第75話「お前は俺に何か恨みでもあるのか」




 第七十五話『お前は俺に何か恨みでもあるのか』




 何やらキョドりつつレインに言い訳じみた意気込みを語る豚。

 アイツは何がしたいんだ……。


 とりあえず豚観察は中止だ、北伐の話をしよう。



「――で、中部の“比較的”まともな魔族に使者を送るわけだが、俺はメーガナーダに使者をやってもらいたいと思っている。理由はその強さと見た目だな、マハトマ種の上位ゴブリン、初見のインパクトは相当なもんだろう」


「……インパクトなら南浅殿が一番だと思うが。無論、兄者を除いての話だ」


「ブッヒッヒ、ミギカラの爺さん見たら驚くぜぇ中部の奴ら。なぁ南浅王っ!!」


「いやいや、うわっはっは、照れますなぁ、だがしかしっ!! 御下命とあらば是非も無い。使者としてこの“南浅”が、『ダンス・ウィズ・中部魔族 ~王に抱かれて・夏~』をして参りましょう」



 あぁ、駄目だ、ミギカラがまた気色悪いミギカラになってきた。

 そのダンスは宴会の時に見せてくれ。



「待て待て、お前とジャキとレインは中部一の武闘派『北都猪人族』をくだして欲しい。北都猪人は膿に浸かっていないらしいが、浅部から来た使者の話に耳を傾けるとは思えん。そうだろジャキ?」


「まぁ、聞く聞かないの前に、俺の爺さんも親父も使者に会わねぇな。長兄と次兄も同じだ、幹部で話を聞く可能性があるのは四男のケンジロウだけだろう」


「……北都が落ちれば、中部の奴らも使者の声に耳を傾け易くなる、と言う事か兄者」


「そうなって欲しいと思っている。膿に浸かっていない中部魔族の中で、北都猪人より強い魔族は居ない」


「兄貴の考えでいいと思うぜ。北都猪人と個体の強さ的に同格な中部魔族つったら、東中部を支配しつつ人間牧場持ってる妖蜘蛛ようちしゅ族や西中部と南中部に多く住む妖樹族が居るが、奴らは穏健派だ、北都を降せる浅部魔族の話ならしっかり聞くだろうよ」



 問題は膿に浸かった中部魔族だ。

 一応北伐の話は持って行くが、恐らく協力を得られる事は無い。


 せめて理解を得られる事が出来れば、そう思うがこれこそ無理な話だ。

 

 ハーピーという甘い蜜を持って来てくれる存在を否定し、北伐に賛同する気概がある様な奴らなら、森の掟を忘れて汚ぇ膿に浸かる事も無かっただろう。


 そこにどんなの理由があったとしても、掟破りのアホに理解出来る話じゃない。


 そんな気概を持てない奴らが、自分達より強者である深部魔族や大森林の覇者である魔竜を討つ為に立つなど、期待するだけ無駄だ。


 だが、礼儀として、仁義を通す為に話は持って行く。


 俺達の話を断るのは自由だが、あとからグチグチ言わせない。北伐が済んだら『ジャングルカースト』の最下層に沈んでもらう。


 干し芋をかじりながらそんな事を考えていると、同じく干し芋を齧って幸せそうな表情のジャキが、右手に干し芋、左手に熱い麦茶を持って話し掛けてきた。食いしん坊かな?



「ムシャムシャ、兄貴、俺ぁメーガナーダを見た事ねぇが、そいつら潜入部隊にいるんだろ? って事は、使者に立てるのは明日以降か?」


「そうなるが、お前らは今日中にワイバーンに乗って北都に行け」


「ムシャムシャ、え? 今日? 何で?」

「北都を降した状態のほうが、使者の話に耳を傾け易いだろ、中部の魔族も」


「ムシャムシャ、なるほどなー」

「……兄者は、北都の長兄と戦わんのか?」


「その役はミギカラに譲る。キングのお披露目には持って来いの相手だからな。ついでに北都の親父と爺様もヤッてこいよミギカラ」


「ハッハッハ、主様は老いぼれの扱いが厳しいですな~。では、老骨に鞭打って北都の“ガキ共”を躾けて参りましょう。ハッハッハ」


「ムシャムシャ、俺の爺さんは八十歳だぜ、アンタより一回り上だよ」


「ハッハ…… そう言う考え方も、ありますわな」



 何故、ミギカラはまらないのか?

 呪われているのではないか?

 一抹の不安を覚える。


 こういう時は、俺の隣で居眠りしながら鼻提灯ちょうちんを膨らませているメチャを愛でるに限る。しっかし可愛いなオイ。その鼻提灯が俺を狂わせる。


 さっきからメチャの声がしないと思っていたら、ヨダレを垂らしてコックリしていた。そう言えば、俺とメチャは少ししか寝ていなかったな。


 俺も少し横になるか。

 メチャを姫抱きして第一砦内に在る俺の部屋へ行こう。

 女夜叉になったメチャを抱えるのは、これが初めてだ。



「俺はメチャと少し休む、お前達も休憩しておけ。さぁてメチャ、ベッドに行くぞ~」


「んぁぅ、ぅん、ベッド、行く」

「よ~し、よっこいしょういち」



 おぅふ、柔らかい。色々柔らかい。

 これは…… イカンな。ペニスがイライラしてしまう。



「じゃぁな、日暮れ前には起きる」





「うっす。…… いいなぁ兄貴……」

「……お前にもゴブリンの女衆が居ると聞いたが?」


「居るけどよ……」

「……メチャは美しい、か」

「ち、違ぇよ、バッカ、あんなんブスだよ、目ん玉大丈夫かオメェ?」


『メチャはブス、ですか、面白いですね』


「ぁぁぁぁあ、姐さん違うんです、このトカゲが変な事言うからぁ」



 背後からジャキ少年の『荒くれ慕情~森の奥から・第二章~』が伝わってくる。下半身が俺より正直な彼に純情少女メチャを攻略できるのだろうか……


 ジャキのツンデレは、昭和の香りがするので嫌いじゃない。

 今はその甘酸っぱい青春を謳歌して欲しい。


 そして下半身に振り回されないで欲しい。今も振っている。ブラブラだ。

 ヒモで縛っとけよソレ……。何でパンツ履かんのお前?

 ガールズが作ってくれただろうが、アホめ。


 俺はノーパンだが。




 さ、て、とっ、メチャの股間枕でうつ伏せに寝て、若人の青春にエールを送る。


 クンカクンカ、むはーっ、私っイライラしますっ!!

 ちょ、ちょっとお花摘みに行きましょうかねっ!!



『ナオキさん、首輪の解析が完了しました』


「スーハー、スーハー、え?」



 ヴェーダ……お前さぁ……


『何か?』


 ……いや、仕事が早いですね。





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