第76話「せ、説明が必要だと、お、思ったので」




 第七十六話『せ、説明が必要だと、お、思ったので』




 魔道具には基本的な三つのタイプがある。


 1、道具に魔術式を組み込んだ物。

 2、道具そのものが魔力や魔術を備えている物。

 3、道具に魔力経路を作って魔核や魔晶石・魔導水晶を嵌め込んだ物。


 以上が基本的な魔道具三種。

 この三つを組み合わせて強力な魔道具を作る事も可能だ。


 魔力を備えた魔剣に魔術式を書き込み、柄と刀身に魔力経路を彫り込んで柄頭などに魔核や魔晶石を嵌め込む等々……


 魔道具はその三種を基礎として、さらに細かく分類化されランクが付けられる。


 道具の素材となる質、職人の腕、鉱石である魔晶石の魔力量、その魔晶石に魔力を流し込む人材の質、魔晶石から作った魔導水晶に貯まった魔力の質と量と属性。


 魔道具の大半はこれら要素が絡み合って出来ている。

 ダンジョンマスターが人間にプレゼントしている魔導兵器などは、上記の要素が全て高水準だと考えていい。


 そして、召喚勇者が作った魔道具も残念な事に高品質である。


 その代表的な物の一つが『心身束縛系魔道具』、いわゆる隷属魔道具だ。


 過去に隷属魔術を所持した勇者や隷属魔道具を製造出来た勇者は、その多くが自分を召喚した国の王位を簒奪している。


 表向きには禅譲ぜんじょうという形で王位を譲り受けた事になっているが、実際は国の上層部を隷属化・アホ化して無血簒奪を成功させたに過ぎない。


 その他の隷属魔術所持勇者も、自ら国を興して隷属魔術で臣下を支配した。


 生前に国王や皇帝にならなかった勇者も居たが、100%の確率で子孫が所属国の王位や帝位を簒奪する結果となっている。


 ちなみに、『簒奪さんだつ』とは継承権を持たない者が不当な手段で帝位や王位を奪うと言う意味だが、残念ながら召喚勇者に継承権など有るわけがない。


 王族や皇族と婚姻関係にあっても継承権は無い。何故なら、結婚相手が男女関係なく臣籍降下して継承権を返上しているからだ。よって、禅譲はただのパフォーマンスである。



 少し話がズレたが、こうして、隷属魔術は勇者の子孫に遺伝性継承魔術として受け継がれていく事になった。


 隷属魔道具の製造法は勇者の子孫が門外不出の秘伝として隠匿している。

 現時点で存在する勇者の中にも、精神束縛系の魔術や特技を所持している者は間違い無く居るだろう。


 無差別低能化スキルや魅了スキルだけでも厄介だが、隷属魔術の乱発や隷属魔道具の大量生産などされたら目も当てられない。


 しかし、勇者は魔族に対して隷属化という手段をあまり取らない。ヴェーダの統計では、千対一の割合で人間への隷属化が多い。


 比率が偏っているのは魔族を隷属化せず殺害するからだと思うが、隷属化された魔族がエルフ、ダークエルフ、ドワーフ、ヴァンパイア、人狼や人虎といった人型の女性魔族で、その大半が幼女か容姿の幼い女性である事からして、ろくでもない理由が比率の真実だろう。


 サイコの小児性愛者など問答無用で即殺しろと人間共に言いたい。




 さて、その忌まわしき隷属の魔道具は二種類有る。


 一つは何らかの道具に隷属魔術を付与する型の物、身に付けやすい装飾品が一般的だ。もう一つは、製造過程で隷属魔術を内部に埋め込み、指定された制約を発動させる物。


 付与型は制約の設定変更が容易く量産し易いが、指定出来る制約が少なく、付与する道具と隷属魔法との相性や魔法に対する耐久性により、魔道具としての寿命や魔術の水準にバラつき出る。


 埋め込み型は制約の設定変更が難しく、製造時間と製造出来る人数、つまり王族や皇族の数の問題で量産は物理的に困難。


 しかし、隷属魔術と相性の良い物質に魔術を埋め込みながら製造する為、道具の寿命は永く、指定出来る制約も多い上に高水準の隷属魔術を埋め込める。


 主に国の要人や国家機関が使役する者に対して埋め込み型が使用される。ラヴや兵舎に居たエルフ、鍛冶を強制させられていたドワーフなどは埋め込み型だ。


 驚いた事に、国王や皇帝以外の王族・皇族、そして全ての貴族には埋め込み型を身に付ける事が義務付けされている。


 これは万国共通らしいが、国王や皇帝が崩御した際の『言動指定制約』は各国ごとに異なるようだ。その大半は、太子の保護目的制約、つまり即位の反対意見や謀反を禁ずる制約だとヴェーダは言っている。


