第80話「僕は気付いたのですっ!!」




 第八十話『僕は気付いたのですっ!!』





 一時間ほどで七十四頭のワイバーンを全て眷属化出来た。

 時刻は夜の九時を少し回ったところだ。


 ワイバーン達は北の山脈へ戻らず、駐屯地の空き地でノンビリしている。凄い光景だ、圧巻だな。


 この場所は『ジュラシック・パーキング』と名付けよう。名前の由来は分からないがピンとキた。


 カストルとポルックスが居れば、シムラの背中に乗せて遊ばせるんだが、今は妖蟻帝国でアカギやカスガにペットとして可愛がられているので居ない。


 カスガは仇敵の忘れ形見を見て「可愛いな」と笑って抱き締めたそうだ。妖蜂の女性は皆懐が深い。惚れるでしかし。


 カスガやアカギには俺が纏う大熊マントの香りが付いている、カストルとポルックスも安心して甘えるだろう。


 赤ん坊、子供……

 育つ環境次第で歩む道が大きく変わる。


 カストルとポルックスがこの環境で育てば、母親の如く無差別に魔族や魔獣を殺す事はないだろう。


 今はまだ赤ん坊の新世代マハトマ・ゴブリン達も同じだ。親と同じ最弱として育つわけではない、周囲には色んな種族が彼らを抱き抱えて愛情を注いでいる。


 そうやって育った彼らはどのような価値観を持った魔族になるのか、親が恐れていた妖蜂や妖蟻に対して恐怖は抱かないだろう。


 子守りをしてくれた狼や共に遊んだ仔熊達と同種の魔獣を、狩りに出た彼らがただの獲物として見る事は出来ないかも知れない。


 育つ環境が子供に与える影響はそれだけ大きい。

 親とはまったく違う、正反対の価値観を持つ事だってある。


 そこでゴリラは考える。

 この世界の人類もそうなのだろうか……


 魔族には既に神々の加護が消え始めている、神々の意思は魔族に届く事はない、もう影響を受ける事はなくなった。魔族は自分達の力と意思で歩む道を造り上げる事が出来る。いや、造るしかない。


 しかし、人間や獣人には多くの神々が加護を与え、神託や能力授与など助力は絶えない。神々が人類に与える影響は、思想から個人的な利益に至るまで広範囲に及ぶ。


 では、人間の赤ん坊はどうだろうか?

 赤ん坊は母親から生まれた瞬間、両親が崇める神から加護を賜る。その時点で既に赤ん坊は神の影響下だ。


 そのまま育てば通常通りの『モンスター』に育つ。モンスター具合がどれほどになるかは環境次第だと思うが、『魔族・魔獣は化物』という価値観は変わらない。


 では、人類の赤ん坊を魔族が魔族の環境で育てるとどうなる?


 神々の加護は消えるのか?

 価値観は変わるのか?

 天罰受刑者たる俺以外の人外に友情や愛情を胸に抱くようになるのか?



『人類が優勢である限り加護は消えません。そして、神々の力に関係なく価値観も変わりません、これは魔族も人類も同じ、この星に生まれた生物の本能、設定です。故に、友情や愛情を感じる事は人類も魔族も互いにありません』


「……そうか」


『次の戦場で近隣住民を皆殺しにする決意が揺らいだのですか?』


「ん? いいや、まったく」



 う~ん、善悪の話じゃないんだよなぁ。

 虐殺も特に心を痛めん。こんにちは、サイコゴリラです。


 そうだなぁ、好き嫌いの話だな、俺の場合は。


 今回の場合は……俺の背信・背任行為になるかもしれんから、嫌だと感じたわけか、なるほど。



「あのな、魔族と人間が争っているという事実を認識出来ない者が居た場合、そいつを殺す事は『無駄な殺生』になるんじゃないかと思った。皆殺しにしたって大義が薄い、殺す事に戸惑いは覚えんが、アートマン様を裏切るような真似はしたくない」


『なるほど、では一つお教えしましょう。人類が暗闇で灯す明かり、その明りには様々な種類が有りますが、その一つである“魔導ランプ”の燃料となっている物は、主にゴブリンとコボルトの魔核です。一般的な家庭には多く普及しています』


「魔道具の燃料か……」


『水を温める、火を熾す、風を送る、揺らす、回す…… 様々な動力に魔族の魔核が使われています。必ずしも魔核である必要は無いにもかかわらず。魔獣のそれより魔力量と質が良いので、魔族の魔核は優先的に市場へ流され、それを買い漁る人類に普及しています』


「ガキや力の無い者達も、その恩恵にあずかっている、そう言いたいのか?」


『その恩恵を受けながら育った非力な子供は、魔族を敵視する価値観を抱いたまま大人へと成長します。力の無い者達は何の感慨も無く当たり前のように魔核を消費しています、そこに魔族への憐れみも感謝の念もありません。産業動物以下の扱いなのです』


「そうかよ……殺意がみなぎるね。何が頭にクるって獣人の奴らも上から目線ってのがなぁ、オメェらも産業動物枠だろうがよって話だ」


『これは魔族も同じです、立場が変われば人類の魔核で生活を豊かにする事でしょう』


「新しいエネルギー見つけろよ、アホくせぇ」



 どうしようもねぇ世界だなこりゃぁ。


 眷属達の人類に対する認識も、普通の魔族と変わらない。

 俺が命じて認識を改めたところで、人類側の認識はそのまま、不利益を得るのは眷属達だけだ……


 まぁ、俺も人類に対して認識を改めようとは思わん。

 この遊戯が終わるまで、俺達も奴らもモンスターだ。


 ヴェーダのお陰で杞憂が消えた。

 思う存分モンスターを狩ろう。


 この世界自体にアホな設定が施されているなら、気にするだけ無駄だ。むしろこの世界はクソを放り込む地獄的なヤツじゃないかと思えてくる。


 って言うか、現在、魔族がおかれている状況って……アレレ~?



 ひょっとして……

 

 ……こいつぁ益々眷属優先でレベル上げしねぇとな。





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