第66話「それは……ありやな」
第六十六話『それは……ありやな』
コアが生み出した『
長城の第三城壁から出て、南東と南西に100kmほど離れた場所にダンジョンマスター不在の魔窟、第一城壁から西南西へ30kmの位置に魔人『魔ドンナ』がマスターを務めるダンジョン『パパドンプリーチ城』が在る。
その三か所には養殖がウジャウジャ居るだろうが、長城が出来てからは大森林に長城外の養殖は入っていない。地竜が来る前の大森林魔窟から湧き出た養殖や、ゴブリンや猪人族が攫った養殖は既に姿を消し、その養殖因子はゴブリンから消えた。
この大森林で養殖因子を持つ可能性が有るのは、魔竜の眷属を除けば猪人族のみ。
何だか寂しくなってくる。不思議だ。
コアやマスターの意思で創造された生物、その大半は肉壁や他者の経験値となる運命。
ゴブリンや猪人の子を作るハメになった養殖達は、子孫を残したという一点だけ見れば、他の養殖よりもマシ…… いや、創造された意味と言うか、自分が存在した証を残せたんじゃねぇか…… って、養殖もこんな事言われたくねぇよな。
養殖の事は人間も魔族も【魔物】扱いだ、魔族はダンジョンに潜って養殖狩りなんてしないが、目に入った者を本能で襲う養殖を、自分達と同じ魔族だとは思えないようだ。そもそも魔族だけなんだよなぁ、同じ姿をしたモンスターが居るのは。不公平だろ。
このクソゲーを作った『世界』とやらのミスなのか、意図したものなのか分からんが、魔族だけ養殖狩りをしてレベル上げをしない理由の一つだな。
実際、養殖に用が有るのはゴブリンと猪人の二種族だけだ。
普通の魔族は養殖を性の対象として見ない。普通ではない奴も居ると思うが、そいつは変わった性癖の持ち主という扱いになる。
しかし、そこに愛があればどうだ?
養殖の知能を上げたうえで、その変態紳士と相思相愛になったら、俺は普通に祝福するだろう。おめでとうっ!!
養殖の問題点は低い知力に起因する凶暴性だ、それさえ無くなれば『生気の無い魔族』と言ってもおかしくはない。俺が養殖を眷属化すれば魔造生物ですらない存在になるかも知れん。
そうすれば、魔族の一員として迎え入れるのも難しくないような……、『世界』はこれを念頭に入れていたのかな?
いやいや、ゲームバランス悪ぃ……よな。まだ分からんな。
養殖は理論上【無限湧き】が可能だ。
コアが生気を吸収し続ける限り、創造召喚が止む事はない。これはダンジョンマスターが恐れられる一因だ、だが、蠱毒や肉壁として使い潰さずに育て上げれば、短期間で大軍団が出来上がる。
しかし、それじゃ駄目だ、兵隊限定の扱いじゃぁ俺も養殖も納得出来ん。育て上げるって言うのは武力だけの事じゃない、赤ん坊を育てるように色んな事を教えてやらなきゃ『魔族の一員』なんて言えない。
大軍団の兵としてではなく、ガンダーラの住民、俺の眷属、アートマン様の加護を得た存在として共存出来れば、そう遠くない未来にガンダーラは魔族の希望になれるんじゃねぇかな……
『面白い考えですね』
「ヴェーダ、コアが欲しいな」
『ダンジョンマスターになると?』
「ならねぇよ、動きがとれねぇ」
『では、眷属にマスターをやらせますか?』
「やらせるかよ、そいつをダンジョンに縛っちまう」
『フム、難しい問題ですね。アートマンなら何か……』
「俺の存在が吉となると仰った、何とかなるさ」
「ブヒヒ、おいオメェら、兄貴が姐さんと面白そうな話してんぜ?」
「え? そ、そうだね、アハハ、おもしろーい!!」
「兄者がダンマスか、悪くない」
とりあえず、コアの事は後で考えるとして、魔竜のダンジョンから出て来た奴らが何をするのか確認しねぇとな。
「それで、狐と狸は何やってんだ?」
『人間が山脈からワイバーンを呼び寄せました』
「ワイバーン、翼竜か、そう言えばドラゴンテイマーだったな人間の四人は。それに乗って…… ハーピーの所か」
『そのようです。四体のワイバーンにそれぞれ眷属とテイマーが対になって乗りました。蜂では追い付けませんね、周囲の蜂を予想航空路に並べて対処します』
「増援を送れ、カスガから今朝貰った千匹を使っていい。指揮は任せる」
『了解しました。以後、私が指揮を執ります』
「あとは、ハーピー不在の北浅部に行った魔竜の眷属がどうするか、だな」
「こっちに来たらやっちまおうぜ兄貴」
「あわわ、わ、私も、頑張ります!!」
「ワイバーンは…… 助けたい」
レインはワイバーンに同情的だ。
同族意識みたいなもんが有るのかな?
「ワイバーンか、たまに空を飛んでるとこ見たが、青っぽい翼竜だったな。山脈に棲んでるなら、勝負して眷属化してみるか。だが、今飛んで来てるヤツはテイムされてるからな、四匹の行動次第で処分を決める」
「……ああ、それでいい」
「なるべく殺さないようにするさ。さて、お前らの装備を変えよう、戦うかどうか判らんが、準備は万全にしておく」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
あぁぁ、面倒臭ぇ……
来なくていいのに来やがった。
中部の奴らを動かせよ馬鹿野郎が。
これが良い事なのか悪い事なのか、今のところ判断し難い。
北浅部へ向かった魔竜の眷属達は、ハーピーの不在に怒りを表し、大木の上に組み上げられた木製の家屋を破壊して回った。
巨木の上に在ったクイーンの小さな城は徹底的に壊され、その巨木も妖狐の火魔法で焼かれたそうだ。樹齢を考えろよクソ野郎、絶対ブッ殺す。
暴れ回った妖狐達は東西の二手に分かれ、東浅部と西浅部を回って南浅部南側で合流。ここで奴らは魔族が居ない事を報告し合った。
そして現在、今度は四組に分かれて浅部の南端からジグザグに飛びながら北上している。
南浅部の西側から飛んで来た妖狸の一人がもうすぐガンダーラに辿り着く。
『あと約4分でマハーカダンバの上空を通過します』
「じゃぁ、ちょっくら御神木様に登ってくるわ。獲物が落ちたらフクロにして殺せ」
「け、賢者様ぁ、私も一緒に……」
「心配すんな、殴り合うわけじゃねぇ。俺が一方的にヤルんだからよ」
手も足も出させるかっつんだよ。
ハーピーの家代は高ぇぞ狸野郎。
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