第79話「君に決めたっ!!」




 第七十九話『君に決めたっ!!』




「はぁ、はぁ、ご、御恩情賜り、恐悦至極に御座います…… うぅ、グスッ」


「あ、いや、こちらこそ、得難い人材を眷属に出来た。有り難う」



 第一砦の地下通路入り口、妖蟻兵詰所の一室でナナミの眷属化を果たした。


 この部屋には俺とメチャ、ササミとナナミの四人だけしか居ない。


 ササミとガンダーラへ来たナナミは、妖蟻の族装ぞくしょうであるアラビアンな白い衣服を纏い、上半身には赤い生地に金糸の豪華な模様が施されたベストと、可愛らしい草花の刺繍が縁を飾る目元が空いたヴェールを頭から被り、小さな赤い花束を両手で持って俺を待っていた。花嫁かな?


 彼女との出会いは互いに清々しいものではなかったが、こうしてシコリを取り除けて良かったと思う。


 もっと早く俺から彼女に眷属化をお願いすれば、彼女も肩身の狭い思いをせずに済んだはずだ。好い男失格だな。


 眷属化と進化を果たした彼女は、熱い吐息を漏らしながら泣いている。


 ササミがいつもの眠たそうな目で俺に目配せする。

 分かってるさ、相変わらず優しい子だ。


 ササミは俺とメチャが帰還後すぐ会いに行かなかった事に怒る事も無く、ただ無事を喜んでくれたし、メチャの進化も抱き着いて祝っていた。あとでちゃんと詫びる事にしよう。


 俺はナナミの肩を抱いて、部屋の隅に在る長椅子に二人で腰を下ろす。


 ナナミが落ち着くまで、彼女が好きな走竜の事などを話していると、普段の調子を取り戻したのだろうか、ナナミは地竜の亜種である走竜フグリキャップの魅力を熱く語り始めた。


 どうやら彼女は、大の走竜ウマ好きだったようだ。

 俺もサラブレッドが好きだったので、とても話が合った。ササミとメチャも話に加わり、ちょっとした茶飲み会を楽しんだ。



「ほほぅ、ナナミの走竜は良血だな」

「はいっ、とっても賢くて、可愛いのですよ~」

「私の走竜も、可愛ぃ……」

「わ、私は鹿に乗った事ある……」



 メチャには今度、この世界の馬をプレゼントしよう。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「ではナナミ、ササミ、今日は有り難う。気を付けて帰ってくれ、護衛の皆も御苦労さん、気を付けてな」


「はい、次回は猿王陛下に走竜を献上させて頂きたく存じます。それでは陛下、失礼致します。メチャさん、またお茶しましょう、では」


「陛下、また、すぐに来ます…… あの、チュッ、失礼致します。メチャ、ばいばい」


「ばいばーい、お二人とも、お気を付けてぇ~。護衛さん達も、さようなら~」



 何だかんだで二時間も馬談議に花を咲かせてしまった。

 久しぶりに趣味の話をして、地上の血生臭い空気を一瞬でも忘れる時間が出来た事は、とても有意義だったと思う。


 それに、走竜のスピードを競わせる競竜けいりゅうの話は非常に興味深かった。博徒の魂が揺さぶられるぜ……っ!!


 へへへ、賭場てっかばの常連は好い男の条件だっ!!



『それはどうなんでしょうか』


「……言ってみただけです」



 ちょっと盛り上がり杉田玄白だったな!!

 反省反省っ!!


 ガンダーラは水の都だ、やはり水竜を競わせる事も考えたい。

 競馬の『芝』と『ダート』のように、『森』と『水濠』で分けるのはどうだろうか? そうなると、森と水濠でルールを変える必要が出てくるか……


 そうそう、今度俺がもらう予定の走竜は、いささか気性が激しいようだが、俺の溢れ出るフェチモンを嗅げば大丈夫らしい。


 大人しくなるならいいが、種付け対象として見られたら困りますねぇ。


 名前は何にしようかな?

 むむむ……ひらめいたっ『シンボルリドルフ』しかねぇっ!!

 その息子が生まれたら……ピコーンと来たっ『トゥカイティオー』だっ!!


