第60話「オラ、ワックワクしてきたゾ!!」
第六十話『オラ、ワックワクしてきたゾ!!』
地竜の洞窟がダンジョンであると言う俺の答えに対し、『な、何だってぇーっ!!』などと声をあげる者は居ない。
声は出さないが驚愕の表情を見せる者が居る。
二名居る。先生はとても悲しいです。
「け、賢者様ぁ、あのぉ、わ、解っていない者も居ると思いますので、地竜の洞窟が何故ダンジョンなのか、あのぉ、御説明願えますでしょうかぁ? あ、モチロン、私は存じ上げておりますよ? 侍女ですから!!」
「あ、うん。そうだな、先ず、地竜がダンジョンマスターやマスターの眷属だと仮定した場合、これは当然、洞窟はダンジョンという事になる。他の場所ではなく洞窟がダンジョンだ。地竜の眷属と名乗る者達が洞窟に住んでいる事はハーピーが確認している」
「な、なるほどなー……フムフム」
「ブヒィそうかっ、洞窟が魔素を放出する魔窟やダンジョンだと考えれば、大森林の魔素が濃い理由にもなるな……って事は、深部の洞窟は元々魔窟で、マスターが住み着いてダンジョンになったワケだな」
「そう言う事だ豚骨ラーメンマン」
「え?トン何だって?」
「次に、地竜が二百年以上姿を見せない理由として、ダンジョンマスターの制約が挙げられる。ダンジョンマスターは自分のダンジョンから出られないってやつだ。不老と強力な能力をダンジョンコアから授かる代償として、その身が滅ぶまでダンジョンに縛られる事になる」
「えっ、そうなんですか?」
「マジかよ兄貴、知らなかったぜ……」
ラヴやエルフ、ドワーフ達は知っていたみたいだな。
他の眷属達は妖蜂族の仕官以外知らなかった御様子。ハーピー達も同様に初耳だったようだ。
「大森林でダンジョンの情報を得るのは難しいからな、だが真実だ。そして、行動範囲に制限が掛かったダンジョンマスターの取る行動が、生物の誘致、ダンジョンに喰わせるエサを招き寄せるって事だ」
「賢者様ぁ、そ、それは、どういった意味でしょうかぁ?」
「正確に言えば、ダンジョンコアに喰わせるエサだな。マスターやコアが、ダンジョンや魔窟内に高価な宝を置いて冒険者を釣るのは知ってるな?」
「あ、あの、知りませんでした……しょぼん」
「ハハッ、気にすんな!! 釣られた冒険者は魔物やトラップで生け捕られるか殺されるかの二択だ、生け捕られた奴は家畜として『生気』を吸われ続ける。殺された奴はダンジョンが吸収し、コアに生気変換されて消滅する」
「生気とは何でしょうか?」
「命の源だ、それが尽きれば死ぬ。ダンジョンで死ぬ人間は死ぬ際に生気を全て抜かれ、さらに死体を生気変換されるわけだから、コアに二度生気を献上する事になるな」
「フムフム、何故コアは生気を吸収するのでしょうか?」
「ダンジョンを強化する為、またはダンジョンマスターに力を与える為だ。例えるなら、お前達がアートマン様を崇める信仰心を生気、コアを神像とすれば解り易いかな? 信仰心が多く集まれば神像、つまりアートマン様の力が増し、ガンダーラや俺が強化される、この構図と同じだ」
「え、何? 神像拝むと兄貴が強くなんの?」
『神像ではなくアートマンへの信仰です、馬鹿ですか?』
「あ、ハイ」
『アートマンを崇める者達が増えた事により、ナオキさんがアートマンから下賜される品が増えているでしょう?』
おお~!! と、眷属達も納得した表情だ。何故か拍手も聞こえる。
そう言えばFPの事とか知らんしなコイツら……
『他言は無用ですよ、貴方の“お妃候補達”がオネダリして来ますから。特に妖蜂の王妹が』
はいはい、分かってますよ。
トモエは『アハトマイト製の武器くれ、クソ旦那様』とか言いそうだしな。
そんな恐ろしい事は考えずに、話を進めよう。
「つまり、ハーピー達に冒険者を毎日献上させている理由がコレなんじゃないかと思うわけだ。さすがに魔族を食わせるにはいかんだろうしな。俺達は駄竜にとって大切な肉壁だ」
「ほほぉ~っ、さすが賢者様です!! 絶対当たりです!!」
「でもよぉ兄貴、強化されるのは解ったけど、マスターのレベルは上がらねぇんだろ?」
「普通は上がらんな。コアならどうにか出来るかもしれんが、そもそも深部の奴らは地竜も含めて高レベルだ、しかも地竜は確実に二百年以上生きた強者、そのレベルは相当なものだろう。低ランク冒険者を千人殺しても、1レベルも上がらんと思うぞ」
「じゃぁ、どうやって上げてんのかな? 穴の中から出れねぇヤツがよ」
「眷属持ちの裏ワザ使うんだよ」
「裏ワザ? 眷属持ちなら兄貴も使えんのか?」
「ああ、使ってるっつうか、仕様だな。眷属の主はな、眷属が入手した
「マジで?」
「そんな、賢者様……」
あれ? 言い方間違えたかな?
