第81話「キンポー平原へ」其の一




 第八十一話『キンポー平原へ』其の一




 斉暦元年、八月三十一日、午前零時。

 深夜のメハデヒ王国サモハン砦前。


 俺達は以前と同じようにハイジ山脈から王国内に侵入し、教国から侵入したラヴ達と国境で合流したのち、二つの村を滅ぼしてサモハン砦に辿り着いた。


 ガンダーラ軍の兵力は以下の通り。


 マハトマ・ゴブリン=男483名。

 マハトマ・コボルト=男243名。

 マハトマ・ドワーフ=男37名。

 マハトマ・リザードマン=男174名。


 マハトマ・ハイエルフ=男1、女4名。

 マハトマ・ダークエルフ=男2、女1名。

 マハトマ・ピクシー=女2名。

 マハトマ・ワイバーン=雄34頭、メス40頭。

 メーガナーダ=男7名と雄7匹。


 合計=1,035


 兵隊蜂:三千匹、軍隊蟻:一万八千匹。


 ナーガは戦場が水辺ではない為不参加。

 ハーピーとラミアは女性のみの種族である為不参加。

 ドワーフの女性達は妊娠の為、子供達と共に除外。

 ゴブリンやコボルトの女性の多くは妊娠の為除外。巫女衆と宮掌衆も除外。


 彼らは妖蜂・妖蟻、エルフ十六人衆、狼達と共にガンダーラ防衛に当たる。


 メーガナーダの七名はホブとハイから進化、ホブの四名はソルジャーに、ハイはソーサラーになった。


 七匹の狼もハイ・エッケンウルフに進化している。


 上記に加えてスコル&ハティ、ジャキ、レイン、ミギカラ、メチャ、ラヴ、そして俺で全部だ。


 ラヴは進化を果たし、『マハトマ・ローヒニー』となった。これはメチャと同じ変異体だ。容姿はほとんど変わらないが、体内に宿る魔力量が爆発的に増えている。


 レベルは50、総合力は220万、影沼の容量は彼女にも分からないらしい。


 今回の戦いに参加したダークエルフの三名は、潜入組がスーレイヤ王国で保護した戦奴。戦奴と言っても前線で戦う攻撃要員ではなく、男二人は魔晶石への魔力補充要員、女と言うか少女はラヴと同じ影沼を使った輜重兵だ。


 彼らに付けられていた隷属の首輪は複雑なスーレイヤ王国式『魔術埋め込み型』だった為、ラヴとハイエルフ五人衆だけではヴェーダから教わった書き換え法での首輪解除に時間が掛かり過ぎて断念。


 しかし、死属性契約魔術が掛けられておらず、隷属魔法の制約にも絶対服従の制約しかなく、【逃亡即自害】や【自動応戦】等の面倒な制約が無かった為、ラヴの影沼に三人を入れてガンダーラへ帰還。


 すぐに俺が眷属化して隷属状態を解除した。


 今回彼ら三人が従軍する事になったのは、熱烈な志願に俺が負けた為だ。


 眷属進化して総合力が5~7万となった三人が雑兵にやられる事はない、しかし、彼らには輜重兵として後方支援に回ってもらった。ダークエルフの影沼が三つも増えた事は、今後の戦略に幅を持たせてくれるだろう。



 今宵は新月。

 空に月は無く、星が宝石のように輝いている。


 その輝きをさえぎる影は、空高く舞い上がり砦の上空を旋回する七十四の翼竜。


 七十四の背中にはハイエルフ五人衆とスカト=ロウ氏族長ハードを筆頭としたゴブリン魔法兵、そしてマッシ=グラ氏族長ワンポ率いるコボルト弓兵が乗っている。


 そして、俺の両肩に座る体長1mのピクシー幼女?が二名。

 背中に生える二対四枚の透明な翅を微かに動かしながら、両脚をブラブラさせてゴリラの頭髪で遊んでいる。


 彼女達は潜入組が行商人を殺して保護した。


 潜入組帰還後、ガンダーラで眷属進化させて二人の隷属を解除。

 そのまま地下で保護する考えだったのだが、俺にくっついて離れない。ダークエルフ達の時とは違った意味で根負けした俺は、言う事をちゃんと聞くという条件で同行を許した。


 眷属進化で強化されたピクシーの二人は『まじっくみさいる』という危険なスキルを獲得したのだが、レベル3である彼女達の最大MP量では二発撃つと魔力枯渇一歩手前になってしまうので、使用は計画的にと俺を含めた三人で決めた。



 ガンダーラ軍の武器は鹵獲した長剣や斧、槍や弩・弓を使用。


 各々が得意な武器を所持している。足りない分は俺が作った圧縮総鉄製の武器だが、これは奪い合いになった。しかし、強者が勝ち取るのは大森林の常、眷属でもそれは変わらない。


 俺の武器はお手製の打刀、鍛造ではないが片刃と刃渡りは慣れ親しんだ殺陣や剣道に合わせて造った。ただ、ゴリラの手では柄が短すぎるので、柄を長くしてみたら『長巻ながまき』のようになってしまった。


 長巻は打刀と薙刀の中間に在るような形状だが、その殺傷力はバツグンだ。


 日本の戦国時代では取り敢えず足軽に長巻を持たせ『それ持ってブン回せ』と言われていたほどポピュラーな武器だった。


 豊臣秀吉の明征伐では、跳躍して襲って来る武士の長巻攻撃に明兵が酷く悩まされたと記録に残っている。頭がオカシイと思っていたご様子。だいたい合ってます。


 ただ、攻撃範囲が広い為、仲間が傍に居る状態での密集した戦闘には不向きだ。槍や薙刀より刃渡りが長く、周囲の仲間を傷付け易いので、次第に戦場から消えていった。


 今回の戦いは約九倍の兵力に挑む事になる。そんな戦場では長巻の性能を大いに発揮出来るだろう。



『ナオキさん、砦を制圧しました』

「早いな。大将首は誰が取った?」


『第一騎士団団長の首級を挙げたのはドワーフの【ナガミッツ・ヨウケ=キレヨル】、副団長の二名はリザードマンの【アイトク兄弟】が首を刎ねました。各自ステータスの軍級が上がっております』


「アイトク兄弟? あぁ、トールとヒロッシか。フム、総合力が10万近い団長や副団長相手では、シタカラ達じゃ無理だったようだな」


『ゴブリンやコボルト達は下士官に当たる五人長や十人長、士官相当である騎士の首を挙げております。それ以外の一般兵五百八十八名はラヴと五人衆、メーガナーダが殲滅。従軍関係者は全て蟲が仕留めたのち、手の空いた者が斬撃を加えて処理しました』


「よし、次は後始末だな。行くぞメチャ」

「はいっ!!」



 体長が7mを超えたスコルとハティの背に乗った俺とメチャは、静かな戦いが終わった血臭漂う虐殺現場へ向かった。


 それにしても、スコルとハティは大きいなぁ……


 いつの間にか二匹が身に付けた能力【ヘルヘイム送り】とか、ヘルヘイムシリーズが気になるが、鑑定しても解説が『ヘルヘイムに送ります』や『ヘルヘイムの炎です』など、そのまんま過ぎて解説になっていない。鑑定が仕事してない。


 ヴェーダは『気にするな』と言うが、さすがに気になってきた。


 どう考えても地獄系ですよね?

 この前話した悪魔の二匹ですよね?



『急ぎましょう』



 今度絶対教えてもらおう。






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