第64話「ほぉ~チャオッ!! チャオッ!!」
第六十四話『ほぉ~チャオッ!! チャオッ!!』
「はぁぁぁ、疲れたぁ……」
『お疲れ様でした』
「お、お疲れ様で御座いますぅ~」
「ブヒヒ、お疲れ~」
カスガを無事『アリノスコ=ロリ』まで送り届け、アカギとイセの歓待を受けた俺は、妖蟻皇族と妖蜂王族に囲まれて軽い夜食を摂り、皆に礼と詫びを告げ、急ぎ『クララ・ガ・タッタ』へ戻った。
王城からイオリ小隊が吊るす駕籠に乗って先王の許へ飛び、一時間ほど『精』を絞り取られてから先王を担ぎ、二個小隊が蔓で吊るす巨大な駕籠に乗り込んで王城へ戻り、再び地下道を通って先王を妖蟻帝国まで送り届けた。
今回の観光バスは時速120kmの高速バスだったので、夜明け前に帝国へ到着出来た。俺とメチャは日が昇るまで『アリノスコ=ロリ』の客室で仮眠をとり、先ほどガンダーラに帰還。
時刻は午前七時を少し回ったところ、メチャが淹れた熱い麦茶を集会所で飲み干し、やっと一息ついた。
「ハーピー達は全員間に合ったみたいだな」
『西浅部の魔族も避難を終えました』
「潜入部隊は?」
『前回と同じ要領でクララ山脈から潜入、最初の村を滅ぼしました。行商人が捕らえていた“ピクシー”を二体保護、村に居たハーピーを一人保護しました。死属性魔術の被害者は居りません』
「ピクシー…… ナイトクロウラーが羽化したヤツか」
『そうです。大森林の生まれではありません』
「なるほど。ハーピーは…… 無事か?」
『外傷は有りませんが、精神が衰弱しています。強制的に犯罪奴隷の人間と交配させ、卵を産ませていたようです』
「あぁぁ…… そのハーピーを捕らえていたクソはどうした?」
『ハティの胃の中に』
「汚ぇモン喰うなって言っとけ」
「ったくよぉ、俺も潜入部隊に入れて欲しかったぜぇ、次は頼むぜ兄貴」
「お前の体じゃ潜入隊は無理だ。堂々と真正面から行かせてやるよ、一番槍だ」
「ブッヒッヒ~、聞いたかよメチャ、一番槍だってよ」
「ぐぬぬ、け、賢者様に、恥をかかせないでねっ!!」
『一番に折れる槍でしょうが、頑張りなさい』
「えぇぇ……」
「ハハハ、そんなに虐めるなヴェーダ。さて、何か聞きたい事は有るか? 西浅部の大将」
「……無い」
「レ、レインさん!! な、なんですかその態度はっ!! 賢者様に失礼ですよ!!」
「……弟が兄に対する態度は、こんなもんだ」
「ぐぬぬぅ」
「ブヒッ、気にすんなメチャ、レインの言う通りだぜ」
俺の横で槍を持って佇むリザードマン。
名は『レイン・ユーブラド=ナニイロダ』、五分前に俺の舎弟となった西浅部の小エリアボス、ユーブラド=ナニイロダ氏族の族長だ。
俺達がガンダーラに戻って集会所へ行くと、ボロボロになったジャキとレインを発見。ジャキは倒れ、レインは片膝を突いていた。
どうやら二人は『南都四兄弟の次兄は誰だ勝負』をしていたらしく、僅差でレインが勝ったらしい。とりあえず回復薬とマハトミンCを飲ませて治療した。
そもそもレインは俺と勝負しに来たはずだったのだが、今回の北伐前哨戦や浅部魔族の避難、ガンダーラの発展などを見たコイツは考えを改め、俺の舎弟として一緒に戦いたいと思ったそうだ。
ジャキが俺との勝負に敗れその下に付いたと聞いていたレインは、面識のあるジャキに俺との面通しを頼む事にして、ガンダーラで待機していたジャキを見付けると声を掛け、自分の考えをジャキに告げた。
すると、アホなジャキは「じゃぁお前三男坊な」とレインに告げ、いきなり兄貴ヅラを発揮して『女の扱い方と俺』なるゴミ持論を展開、レインをガッカリさせる。
レインは「こんなアホが兄貴なのは嫌だ」と悩み、ジャキに勝負を持ちかけてみると、ジャキが「稽古付けてやるかぁ~」と再び兄貴ヅラを発揮して勝負を了承。
ジャキが末弟ケンジロウにシバかれた理由の一端を垣間見たような気がしたのは、俺だけではないはずだ。
そして、二人の勝負が始まった。
ヴェーダ曰く、二人の総合力は拮抗しているらしい。実力的には互角、しかし相性がすこぶる悪いとのこと。
ジャキは打撃無効、そしてレインは斬撃・刺突無効。
ジャキの得意攻撃は打撃、レインの得意攻撃は槍による刺突。
これを聞いただけでも泥仕合が予想出来る。
同じ耐性持ち同士の泥仕合ではなく、弱点を突く者同士の泥仕合、しかも実力は拮抗、俺がその場に居たら腹を抱えて笑ったと思う。
結果は武器を所持していた差だろうか、なんとかレインが勝利を収めた。
ジャキは「豚さんは何で弱いなの?」と、五分ほど泣いていたが、干し芋を与えると元気になった。勝負の結果を気にしていたとは思えない。
しかし、こう言うサッパリしたところは嫌いじゃない、コイツの美点だ。
これで、レインが次兄となったわけだが、俺は長兄になった覚えが無い。コイツらの中ではそう言う事になっているようなので、好きなようにさせておく。
って言うか、四兄弟ならあと一人増えるんだよな、脳筋はもう要らないかな。
そうそう、レインも眷属化は見送るそうだ。
中部北都四兄弟の次兄に挑むらしい。頑張れ。
「尊妻様ぁ、あの、ミギカラ族長達は、その、大丈夫でしょうかぁ?」
『問題ありません。先ほど長城の第二城門から南浅入りした冒険者4パーティーの二十二名を
「ホッ、無事なら、良かったですぅ」
「第一城門からはしばらく冒険者は来そうにないな」
「ブヒ? あぁ~、近くの街が壊滅したからか、ハハッ」
「第四城門の跳ね橋が上がったままって事は、ラヴ達の工作が上手くいったかな?」
『スーレイヤ王国側から長城の第四関所に攻撃魔法の雨を降らせましたので』
「ハハハ、関所をか…… なるほど、そりゃぁ城門を開けるワケにはいかんな」
人間側の対処は大丈夫みたいだな。
これで北に集中出来る。
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