何か悲壮感が漂ってきたぞ?
「いやいや、親が子の罪を背負うのは当然の事だし、お前達には損をさせながら自分は自動的にレベルが上がるから、俺は好い気分じゃないんだよ。まぁ、実際は大助かりなんだけどな、狩りに行かずにガンダーラの仕事が出来るから」
「で、では、人間との戦いで、こ、殺しても、宜しいのでしょうか?」
「うん、好きなだけ殺していいぜ?」
「は、はいっ!! 良かったぁ~、ホッ」
「陛下がテイクノ・プリズナで人間をあまり殺さなかったのも、その理由ですか?」
「うん、俺がトドメ刺しても俺だけにしか経験値が入らんし、逆にお前達の経験値が減るからな。それなら瀕死にさせてお前達に仕留めさせたほうがいいと思った。すまんなラヴ、楽して経験値稼ぎしてたわ」
「いえいえ、罪の一部を背負って頂いて、お詫びの申し上げようも御座いません」
「いやいやいや、俺が助かってるから、頭上げろよ、な?」
「ウフフ、はい。では今後も、人間を狩らせて頂きますネ」
「ああ、悪鬼にならねぇように、適当に狩れ。皆もいいな? 俺の事は気にせず狩れ、すごく助かるから」
眷属達から「応っ!!」という歓声のような返事を貰えた。
よし、皆も安心出来たようだ。
俺だけズルしてるみたいで嫌だったんだよなぁ。よかった。
「その裏ワザの使い方なんだが、地竜の眷属は大森林の魔性生物じゃなくて、北の山脈に住む高レベルの魔獣や、ダンジョン内で飼っている【養殖】を殺してんだと思う。大森林深部の高レベル魔性生物をダンジョン内で繁殖させて屠殺って手もある。繁殖の方は地竜自ら殺しているかもしれん、効率が良いからな」
「そうかっ、養殖かっ!! 魔性生物の繁殖もやってんだろ、間違いねぇぜ」
『ダンジョンマスターやコアが創造した“創造生物”、いわゆる【養殖】は生気を得られませんが、経験値や素材は得られます。魔性生物を繁殖させて屠殺する場合は全て得られますので、全てのダンジョンマスターは繁殖の為の牧場をダンジョン内に所有しています』
「で、ですが尊妻様ぁ、その養殖達は、レベルが低いのでは……」
『共食い、
「な、なるほどなー」
「ブヒッ、世知辛ぇなぁ、ダンジョンってヤツぁ」
「だが、その分眷属達はカルマを溜め込んでるぞジャキ。一人仕留めりゃ相当レベルが上がるだろうよ」
「そりゃそうだけどよ、仕留めるのが難しいワケで……」
「ハハッ、まぁ、期待して待ってろ。良い考えがるから」
「良い考えねぇ、っていうか、地竜と洞窟の推測は理解出来たけどよ、スッゴイ疑問が浮かんだ」
「何だ?」
「さっき魔素の放出って話をしただろ、俺のジジイが昔から言ってた事なんだけど、ダンジョンマスターとか魔窟の最下層ボスとかって奴らは、魔素放出を守る為に居るんだぞって言ってたんだよ」
『間違いですが、現状ではその通りですね。それで?』
「あ、ハイ。で、何で神様達は大事な魔素減少問題を放っといて遊戯なんてしてんのかなぁ~って、思ったんだよ」
『魔素枯渇での魔性生物死滅も、遊戯終了の合図だからです。遊戯終了後に世界は崩壊し、新たな世界が創造され、最高神が決まるまで何度でも遊戯が繰り返されます』
「え~っと、それはどう言う……」
『つまり、劣勢となった神々が遊戯盤をひっくり返せる最終手段としてダンジョンを残し、魔素枯渇のギリギリまで調整しつつ遊戯を楽しんでいる、と言う事です』
「うっわ、最悪だなそれブッヒー」
「尊妻様、で、では、ダンジョンマスターの存在理由は……」
『遊戯に途中参加した異世界の神々が用意した駒です。しかし、彼らに最高神となる意思は感じられません。ダンジョンに駒を配置して魔素枯渇を遅らせ、より永く遊戯を楽しむ為の“悪戯”でしょう』
「え、えっと……」
「神様って馬鹿しか居ねぇの?」
『神々の多くは馬鹿です。魔族に伝わる神話を思い出してみなさい、アホが多いでしょう?』
「た、確かに、変なことばっかしてたな……」
「お、親兄弟の首を切って、首飾りにした神様も、居たね」
「ハハハ、何か話が変な方向に飛んだな。まぁ、前世の世界でも神様は頭オカシイのが多かったからな、神様だって完璧じゃねぇんだろ、気にする事でもねぇよ。そんな事より、俺達は南北の敵をどうやってブッ殺すか考えねぇとな」
間違っても『二正面作戦』なんて事にならないようにしましょう。
あぁ~、楽しいなぁ、ワクワクしてきたゾ!!
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