第67話「狙い撃つぜっ!!」




 第六十七話『狙い撃つぜっ!!』




 マハーカダンバに登ったのは初めてだ。


 岩から出たその日に、目に付いた巨木を引っこ抜いてここへ移植した。


 神岩と神像と聖泉の力を吸収してグングン成長した神木。今では大森林一大きな木として、南浅部から大森林と長城を睥睨へいげいするかのようにそびえ立っている。


 その巨大な神木に登った俺は青々と茂る木の葉で身を隠し、葉陰の中で“今回の武器”を弄りながら南の空を見つめていた。


 俺の役目は、レベル300を超えた獲物を“雛鳥”達に与える事。


 獲物の総合力は約1,500万、雛鳥達の十倍から二十倍の総合力。ちょっと強過ぎるな、雛鳥的には。


 眷属進化とコアから創造した“強化アイテム”によるドーピング効果だとヴェーダは言ったが、養殖としては総合力が高過ぎる。どんだけドーピングしたんだか、レベルに見合っていない強さだ。


 特異個体のイセやトモエ等はレベル0の状態で既に総合力1千万を超えているが、ジャキやレインのような一部の上位個体でもレベル0の時は一万前後、レベル30を超える辺りでやっと100万を超える。ゴブリンに至っては50前後だぞ?


 まったく、ダンジョンマスターの恐ろしさだな。ダンジョン攻略に精を出す人間の気が知れねぇ。自ら餌を運んでダンジョンを強化してりゃ世話無ぇぜ。


 とにかく、瀕死状態の餌以外は雛鳥が腹痛をおこす。餌の防御力と雛鳥達の攻撃力に差が有り過ぎてまさに『歯が立たない』。瀕死の状態でさえ餌の物理防御を貫くのは困難だ。


 今の俺なら狐でも狸でも瞬殺出来る。ダンジョンに戻って本来の力を発揮されたら少しは手古摺るかも知れんが、今なら何の問題も無い。一対一で苦戦のしようがない。


 だが、俺が殺すのは惜しい。無論、経験値的にだ。


 俺は今でも潜入組が稼いでいる経験値カルマが入ってきている。テイクノ・プリズナで眷属達が稼いだ経験値も全て一割頂いた、そこには蟲達が暗殺した分もしっかり入っている。


 今回神木の下で待機している三人の誰かが狸野郎を仕留めれば、レベルは一気に100を超えて進化も果たせる。その上、俺にも一割経験値が入る。しかし、俺が仕留めると俺だけにしか経験値は入らず、三人のレベルも上がらない。


 俺は常に経験値が入ってくるので、俺の手に余るという難敵以外は全て眷属達に仕留めさせたい。難敵は基本的に戦いません。


 イセやトモエほど『ブッ壊れ個体』ではないが、俺も一応は特異個体だ。1レベル上がれば総合力は跳ね上がるし、レベルを上げなくてもスキルの熟練度を上げれば総合力は順調に上がっていく。


 つまり、今のところではあるが、俺はそれほどレベル上げに拘る必要は無い。


 北伐を狙っている現状としては、少しでも眷属達の総合力を高めておきたい。特にジャキやレインといった上位個体、今は一人しか居ないがメチャのような特殊変異体は積極的に上げていく。って言うか、ジャキとレインが眷属化したら、かなりの強さになると思う。


 スコル&ハティは…… 自由にさせていいだろう、ヴェーダも『放っておきなさい』って言うし、アイツらは少しオカシイからな。今もムシャムシャ魔核を食べて、俺の想像に変化球を加えた成長を遂げると思われる。



『ナオキさん、目標が視認出来る距離まで近付きました』


「来たか。それで、やっぱり狸達もコアの『眷属ネット』使ってんのか?」


『ダンジョン外では使っていませんね、南浅部での合流はモタついていましたし、合流後に浅部魔族不在を確認していましたので』


「魔竜が眷属の視覚を共有している可能性は?」


『それは判りません。共有可能なマスターも居ますし、不可能なマスターも居ます。今回、視覚共有の線は薄いかと思われます』


「援軍を送って来ないからか?」


『二百年以上穴に籠る魔竜にとって、浅部魔族の消失は自らの安寧をおびやかす異常事態であると思われます。何らかのアクションを起こしても不思議ではありませんが、ダンジョンに動きはありません』


「う~ん、推測か。まぁ作戦に変更は無し、だな」

『それで宜しいかと。そろそろ目標が南の水濠を越えます』


「それじゃ、隠れたまま狙撃すっか」

『ナオキさん、ソレは弾丸ではなく“砲弾”です。爆散しますよ』


「おっと、じゃぁこっちの弾で……」



 直径10cmほどの鉄球を神木銀行に預け、直径1cmで長さが4cmの細い鉄を四つ取り出した。


 ライフルの弾頭部分だけを真似た物だが、先端部分の鉄を粗悪にして強度を下げ少し凹ませてある。


 ヴェーダによると、こうする事によって弾丸の貫通力と弾速は下がるが、目標に当たったあとの破壊力を上げるそうだ。ホローポイントと呼ばれる弾丸らしい。回転を加えて飛ばすとなおヨシ。



『狙いはもっと右です、はい、ワイバーンの翼が四回下がったあとにどうぞ』


「ワーン、ツー、ワーイ、バ~ン」



 俺の周りに浮いた四つの弾丸が消える。


 集会所の少し手前まで接近していたワイバーン、その首元に並んで座る人間と狸の両肩と両膝を弾丸が貫いた。


 人間は自分の四肢が吹き飛んだ事に気付いていない。


 しかし、人間の後ろに座っていた狸は違う。撃ち抜かれて一瞬呆けたが、前に座る人間の両肩から溢れだした血が風に乗って顔に掛かり、それが人間の物だと知って驚愕し、次いで自分の四肢が消えている事に気付いて絶叫を上げ、落下した。


 そこでようやく自分の状態に気付いた人間が失神、同じように落下する。ワイバーンが契約主を助けようと急降下したが間に合わず、人間は地上約50mの高さから墜落してぜた。


 その瞬間にワイバーンの従属契約消失、超低空から再び空へ舞い上がろうとしていたので、俺が神木から飛び降りてワイバーンの頭を軽く小突き気絶させる。



 ふぅ、成功かな?


『お見事』


 そりゃどうも。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る