第77話「恥ずかしい奴め(ブーメラン)」




 第七十七話『恥ずかしい奴め(ブーメラン)』




「――と言う事で、北伐は延期、北都攻略も見送りだ」



 第一砦一階の大食堂に男性幹部を集め、対辺境伯戦略会議を開催中。


 この会議の内容は全眷属に生中継、ラヴ達は破壊工作を中止して影沼内で眷属ネット会議に耳を傾けている。



「最悪の場合は南北に分かれて戦うかも知れん」


「いやいやいや待てよ兄貴、人間の軍が大森林に侵入して来たら、さすがに魔竜も馬鹿な事しねぇだろ~」


「そう願いたいもんだ、肉壁である俺達が潰れちゃぁ駄竜も困るだろうからな。しかし、北の警戒を怠るわけにはイカン。人間の侵入を知らずに“馬鹿な事”をするかも知れん。中部以降には蟲を大量に派遣して哨戒させる」


「……兄者、人間の軍はいつ森にやって来る?」


「辺境伯は明日の朝に居城の在る『ラスティンピス』という都市を立つ。そこから北西へ120km離れた『テイクノ・プリズナ』まで軍を進める間に、領内の兵を吸収するようだ。テイクノ・プリズナから長城の第一城門を通って西浅部までの距離は約50km、一日の行軍が25km前後だとして――」


『一週間後ですね』

「――だそうだ」



 皆の顔が凶悪ヅラに変わる。

 北伐よりイキイキしてんなぁ……


 そこでミギカラが挙手、質問タイムだ。



「一週間も有れば、北都制圧と中部の掌握は可能では?」


「可能かもな、だが、延期は決定事項だ。予期せぬ事態に対応出来るように、標的は一つに絞って事に臨む。他に質問は? ……はい、ドワーフの――」


「ムラマッサ・ヨウケ=キレヨルです」

「おう、で、何が聞きたい?」


「敵軍の規模はどれほどでしょうか?」


『辺境伯が保有出来る兵士数の上限は一万五千、一個兵団三千人の五個兵団編成です。今回は既に二個兵団が投入予定、最終的に三個兵団の規模になると予想されます』


「九千…… 精霊様の予想なら、間違い御座いますまい」



 九千か…… 俺一人で全滅出来そうだな。

 ジャキ、レイン、ミギカラ、メチャ、さらに潜入組、駄目押しで進化エルフ十六人衆、妖蟻と妖蜂入れたら肉片も残らんぞ?


 しかし、今は眷属達のレベルを優先的に上げる必要が有る。俺やジャキ達は後回しだ。それでも余裕をもって戦えるだろう。


 眷属達もそれを理解しているのか、九千という数字を聞いても動揺は見られない。



「ブッヒッヒ、北伐前に美味しい餌が手に入ったな」

「……勇者も聖女も居ないのならば、負けは無いだろう。兄者、他に強者は居るのか?」


「いや、蟲の情報では居ない」

『冒険者等の強者は今回の軍事行動に参加していません』


「ブッヒ~、辺境伯は良いヤツだな!!」

「……国王は挙兵をいましめなかったのか?」


『辺境伯は国王にテイクノ・プリズナの異変と教国の暗躍を伝える使者を出しました。それを以って貴族の義務を果たしたと考えたようです。辺境伯は国王の指示を仰がぬまま兵を挙げました』



 う~ん、辺境伯の権限がどれだけあるか分からん。

 自治権を行使した感じか?



『領地を有する貴族は自領の防衛に限り、単独先行での軍事行動が認められています。さらに、各辺境伯は独立した統帥権を持ちます』


「大森林で魔核集めは自領防衛に入るのか……」

『辺境伯に聞いて下さい』


「嫌だよ、バカと話すと疲れるもん。辺境伯の事はもういい、質問が無いなら次の話に移るぞ~」




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 九千の兵が迫っているとは思えない空気の第一砦大食堂。


 眷属達の気持ちが伝わる仕様の主としては、苦笑せざるを得ない。

 皆がワクワクし過ぎ、落ち着け。



「ったく、まぁいい。質問が無いなら――」


「……待て兄者、何故、辺境伯は魔核集めを?」

「あぁ、その事か。はい、ヴェーダ先生お願いします」


『辺境伯は唯一所持する攻城用魔導兵器を一機、今回の教国攻めで使用するようです』


「……攻城魔導兵器、その為の燃料に我々の魔核を…… 下衆共が」



 そうだなレイン、下衆だ。


 魔核はこの世界の魔性生物にとって『己』そのもの、時には形見として親族や愛する者達が後生大事に保管する宝、それをくだらねぇオモチャの弾代わりにされちゃぁ、頭にクるってもんだぜ。



