第78話「即殺出来るんだけどな」




 第七十八話『即殺出来るんだけどな』




『中部以降に動きはありません』

「よし、このまま会議を続けよう」



 十分ほど休憩を挟んで会議を再開。

 皆で車座にデッカイちゃぶ台を囲む!! ちゃぶ台は僕が作った自信作です。捨てさせんよ、絶対になっ!!


 もうすぐ午後四時を回る、魔竜はまだ動かない。浅部や眷属の異変に気付いているのか、今は何も判らんが、こちらの事情を優先させる。そのまま大人しくしていろ駄竜。


 次の議題は戦術、戦い方を考える。



「今回の戦いに於いて大事な点を上げてみる、何か気付いた事があったら言ってくれ。この場に居ない者達も何か思い付いたらヴェーダに伝えろ」



 今のところ、俺が考え付いた重要な点は四つ。ガンダーラの防衛と北の監視、皆の命優先は当たり前の事なので除外する。



1、俺達の姿を見た人間の殲滅。

2、人間同士の争いに見せる為の偽装。

3、魔導兵器・物資の鹵獲ろかく

4、長城の駐屯兵は無視、ハイジ山脈からテイクノ・プリズナに侵攻、領軍を撃滅。



「俺が考えたのはこの四つだ。他に何か無いか? 思い付く事は何でも言ってくれ。はい、そこの干し芋喰ってるブゥちゃん」


「ブゥちゃんって…… ジャキって呼んでくれよぉ。あのさ、二つ目の偽装、具体的にはどうすんだ?」


「え~っと、そうだな、とりあえず人間と同じように武器を持って戦う。人間同士が争った様に見せるワケだからな、俺やミギカラの【圧壊】で『グシャッ』っとしたり、お前の北都真拳で『ボンッ』は控える。魔法はガンガン使っていい」


「……兄者は武器も扱えるのか?」

「もともと俺は素手の格闘より剣術の方が得意だぞ?」


「そうだぜレイン、兄貴の剣術稽古に付き合ってみりゃ判るよ。兄貴が動いたと思ったら木剣で頭やら手首やら叩かれてっからな、意味解んねぇ」


「け、賢者様の、『剣道』は、凄いんです!! 特に『突き』は、か、感動モノです!!」


「……剣の道か、興味深いな」


「その話は後でな。武器で戦っただけじゃぁ偽装は出来ない、そこで、潜入組は一旦ガンダーラに戻り、すぐに教国へ行ってメハデヒ王国兵として教国兵の捕縛と装備を鹵獲してもらいたい。教国兵は殺していいし、教国人なら兵士じゃなくてもいい」


『鹵獲した教国兵装備は殺害した人間に装備させたのち、教国人の死体と共に今度の戦場へ破棄します』


「ブッヒ~、えげつねぇなぁ。教国には聖女が居るって話だが、出て来ねぇ事を祈るぜ」


「出て来たら俺が頭突きで頭カチ割ってブッ殺すさ」


「……だが、良い作戦だ。教国には疑念と困惑、王国には敵が教国であると確信を与える事が出来る」



 撹乱は弱小勢力の常套手段、敵に囲まれた俺達は寡兵を謀略で補わなければ体力が尽きる。


 人間相手に汚いだの卑怯だの関係無い、正々堂々戦いを挑んだところで魔族が一目置かれる事も人類の枠に入れられる事も無い。正々堂々戦った魔王達は眷属もろとも滅ぼされている。


 俺のカルマは相当なもんだろうが、眷属の命と魔族の安寧を確保出来るなら屁でもねぇ。出来れば全部背負いたいが……アートマン様が半分背負うんだよなぁ……



『今更ですね。貴方は大義を見つけたのでしょう、ならば進むべきです。アートマンは全て受け止めます、たとえ業によって悪神と化そうとも』



 はぁ……偉大なるお母ちゃんは腹の据え方が違う。あふん。

 有り難うございますっ!!


