第68話「フッサフサじゃん……」
第六十八話『フッサフサじゃん……』
狸の墜落現場に目を遣ると、メチャが狸の頭に麻袋を被せ、その背後から“
麻袋を被せているのは、魔竜やコアが眷属の目を使って覗いている恐れがあるからです。
その麻袋を被った狸の頭をジャキが左手で掴み、レインと共に狸の顔面を殴り回している。魔法を唱えさせない為だろうが、狸はメチャの絞めがキマっており、既に声が出せない。
何だか、ジャキとメチャがいつもより荒れてるな。
レインはいつもあんな感じなのだろうか、ジャキやメチャ並みに攻撃が激しい。これが女の妖狸だったらアイツらは手加減したのだろうか? 微妙なところだ。
四肢を失い絞め技で固められている狸は一方的にやられているが、ダメージはほとんど通っていない。絞めでの窒息は難しい、殴打による殺害も無理だろう。
現状では失血でのショック死が濃厚だ。
正直、ここまで硬いとは思わなかった。
これが、各種耐性や“防御力・攻撃力”という数値のある世界なのだと実感した。
物理無効の俺が数値としての防御力と相手の攻撃力を認識出来るのは、今のところイセやトモエの攻撃を喰らった時だけだ。
防御力は体の表面に適用される。無論、髪や眼球も例外じゃない。袋を被った狸の眼球部分にジャキが貫手を放つが、狸にはダメージは入らなかった。
総合力1,500万の狸と100万台のジャキやレインでは、差が有り過ぎる。
狸に攻撃の通る個所は……
口内も見える部分は駄目、食道か肛門か尿道に細い鉄棒でも刺して内臓突き刺し祭りかな……。俺が狸の腹を裂いて、その中にナイフでも入れさせて心臓を刺すのもいいが――
――ふと、蟲達を思い出した。
俺の眷属となった蜂や蟻もそうだが、毒を持つ蟲や虫は【
穿通は対象の防御力を無視して針や牙を皮膚に通すスキルだが、耐性は貫けないしレベル差があるとダメージも入らない。しかし、物理耐性や刺突耐性を持たない相手には、確実に針や牙を刺し込める。
毒耐性を持たない相手にはこれでダメージを与えられるわけだ。
何故、突然このスキルを思い出したかと言うと、魔族の中にも穿通を先天的に備えて生まれる種族が居るからだ。
例えば妖蜂族の蟲尻から出される針、妖蟻族の牙にも穿通スキルの効果が乗る。代表的な穿通スキルの使い手と言えばヴァンパイアだ。彼らは穿通スキルを発動させて相手に痛みを与えずに吸血出来る。
当たり前の事だが、穿通スキルを発動せずに針や牙で攻撃する事も可能だ。穿通で突き刺した後に効果を切ってダメージを与える事も出来るだろう。高レベルの者なら穿通スキルを発動させたまま相手を刺し貫いて殺す事も出来る。暗殺者だな。
――と、まぁこの場にツバキやササミが居れば、あの狸はコロっと死ぬんじゃないか、そう思ったんだが…… もう少し俺がダメージを与えてみる事にしよう。
時間が勿体無いのでケツに鉄棒串刺しはお預けだ。腹を裂くのもヤメ、それで死んだら困る。
「どこを狙って弱らせようか……」
テクテク歩いて三人の許へ移動。
メチャが俺に気付いて焦った顔を見せ、絞めを強めた。ジャキとレインも手数を増やす。叱りに来た訳じゃないんだが。
「ジャキとレインは退け、メチャはそのまま絞めてろ」
「は、はいぃ!!」
「あ、兄貴ぃ~」
「……クッ、無念」
「いやいや、殺し易くするだけだから、落ち込むな」
肩を落として悔しがるジャキとレインを宥め、二人を一歩後退させた。
狸野郎に近付いて初めて気付いた事がある。
なるほど、三人が荒っぽいのはコレが理由か。
俺は左手で狸の頭を掴み、右手で麻袋の右上を少し破ってケモ耳を袋から出し、その右耳に小指を突っ込んで鼓膜を破った。
やはり鼓膜も防御力が乗ってるな、抵抗があった。
鼓膜以外にも骨やら肉やらブチブチ鳴っていたが、死んでないので問題無い。ケモ耳の穴が途中で『くの字』に曲がっているとは思わなかったから強引に行った。後悔はしていない。
狸の絶叫が森に木霊す。うるせぇ野郎だ。
メチャがさらに絞めを強めて狸の声を封じた。ナイス。
「あ、兄貴、何やってんだ?」
「この右耳に小枝でも刺し込んで殺せ」
「え~っと、じゃぁ俺が――」
「……退けジャキ、三男は次兄の後だ」
「メチャが待ってんだ、早くしろ」
「あわわ、わ、私は大丈夫です!!」
「……では俺から」
どうやらレインが一番手で決まりのようだ。
地面に突き刺していた鉄の槍を抜き、レインが狸の耳に穂先を入れる。
「……お前の体から漂うハーピーの香りには、悲しみが含まれている。……死ね、チャオッ!!!!」
レインの鉄槍が狸の頭にズヌリと刺し込まれた。
狸の頭に被せた麻袋、その鼻の辺りが朱に染まる。
軽く穂先で円を
『レベル142、二回進化出来ます』
「よっしゃ、そりゃ良かった」
「しゅ、しゅごいでしゅ~っ!!」
「ブッヒ、なるほど、マジで『いい考え』だったな兄貴」
「……兄者、進化先は、どうする?」
「好きにしな」
「……分かった。では、リザードガードにする」
ヴェーダによると、リザードガードは戦士系希少種。リッターリザードの上位種だそうだ。
レインの体から白い光が放たれ、進化が始まった。
ゴキゴキと骨を鳴らし、長い尻尾が地面に叩き付けられる。
やがて光が止み、オレンジ色の鱗に包まれたレインが誕生した。
デケェ、ジャキを超えたな。身長は308cmもある。
そして俺達が驚愕する変化がレインに起こった。
リザードマンはトカゲだ、二足歩行する大トカゲだ。
だがしかし、今のレインはタダのトカゲ男ではない。
「レイン、お前……」
『これはこれで宜しいかと』
「で、ですねぇ、ジャキより男前です!!」
「ブ、ブヒッ、お、俺は負けてねぇ!!」
「……? 何の話だ?」
「お前、髪がフッサフサだぜ?」
レインは銀髪ロンゲのイケメンになった。
顔はトカゲだが、背中に靡くロンゲが爽やかだ。
これは『笑ってはいけない』系の罰ゲームだろうか?
レインをまともに見る事が出来ない。
誰か助けてー。笑てまうわ。
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