「ブヒヒ、こりゃぁ全滅させねぇと気が収まらねぇな」

「……しかし、領軍を全滅させると破壊工作が無駄になる」


「主様、レイン殿の申す事はもっとも。森で領軍を討ち滅ぼせば、人間共の目はこの大森林に向けられますぞ?」


「何言ってんだミギカラ、誰が森で迎え撃つって言った? こっちから長城を越えて近隣の住民ごと皆殺しにするんだよ。目撃者が居なけりゃ誰にやられたか分かんねぇだろ?」


『教国軍の形跡を残しておくとなお良し、ですね』


「そ、それはまた大胆な…… して、長城越えの人数は……」


「お前ら全部だよ」


「マジか兄貴、それだとガンダーラを空っぽにしちまうぜ? 魔竜の息が掛かった中部の連中に占領されるかも知れねぇ。妖蟻と妖蜂を地下から出すのか?」


「いや、俺と進化エルフ十六人衆で護り通す」

「えっ、兄貴来ねぇの?」


「行かねぇ、お前らがボッコボコにして来い。総大将はミギカラ、参謀はヴェーダな」



 本当は俺も行って暴れたいんだが……

 北の動きが分からん以上はどうしようもない。



『ナオキさん、カスガ女王とアカギ帝が異議を唱えております』


「えぇぇぇ……」


『イセかトモエのどちらかを第一砦に送り、妖蜂軍二個大隊と妖蟻軍一個旅団、計二万二千九百八十六名をガンダーラ防衛に投入するそうです。“後ろは任せろ”と、カスガ女王が申しております』


「二万って、多いなオイ。いやいや、そうじゃなくて、イセとトモエは姉貴の傍に居なきゃ駄目だ」


『王妹か帝妹のどちらかがアリノスコ=ロリに残れば、女王と皇帝を害せる者は居りません。皇城内は眷属のみで固めます、当日はナナミ・ソウツウ=アリヅカ中佐を皇城から退去させますのでご安心を。女王と皇帝は“意思を曲げるつもりは無い”とのこと』


「あぁぁ、クッソ、しょうがねぇな。分かった、防衛な、防衛。それから~、えっと、ナナミ、アイツは眷属化しないのか? 追い出すのは可哀そうだろ、聞いてみてくれ」


『少々お待ち下さい……』



 妖蟻と妖蜂の大群がガンダーラ防衛、しかも大将はイセかトモエ…… 誰が攻め込むんだ? そんな危険地帯……


 って、何だか、この場に居る男衆がソワソワし始めたぞ?

 あぁぁ、アレか、イセとトモエに会えるかも知れんからな、アイドルに会えると思って嬉しいのか。


 う~ん、しかしトモエが来た場合は…… コイツら心臓マヒで死にそうだな、恐怖的な意味で。



『お待たせしました、ナナミ中佐は眷属化に同意、“すぐに参ります!!”だそうです。現在ササミ少佐が色々とアドバイスしております』


「何のアドバイスだよ…… まぁいいや、走竜騎兵の隊長が眷属になってくれるなら心強い、有り難ぇこった」


「なぁ兄貴、どっちの妹殿下が来るんだ?」


「分かんねぇなぁ、イセは大人しからなぁ、でもトモエはシャイだから……」


『王妹が防衛軍の指揮官に決まりました』

「あぁ、トモエか、そっか……」


「ウッヒョウ!! 妖蜂の最強かよっ!! ツバキの姐さん達みてぇに別嬪なんだろうなぁ…… ブッヒッヒ」


「……妖蜂の妹殿下か、興味深いな」

「ブヒッ? お前も気になるのか?」

「……当たり前だ、兄者より強い女傑だぞ」

「あ、ハイ、ソウデスネ」



 ジャキは俺以上の下半身正直者だな、傍から見るとアホに見える。

 まったく、恥ずかしい奴めっ!!!!



『…………』



 今後、下半身に正直な振舞いは少しだけ控えよう。頼むぜ魔王。





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