 付与型は民間への有料貸し出し用として製造され、奴隷商などがそれを国からレンタルする。


 付与型の隷属魔道具は主に奴隷用だ。

 奴隷は全て国が管理している。民間の奴隷商などが商品として扱う場合は必ず国へ奴隷登録を提出しなければならない。


 隷属魔道具の無断使用や無登録の奴隷所持は極刑。


 隷属魔道具を国からレンタルした者は契約魔術と隷属魔術を掛けられ、隷属魔道具の悪用や叛意を強制的に予防される。その為、民間で奴隷商を営む者は少なく、国営の奴隷商会が多くの奴隷を抱えている。


 奴隷の三割が犯罪奴隷、一割が捕虜奴隷。彼らは終身奴隷であり、終身奴隷の男女から生まれた子供達も終身奴隷、奴隷全体の五割がこの子孫奴隷である。


 残りの一割は借金奴隷、自らを国営の奴隷取引所に売った者や、家族に連れられ売られた者達だ。


 誘拐等で奴隷として売られる事はほぼ無い。奴隷取引の場で尋問用隷属魔道具を付けられた奴隷に『真実を語れ』と国の役人が尋ねるので、売人は犯罪のしようが無い。


 だが、ゴミは何処にでも居るもので、役人・売人・商人の三者が結託していれば、非の無い者を非合法で奴隷落ちさせる事も可能だ。


 しかし、魔族には奴隷の種類や奴隷に関する法など関係無い。


 人間に捕まったエルフなどの“利用価値の有る魔族”は、全て終身奴隷、厳密には人間の奴隷より下の扱い、『終身家畜』となる。奴隷商会に連れて来られた魔族は問答無用で奴隷落ち、売人の奴隷入手ルートも問われる事は無い。



 アホの呪いが掛かっている割には、隷属魔道具関係の法整備がしっかりしている。それだけ王族や皇族が隷属魔道具の危険性を把握していると言う事だろう……


 と思ったが、この法整備は各国の初代勇者が整えたモノが四百年ほど掛けて世界に普遍化したものらしい。


 法整備に失敗した国が多く、成功した国の法を倣ったようだ。法整備に失敗して滅びかけた国を別の勇者が乗っ取り、新たな隷属魔道具関連法を作って施行したケースも少なくない。


 もう禁止にしろよと言いたい。



 そんな危ない魔道具を百七十個、俺は所持している。


 俺が所持しているのは隷属の首輪。民間の奴隷商が扱っていたエルフ達に付けられていた付与型の首輪と、辺境伯所有だったエルフとドワーフが付けていた埋め込み型の首輪だ。埋め込み型には死属性契約魔術が施された物が十六個有る。


 その首輪をヴェーダが分析していた。


 埋め込み方や付与された状態など、巫女衆や宮掌くじょう衆、兵舎で進化を果たしたエルフ達と共に構造を細部まで分析し、契約や隷属制約の内容を書き換える作業に当たっていたのだが、一日でそれが可能だったとは思わなかった。



『トモエとイセの両名、妖蟻と妖蜂の魔法兵から協力を得られましたので』


「ん? トモエとイセ? 二人が姉貴から離れて研究に協力したのか?」


『いいえ、アリノスコ=ロリに二つ持ち込みました。その後、私が三か所の研究を中継しながら作業してもらいました』


「便利だなぁ眷属ネット」


『トモエとイセが優秀でしたので、短時間での分析となりました。あとは、ラヴの闇魔法で隷属魔術の制約条項を書き換えるだけです。死属性契約以外の契約魔術は無属性ですので、進化済みのエルフ十六名で書き換えは完了しております』


「そっか、お疲れさん。手伝ってくれた皆にも礼を言っておいてくれ、あとで直接報酬を渡す」


『了解しました』



 人間が所持する首輪以上に“穴”の無い隷属魔道具が出来たワケだが、魔族相手には使う予定は無いし、人間の捕虜も居ない、暫らくはお蔵入りかな?


 どう思うメチャ?

 気持ち良さそうに寝てやがんなぁ……



「早く三十歳になって、偉大な喪女様に変身してくれ、俺の我慢も限界だぜぇ」


「んぁぅ、スピー、スピー……」



 はぁぁぁ、寝るか。

 今度は邪魔するなよヴェーダ、メチャの股枕を堪能出来る時間は少ないんだ。



『ナオキさん、フリドメン辺境伯が挙兵するようです』


「あ゛? 教国に攻め込むのか? それとも謀反か?」


『教国に正義の鉄槌を下すと息巻いておりますが、その前に大森林で雑兵のレベル上げと大掛かりな魔核採取を敢行する方針です』


「何でダヨ……」



 だから馬鹿は嫌いなんだよ。

 行動が読めない上に、いらんところでマトモな行動を取る!!





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