 いやぁ~、今日の俺は冴えてる。

 ビビっとキたもんな今。この名前しかない。由来はまったく分からんが、ビビっとキたので間違いないっ!!


 いやぁしかし、夢が広がるなぁ。

【カスガ女王杯】とか、【アートマン記念】とか、あ、賞金はどうしよう?


 大森林の魔族は貨幣経済で成り立っていないからなぁ……


 そもそも魔族の国で貨幣を扱っているのは少数だ、しかも山脈の向こう側とか別の大陸で使われている独自の貨幣……


 俺達も独自の貨幣を作った方がいいのかなぁ……

 となると造幣局も……


 いや、FPでよくね?



「け、賢者様ぁ、ササミちゃん達は、もう帰りましたけど、あのぉ……」


「ん? あぁ。上に行こう」

「は、はい!!」



 メチャが俺の左乳首を見ていた事に気付かないフリをする。それが好い男のマナーだ。


 しかし何故メチャは俺の乳首が好きなのか……私、気になりますっ!!




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 ササミ達が帰って六時間ほど経った。

 現在午後八時、夕食を終えて歓談していたところにワイバーン参上、シムラを筆頭に七十四頭のワイバーンが駐屯地に舞い降りた。



「ブッヒ、見ろよレイン、こいつぁ壮観だぜぇ」

「……八十近いな、大きな群れだ」


「よ~しよしよし、よくやったなシムラ!!」

「け、賢者様ぁ、怖いですぅ……」


「心配するなメチャ、今からコイツらは全部眷属になる。そうなりゃお前の家族だ」


「な、なるほどなー。で、でも、怖い……」

「ブ、ブヒッ、俺が、守ってやんよ……」

「あ、大丈夫だよ、賢者様が居るから」

「だよなっ!! 兄貴が居るもんな!!」



「……憐れな、見てはおれん。おいジャ――」

「レイン殿、野暮はこのミギカラが許しませんぞ~」


「……弟が傷付く未来を防ぐ為だ、肩を放してくれ南浅殿」

「お待ちなさい、主様曰く『士別れて三日、即ち更に刮目して相待すべし』だそうです。彼は必ず成長する、見守りましょう」



 そこでその言葉を出すのは如何なものかなミギカラ、勿体無い故事の使い方を見たような気がする。


 何だか後ろで青臭い香りを放ちながら盛り上がっているようだが、今は無視してワイバーン達の眷属化を進めよう。



「シムラ、皆を集めろ、あっ、シムラ後ろっ、後ろっ、危ないなぁ、リュウちゃんを水路に落とすところだったじゃないか~」


「グッフンダ~」

「ングゥアゥ!!」


「よしよし、ちょっと嬉しそうに怒るなよリュウちゃん、ボケ待ちなの? 期待してた感がパねぇなリュウちゃん。よっしゃ、それじゃぁシムラ、眷属化を承諾するようにと皆に伝えてくれ」


「グアイ~ン!!」



 では始めよう。

 トップバッターは…… 君に決めた!!

 シムラより2レベル高い、コイツがボスだったのかな? 眷属進化したらコイツが一番強くなるかな? 素質によるが……



「精気を流すから大人しくしてろよ~」

「グァルデシカシ!!」



 変な鳴き声の旧ボスに精気を流し込む。

 精気を受け入れられる量はシムラとほぼ同じだ。



「……よしっ、完了。総合力は45万、シムラより4万高いじゃないか、さすが旧ボス。お前の名前は『ヤスシ』だ、宜しくな」


「グァルデシカシ!!」



 ヤスシは一声上げると踵を返し、シムラをド突きに向かった。

 後頭部に尻尾の一撃を叩き込むヤスシ、シムラは水濠まで吹っ飛んで土壁に激突、「グァ、グァイジョブグァ……」と鳴いて気絶した。


 ヤスシが群れのボスに返り咲いたのだろうか、ワイバーン達がヤスシを讃える咆哮を天に放つ。


 だが、ヒゴとジモン、リュウちゃんはシムラ派なのだろうか、シムラの許に飛んで行った。素晴らしい友情だ。


 よ~し、どんどん眷属化していこう!!

 次は…… 君に決めた!!




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