不休で潰されます』


「ブ、ブヒ? 戦奴も教国攻めで先陣切らせろよ、勿体無ぇ……」

「……だが、戦奴二百四十の犠牲があるお陰で、獣人や正規兵達の体力は温存出来る」



 どうなんだろうなぁ、レインの言う事も解るが……

 そもそも夜警の数が少なくて、警備に隙間が出来るだろ。

 しかも不眠不休の戦奴が夜警、役に立つのかって話だ。



『彼らは隷属の首輪で厳格な見張り役と化しています。睡眠を取りたくても取れず、見敵した際には大音声おんじょうで危険を知らせます』


「そりゃまた、優秀な警報機だな」



 その警報で素早く行動に移せる兵士が、いったいどれだけ居るのか知らんが。


 さて、何から始めようか……





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る