第74話「死ぬほど食いたいわけじゃないです」




 第七十四話『死ぬほど食いたいわけじゃないです』




「よ~しよしよし、ステイ、ステイ、グッボィ、グッボィ、あ、お前メスか、グッガゥ、グッガゥ」


「グルルゥ」

「グゴォォ」

「ングウウ」

「グルッ」



 新たに眷属化した四頭のマハトマ・ワイバーン。

 眷属進化して体色が青から黒紫に変わって不吉な翼竜っぽくなった。通常のワイバーンより少し大きい。


 体長は平均14m、翼を広げた状態の『翼開長』は約18m。

 体長に対して翼開長が短すぎるが、体長の半分以上が首と尻尾だ、尻尾の先に有る毒針だけで50cmはある。胴体は4mほどしか無い。


 翼竜種は魔力を翼に流して長距離飛行が可能。時速130kmで飛べる。

 ハヤブサは時速380kmで急降下するらしいが、そんなワイバーンに育って欲しい。ジェットコースター大好きなんだっ。


 この四頭はこれから東周りで北のハイジクララ山脈に戻り、そこで群れのボスを倒して下剋上してもらう。その後は群れを率いてガンダーラに戻ってもらい、全頭眷属化する。


 四頭のリーダーはレベル38のオス八歳に決定。

 名前は『シムラ』にした。大物になってくれるだろう。ただ、後方への注意が散漫だ、後ろには気を付けてもらいたい。


 他の三頭にもそれぞれ『ヒゴ』、『ジモン』、『リュウちゃん』と名付けた。リュウちゃんはメスだ。


 そんな四頭に大イノシシの肉を与え、マハトミンCを二本ずつ飲ませて北へ戻らせる。標的の総合力は20万前後だが、ヴェーダ曰く『勝てる』とのこと。


 パパッと片を付けて今晩中に戻って欲しい。群れに何頭居るのか分からんが、現時点で陸上兵を輸送出来る空挺団が手に入るのは嬉しい誤算だ。


 レインの言葉を聞いて良かったと心から思う。



「よ~しよしよし、それじゃぁ、頼んだぞお前達」


「グッフンダ!!」

「グルル~!!」

「グァウ!!」

「ングルゥ!!」



 四頭は大きな翼を広げ、両翼に魔力を流しながら上下させて浮上。ガンダーラ上空を三度旋回して東へ向かった。妖蜂の領域を通過してクララ山脈沿いに北上する予定だ、魔竜に勘付かれる事は無いと願いたい。



「け、賢者様ぁ、お昼の御用意が、出来ておりますぅ」


「もうそんな時間か、悪いな待たせて。メチャ、今日の昼飯は何だ?」


「えっと、あの、鹿の丸焼き岩塩味です!!」

「あぁぁ、炊きたての白い飯が喰いたくなるな……」


「白いメシ?」

「麦みてぇなもんだ。さぁ、早く行こう」



 現在の時刻は13時21分、第一砦内で遅い昼食だ。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 やっぱ白飯が食てぇぇ、塩と肉汁が口の中で大暴れやでぇ~。


 FPで購入した小麦粉に聖水を加えて作った薄いナン的な物に、焼いた肉を挟んで食べるのがガンダーラの流行りだが、実に惜しいと言わざるを得ない。


 贅沢な話だが、米と肉のベストカップルぶりを知る身としては、いささか物足りなさを感じてしまう。死ぬほど食いたいというわけではないが。



『“ろうを得てしょくを望む”と言ったところですか、中央ユースアネイジアではインディカ種に近い稲の栽培が確認されています。いずれその地を征服した暁には、お腹一杯お召し上がりください』


「ラヴ達に略奪してもらえねぇかな」

『お待ち下さい…… 了解したとの事です』


「よしっ!! でも、今は夏だから収穫前か……」

『商人の倉庫などに多く保管されているかと』


「それは…… 没収だな。影沼を米で満たすのだっ!!」

『ラヴに伝えておきます。他の食料品も収奪させましょう』



 インディカでも何でもいい、『お米』が食えるなら文句は無い!!

 現地の住民? 食糧難? 知らんな。


 魔族奴隷を解放するなら、少しはソレらの事を考えんでもないが。

 まぁ無駄な期待ですな。食も満足に得られん魔族奴隷を解放して、たっぷり食わせてやる事を考えた方が賢明ですわ。


 明日の今頃に解放奴隷を連れたラヴ達が帰って来るはずだ、待ち遠しいなぁ。美味しいもんを腹一杯食わせてやりたい。



「ラヴちゃん、怪我してないかなぁ……」

『大丈夫ですよメチャ、全員無事です』


「……ラヴ? あぁ、破壊工作組の者か」



 レインはまだ俺の眷属達をほとんど知らない。

 この場に居るのは魔竜の眷属と戦った俺達と、ミギカラ達ゴブリン氏族長や男ドワーフ達だけだ。


 妖蜂や妖蟻は地下帝国で待機したままヴェーダを通じて幹部会議を開く予定なので、レインが顔を合わせるのは明日以降だろう。


 今回避難して来たラミアとナーガ族、ハーピーや山脈沿いのコボルト、彼らとは俺もまだ顔合わせを済ませていない。各氏族長が挨拶に来たがっているそうだが、今は地下で大人しくしてもらっている。


 顔合わせは魔竜の動きを確認した後だ。

 今日中にカスガとアカギから蟲の増援を送ってもらい、眷属化して偵察と哨戒に当たらせる予定。



「ラヴ達が暴れてくれたお陰で、大森林の南に在る三カ国は森の魔族どころじゃなくなっている。これで俺達は北伐に専念出来る」


「……なるほど、その為の潜入破壊工作か」


「って言うか姐さん、俺達が暗躍してる事は神様達にバレてねぇのかい?」


『遊戯盤はこの地上全て、神々も辺境に在る森だけを見ているわけではありません。信徒の目を使って地上を見ますが、南浅部に人間は居ません。たとえガンダーラの暗躍を知ったとしても、それを神託で人類に教える事は出来ません。それが遊戯のルールですので』


「ふぅ~ん、それじゃ神々は見てるだけか、ザマねぇぜ、ブッヒッヒ」


『神々がガンダーラに対して出来る事と言えば、神託で大森林を攻撃対象として指定する程度です。他陣営の行動内容を自陣営の人類に知らせたようとした神や、直接地上へ手を加えた神はそこで遊戯終了。強制退場ののち神界を追放され邪神に堕とされますので、進んでルール違反を行う神は居りません』


「……他神にそそのかされて邪神堕ちする駄神が居そうだな」


「ブヒッヒ、レインも姐さんに色々教えてもらったみてぇだな、遊戯の話聞いてどう思った?」


「……フッ、兄者が崇めるアートマン神を玉座に据えるのに都合が良い、そう思った。俺に備わっていた戦神ムンジャジの加護は既に消えていたが、新たに大神アートマン様から加護を賜った。俺がやるべき事はその時点で決まっている」


「ブ、ブヒ、お、俺と同じ考えだな、さすがだ」



 どうやらジャキは、レインとは違った思いを抱いていたようだ。

 おそらく、『ブッヒッヒ~、何だか解んねぇけど勃起しちゃったぜぇ~』といったところだろう。


 アホは放っておいて、北伐作戦の話をしよう。







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