第59話「お前、今日から――」
第五十九話『お前、今日から――』
穴に
ジャキが俺の額を見つめながらヴェーダに問う。
「そ、それマジで?」
『私の虚言だとでも?』
「違います、勘弁して下さい」
ジャキはヴェーダの情報を疑ったわけじゃない、その事実が信じられなかっただけだ。ジャキ以外の眷属達も驚いている。
大森林を塞ぐ長城が完成したのは二百年前、大森林を領地として版図に加えた三つの王朝が築いた壁と要塞を、四つ目の王朝メハデヒ王国が繋げた物が現在の長城だ。
最初の王朝が要塞を築いたのが四百年前、それから少しずつ壁と要塞は増え続け、二百五十年前に地竜が大森林に棲み付いて人間を遠ざけると、各地から魔族や魔獣が大森林に集まった。
三つ目の王朝をメハデヒ初代王が滅ぼせたのは、地竜が暴れ回ったお陰らしい。
そのメハデヒ初代王が国を興して真っ先に手を付けたのが長城の建設だ。
初代王は西の教国と東の大国スーレイヤに地竜の脅威を説き、両国の援助を得て四十年の歳月を掛け長城を完成させた。
初代王が在位期間と同じ四十年を費やして完成させた長城、その長城はしっかりと役割を果たし、完成から二百年経った今でも地竜を大森林に閉じ込めている。
――と思っているのは人間だけで、地竜は大森林どころか最深部の洞窟から出ていないのが真実だ。
そして、たった今この『大森林の歴史』をヴェーダが眷属達に教え終わった。
眷属達はそれぞれの種族同士で見つめ合い、互いに首を振り「知らなかった」と意思を示した。ジャキは目を閉じて思案顔、ハーピー達も顔を寄せ合って何か話し合っている。
大森林最強の存在が幻かも知れない、この事が彼らに与える影響はどういったものだろうか?
岩から生まれて三カ月も経っていない俺には、この森の地竜に関する“民間伝承”的な話をガキの頃から聞くという機会が無かった。
地竜の事はただの知識としてヴェーダが俺に教えてくれた。
手軽に教えて貰った俺には、大森林を占拠した偉大な竜に対する畏れや尊敬といった思いは無い。
ヴェーダは時と場合によって俺への知識教示方法を変える。俺と会話するように説明してくれる場合と、一瞬にして知識を脳にブチ込む場合の二通りだ。
通常は前者が多いが、俺が急いで考えを巡らせている時や、ヴェーダが必要だと判断した時は事前報告無しで後者となる。
今回教えて貰った大森林の歴史は“ブチ込み式”、地竜への畏怖なんぞ覚えるヒマも無い。眷属達が抱いた“大森林最強”への思いは、俺が抱くモノとは大きく違う。
眷属の心情はある程度、主の俺は知る事が出来る。
しかし、今回の件で彼らに与える影響までは判らない。
大森林の覇者不在。確定ではないが、大森林育ちの彼らにとっては重要な事だと思う。ヒーローの存在を否定されたような思いを――
「こりゃぁ兄貴が天下取るチャンスだぜ、なぁメチャ」
「何を今更、大森林は既に賢者様の物ですぅ~」
「ダーリンが大森林の覇王に…… 蹂躙が始まるのねっ!!」
「影沼が使える同族が欲しいわねぇ、輜重隊として」
「クックック、胸が躍るなぁサオリっ!!」
「フッ、工兵隊に出番は無いわよオキク」
「シタカラ、今晩からまた励むぞ」
「親父、次は妹が欲しいぜ、二人欲しいぜ」
『士気が上がりましたね』
「う~ん、有りやな」
どうやら、良い方向に影響を与えたようだ。
俺とハーピー達の会談はヴェーダが眷属達に生中継している。俺達の傍に居ない者達からも威勢のよい声が続々と上がってきた。
この場に居ないカスガやアカギにもヴェーダは中継しているだろう。
今頃アイツらはガンダーラが北伐へ向かっている期間中の浅部防衛策を練っているかも知れんな。
まぁ、イセとトモエが居れば、東浅部と南浅部が落ちる心配は無い。
「少し休憩して、次は洞窟の話だな」
『お客様は昼食を摂っておられないようです』
「そうなのか、じゃぁ、彼女達には飯を用意しよう」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ぁぁあ、また口元に食べカスを付けて……
ぁぁあ、またそんなに足を上げて水を……
ぁぁあ、また胸元に肉汁を垂らして……
ぁぁあ、またそんな穢れ無き笑顔を……
オゥ、ビ・アンカ……
放ってはおけん、放ってはおけんぞ君達。
とりあえず、左の子の口元をこの布で―― ッ!!
その時、俺の横を華麗に通過する肉団子が目に入った。
「おいおい姉ちゃん、見ちゃいらんねぇなぁ~、この手拭い使いなよ。あ、そっちの彼女はこの手拭いで胸元のソレ拭きな。え? 礼なんて要らねぇよ、このくらいの気遣いは“好い男”の常識だぜ、へへっ」
お前…… 原チャリこの野郎……
好い男ってドコ居んだよ、デレっとしてんじゃねぇよ。
無いわ~、コレ無いわ~、美妖鳥と野豚とか誰が得すんだよ馬鹿野郎が、テメェはその辺のスズメ飼って愛でてりゃイイんだよ豚骨ラーメンマン。
『なかなか紳士ですね、豚骨ラーメンマン』
紳士? 馬鹿言うな。
勃起した豚骨ラーメンマンなど、ただの豚だ。
赤い小型プロペラ機に乗ってハイジ山脈に墜落する豚だ。
だが、悪い豚じゃない。
少しだけ好い男の条件が備わってきたようだ。フッ。
そろそろ彼女達の昼食も終わりだ、第2ラウンド開始と行こう。
「美味しゅう御座いました。にぱぁ」
「ははは、お粗末様。それじゃ、洞窟について話そうか」
ピッピ達の“にぱぁ”を頂いた俺は、自分でも気付かないうちに追加のデザート干し柿を彼女達に与えていた。ば、馬鹿なっ!!
な、なんて危険な存在なんだ、益々放ってはおけんな。
「いいなぁ、俺は干し芋ほしいなぁ…… チラッ」
ジャキは放っておいていいので、洞窟の話をする。
俺は時間を無駄にしない、干し芋をかじりながら話をしよう。
「あ、兄貴ぃ……」
「さて、もう皆は気付いていると思うが、地竜が棲む洞窟は、ダンジョン化していると予想される」
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