 では私も、修羅道を突き進みましょう。




 結局、人類との戦いは、お互いが“エイリアンとの戦い”という構図から抜け出せない。少なくとも魔族側は交渉の余地を残している、それを蹴り続ける人類に容赦など必要無い。


 人類の低能化を一時的に解除出来たとして、そこに交渉の余地があった場合、その時の魔族が大勢力になっていなければ、有利な交渉は難しい。


 しかも、その交渉時までにアホな神々を排除して神託と共に信仰を絶たねば、神の加護と強力な能力を備えたサイコパスは召喚され続け、再び低能化されるうえにゲームも終わらない。イタチごっこだ。


 はぁぁ、神々をブッ殺せる力が欲しいなぁ……


 クソをもらう方もあれだけど、送る準備している地球の神々も大概ナメてるよなぁ、俺が『ゴリラ神』とかになったら、シバき回せるかな?


 おっと、そんな事を考えている場合じゃない。



「他に何か無いか? ……おう、ムラマッサか、何だ?」


「畏れながら、攻城魔導兵器の性能が気になります」

「ハハハ、なるほどな。そりゃ当然だ」



 ドワーフ達はコレが一番気になっているご様子。


 過酷な状況に在った彼らだが、鍛冶師の魂が腐る事はなかったようだ。敵の兵器情報だと言うのに、彼らの表情はクリスマスプレゼントを貰う前の子供と同じだ、『中身は何かなぁ~』って顔している。



「ヴェーダ、皆に解り易く解説してくれ。地球の兵器を例に挙げる形で頼む、映像付きでな」


『辺境伯が所持する攻城魔導兵器と、M1877・152mmカノン砲の射撃映像を眷属達に見せます。それ以外の者にはナオキさんの精気でホログラム化して視認させます、宜しいですか?』


「ああ、構わん」



 ヴェーダが俺達の頭に音声付映像を流し込む。

 ジャキやレイン達は目の前に浮かんだホログラム映像に驚愕している。こっちは音が出ない、残念でした。


 初めにカノン砲の解説。

 構造や材質、射程距離とその威力などをヴェーダが図を用いて優しく説明。そして動画に移り、射撃時の爆音と破壊される石造りの壁が映し出された。


 眷属達が目を見開いて驚いているが、悲観した様子は無い。

 彼らが驚いているのは内容ではななく動画と音だな……


 次に魔導兵器、大きさや形はカノン砲に酷似している。

 違いは…… 火薬が魔核に変わっている点と、砲弾が魔力を帯びている点だな、威力もこちらが上だ。


 だが、俺は特に驚かない。岩仙術の方が威力も射程も上だからな。原子爆弾投下映像並みの衝撃映像だったら腰を抜かす自信がある。原爆に勝てる気がしない。


 さて、ヴェーダの解説も終わった。



「……姐者、魔導兵器の射程をもう一度教えてくれ」

『この攻城魔導兵器の有効射程距離は約12kmです』


「……長いな、中級以上の氷魔法や土・金混合魔法で氷や石を飛ばしても、12kmは無理だろう」


「え? け、賢者様は、素手で私の頭ぐらいの石を、北の街まで、な、投げられるよ? ビューンって」


「兄貴はオカシイんだよメチャ、いいな?」

「え、えぇぇ、オカシくないよ、す、す、素敵だよっ!!」


「……兄者が超長距離投石で領軍を翻弄する手もある、か」


「ハハハ、それも手だが、多くの人間に逃げられちまう。囲むにしても眷属の数が足りんしな、必ずとりこぼす。経験値も俺だけにしか入らん、今回は近接武器を使った白兵戦だ。逃げる敵は投石か【飛石】で脚を狙う、トドメはお前らが刺せ」



 応っ!! という威勢の良い眷属達の声、コイツらは遠距離攻撃より近接バトルを望んでいるようだ。


 HP回復薬を大量に作らないといけないなぁ。巫女衆と宮掌くじょう衆には手厚く報いよう。俺用に精気回復薬があれば戦いが楽なんだけどなぁ、無ぇんだよなぁ。もう少しでイケるってホンマーニは言ってるし、期待して待ちましょう。



「ひと先ず、人間との戦いに関する考えはこんなもんだ。ワイバーンの利用も考えに入れると、また違った意見も出るだろう。戦いまで一週間、南北の敵に備えて気を引き締めていこう」


『ナオキさん、ナナミ中佐とササミ少佐が到着しました』


「はいはい」



 ササミにはテイクノ・プリズナに行ってから会ってないな。

 帰ったらすぐに会う約束をしてたんだった……


 また泣かれそうだなぁ……






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