第65話「なんだかなぁ~」




 第六十五話『なんだかなぁ~』




 さ~て、これで北に集中できるぞ、と思っていましたら、ヴェーダさんから緊急の報告。何やら北で動きがあったご様子。



『ナオキさん、地竜のダンジョンから…… 人間が現れました。数は四、全員がドラゴンテイマーです』


「あぁぁ……だとよ、オメェら」


「へへへ、そりゃまたゴキゲンだぜぇ」

「……よく分からんが、楽しくなりそうだ」

「あわわ、し、絞め殺しましょうっ!!」



 何でそんなに殺る気マンマンなの?

 士気が高いのは良いけどさぁ。



『ナオキさん、さらに魔族が四人出て来ました。妖狐ようこ1、妖狸ようり3、大森林には居ない種族です』


「強さは?」


『妖狐の総合力は2千万、妖狸が平均1,500万、人間は千以下です。妖狐と妖狸はダンジョンマスターの眷属となっています、ダンジョン内に戻れば総合力は倍以上になるでしょう』


「詳しい能力は後でいい、誰の眷属か判るか?」



『称号欄には【魔竜の眷属】と有ります。称号効果に【地属性耐性】が有りますので、ダンジョンマスターは地竜と見て宜しいかと。なお、人間に称号は有りません』


「って事は……地竜が他種族を眷属化したと思っていいか?」


『ダンジョンコアによって魔竜と化した地竜は、ダンジョンコアの精神支配、または異世界神の加護・干渉を受けたと思われます。よって、この世界の竜族とは違う異質な存在へと変貌を遂げた恐れがあります。【眷属適性】が【獣系】になったと確証を得たので、獣系魔族の眷属化も有り得ない話ではありません』


「何だそりゃ…… 他の種族もマスターになったら変わるのか?」


『人間以外の魔人化は前例が有りません。今回私が妖狐の鑑定を行う直前まで、アートマンから送られる知識には魔竜など存在しませんでした』


「あぁ、お前が未認識だったからな、こればっかりはどうしようもねぇ。神界の掟ってヤツか」


『称号確認後、新たに【大森林の魔竜】という綺麗に纏められた情報が私の知識に追加されています。魔竜に加護を与えた神は低級神ですね、アートマンが相手の情報を抜き取りました。竜の能力等はまだ空欄ですが、地竜が魔竜化した概要は閲覧可能です』


「ちょっと頭にブチ込んでくれ、駄竜の『ジャングル奮闘記』なんて読むのも聞くのも面倒臭ぇ」


『了解しました』



 俺の予想じゃ『地竜はマスターの眷属』って線が濃厚だったんだが、地竜マスター説の方だったかぁ。他種族の眷属持ちってのがキタネェよなぁ~、騙された気分だよ。


 さて、駄竜奮闘記の要点を纏めよう。



 *地竜が棲みかにした洞窟は生まれたての魔窟だった。

 *地竜討伐の為に洞窟へやってきた人間の軍を返り討ち。死人続出。

 *これによりコアが急成長。地竜による軍の殲滅はその後二回、コア大満足。


 *大森林に魔族や魔獣が集まる。地竜が大森林をべる。

 *地竜と戦っていた王朝滅亡、新王朝樹立、長城が築かれる。

 *人間の攻撃が止んだ大森林、洞窟の地竜も最奥で一休み。


 *地竜はその後も洞窟内に入って来た魔性生物を仕留めていった。コアは地竜の生気と死亡した魔性生物の生気・肉体を吸収し続ける。


 *平和な大森林に人間の勇者登場、深部まで抜かれた。

 *地竜が洞窟内で勇者と激突、僅差で勝利、勇者死亡。

 *地竜瀕死、洞窟の最奥へ移動。洞窟の壁を喰って体を癒す。


 *地竜が壁を喰いまくっていると、壁の向こうに空間発見。

 *更に奥へ進む地竜。やがてコアが設置された空間に到着。


 *地竜はコアを見つめて一度だけ吠えた。




 そして地竜は魔竜になりました~……


 地竜にいったい何が起こったのかは分からない。

 コアの置かれた部屋で神の声を聞いたのか、見つめていたコアの声を聞いたのか…… 色んな憶測を立てられるが、コアと契約を結んでマスターになった事実は確認出来た。


 ヴェーダやアートマン様が俺に偽りを教えているとは思わない。俺が信じきっているというのもあるが、たとえ偽りだったとしても、それが俺を救った神の意思なら是非も無い、与えられた情報を使って眷属を幸せにするだけだ。


 これは思考停止でも何でもない、今生に賜った天罰の一部として有り難く虚報偽言を頂戴し、それを自分の意思で使わせて貰う。


 男が女に騙された時は、『ナイスジョーク』の一言で赦すもんさ。


 それも、好い男の条件だ。



『最近、ジャキがカッコ良く思えます』

「ナイスジョーク」

『有り難う御座います』


「え? 俺が何? ってか姐さん、蟲をダンジョンに入れて偵察出来ねぇのかい? 魔竜も眷属も敵の数も全部調べちまおうぜ」


『ダンジョンに侵入した生物は、コアとマスターが正確に把握しています。【蟲系ダンジョン】なら潜入後に即殺される恐れは有りませんが、今回のダンジョンは【獣系】、侵入した蟲は非眷属の吸収対象としてダンジョンに生気を抜かれます』


「え? 何で獣系って判んの? そもそも蟲系とか獣系とか何?」


『ダンジョンはマスターの【眷属適性】によって、創造召喚出来る種族が決まります。魔竜の眷属は妖狐と妖狸でした、それ以外の眷属適性は除外していいでしょう』


「なるほどなぁ~、でもさ、狐と狸が創造召喚ってヤツで召喚された魔族の証拠はあんの?」


『妖狐と妖狸にはコアが造った【魔素溜まり】から生まれる【養殖】と同じように氏族名が有りません。眷属進化と高レベル化により低知能の問題は解決されていますが、他の能力より知力だけ数段低く、生気はゼロ、間違い無くコアによる創造生物です』


「そりゃ決まりだな」

「ブヒー、養殖の操り人形か。なんだかなぁ……」



 まったくだ。

 なんだかなぁ~……


 まぁ、敵として来るなら何とも思わんが。




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