第58話「失望したぞ、豚っ!!」




 第五十八話『失望したぞ、豚っ!!』




 まったく、ナメたマネしてくれるじゃねぇか。

 先帝カガとムネシゲ王子は、何の為に命を張ったんだ……


 俺達は何故、最前線で人間と戦っている?


 ゴミを養う為じゃぁねぇんだよ……クソが。



「……大森林に粗大ゴミは要らねぇなぁ」


「きょ、兄弟、スゲェ顔だぜぇ、兄貴って呼んでもいいかナ?」


「なぁジャキ、中部の猪人族も…… ヤってんの?」


「え? ハーピーと? ヤってないヤってない、他の種族はどうだか判んねぇけど」


「って事ぁ、上から流れて来た膿は猪人族には掛かってないな。早急に膿を垂れ流しているアホを消す必要がある。しかし…… 中部や深部の奴らが掟の意味を忘れて滅亡の道を選ぶとはな」



 滅亡の言葉を聞いた眷属達が一斉に俺を見た。

 皆に不安等の表情は無い、どちらかと言えば目が据わり気合が入った表情だ。


 どうやら膿出しに協力してくれるようだ。頼もしいねぇ。


 では、膿の元凶を確認するとして、先ずは膿のニオイを嗅いだピッピ達から話を聞いてみよう。



「ピッピ、ハーピーは獲物や女性をどうやってバカ共に渡しているのか、教えてくれないか」


「は、はいぃ!! 獲物は毎日交代で私共が各所に届けておりまして、女達を求められた時も自ら飛んで参ります。ですが、地竜様の洞窟へは参りません、地竜様の所から眷属様方がいらっしゃいますので、その方々に獲物と女と冒険者を差し出しております」


「ちょっと待て、眷属? 地竜には眷属が居るのか?」


「はい、大勢居られます」

「その眷属は下級の竜種か?」


「う~ん、私共の所へいらっしゃる方々は人型の魔族ばかりで、竜族の御方は存じ上げません」


「何てこった……」

「どうしたのダーリン?」


『龍と竜の両族は他種族を侮蔑しており、上級下位以上の竜族は竜種以外の眷属を持ちません。大森林の地竜は上級下位の認定を冒険者ギルドと三カ国から受けています』



 ヴェーダの言葉に「そう言えば……」と驚く眷属達。

 俺はこの情報を岩から出て間も無くヴェーダから聞いていた。竜種に会う事など無いと小石を食いながらテキトーに聞いていたが、もう一度しっかりヴェーダに教えてもらおう。


 俺もそうだが、眷属達にも改めて教育が必要だな。

 地球の東洋的な『龍』と、西洋的な『竜』の二種が居る事や、生態の違いなんかも知っておいて損は無い。


 ちなみに、地に降りる事は無い龍種が最上級最上位で、龍種の下位たる竜種は飛竜から地竜へと位階が下がっていく。翼竜等の亜種は最下級最下位。



 ジャキとメチャはウンウンと頷いているが、あれは何も解っていない時に二人がよくやる仕草だ。ハーピー達も二人と同じ仕草をしている、非常に残念だ。


 ジャキが俺の肩に手を置いてきた。

 解説のお願いだろうか?



「兄貴、どうやらメチャが解ってねぇみてぇだ。教えてやってくれ」



 うわぁ…… 最低だなコイツ。株価下がったぜお前。



「わわわ、私はっ、解ってますぅ~、貴方とは違いますぅ~」

「あっそ、じゃぁオメェ言ってみ? 姐さんが言った事の意味言ってみ?」


「やめろジャキ、メチャを虐めるとヴェーダが怒るぞ」

「うおおおい、虐めてねぇよ!! すっげえ仲良しだよ!!」


『ジャキは三日間FP系おやつ抜き、抜いた分はメチャに回します』


「えぇぇ……」

「有り難う御座います!!」



 FP系おやつ、干し芋や乾パンなどの事だが、ガンダーラの皆はこれが大好きだ。


 特にジャキは『お前はアルコール依存症か?』とツッコミを入れたくなるほどFP系おやつに依存している。


 十時と十五時の休憩時に干し芋などを与えなければ体が震えだし、神像の周囲をウロウロと歩き回り、神木のうろに手を突っ込んで涙ぐみ、ジャキを心配して慰めるガールズ達に『同情するなら柿をくれ!!』『優しい声より芋が欲しい!!』などと泣き叫ぶ。


 そんな依存症患者であるジャキにとって、ヴェーダの戒めは死刑宣告に等しい。


 白目を剥いたジャキは放っておくとして、メチャ向けに独り言っぽく説明しよう。



「あ~、つまり、地竜の行動が『異常』って事だな。(チラッ)」


「フムフム、さ、さすが賢者様です、私もそのように思います」


「問題はその異常さから推測出来る地竜の正体と、棲みかである洞窟の真実だ。(チラッ)」


「な、なるほどなー、そこはちょっと私も、あの、解らないです…… そこだけ解らないですね、ほ、他は解ります、侍女ですから!!」


「そ、そうか、気にするな」



 よし、メチャが素直になったところで、メチャと白目剥きブタの為に解説しよう。



「先ず地竜の正体だが、可能性は三つ、『ダンジョンマスター』、『ダンジョンマスターの眷属』、『偽地竜』ってとこだ」


「ブ、ブヒッ!? おいおい兄貴、面白過ぎんぜその話。どうしてそう思う?」


「俺が考えた理由は三つ有る。一つ目はヴェーダが言った事だ、上級の竜族は他種族を眷属としない、そして他種族と関わらない。侮蔑対象と関わりなんて持ちたくないだろうからな、眷属として傍に置くなんて有り得ん」


「あぁ、そりゃ……そうだな」


「二つ目は冒険者という供物の要求。魔族や魔獣ではなく冒険者、地竜の許へ送られても疑問に思われない存在だが、何故冒険者である必要がある? しかも毎日だ」


「う~ん、レベル上げてぇんじゃねぇの?」


「経験値が稼ぎたいなら、深部や中部に低ランク冒険者よりも効率の良い魔性生物が居るだろ、掟破りのクソ野郎が『お情け』で大森林の魔性生物や俺達を殺さないなんて理由も無い」


「じゃぁ、人間が喰いたくて仕方が無ぇんじゃねぇか? って言うか不思議だな、何で大森林の獲物じゃいけねぇのかな?」


「人間が喰いてぇなら、“玄関”の向こうに腐るほど居るから、玄関から出て腹痛起こすまで喰って来いって話だ。大森林の魔性生物を襲わないのは『肉壁』を減らしたくないのと、仲間を人身御供に取られるハーピーやその事を知る魔族達に“疑問”を抱かせない為だろうな」


「そ、その“疑問”ってのは、強者の責務とか、掟の事か?」

「そうだ。隠蔽が雑で詰めが甘い。舐めやがって」


「なるほどな、で? 最後の一つは?」

「オメェ、地竜のツラ拝んだ事あるか?」


「いや、深部沿いに実家が在るから、深部には行った事あるけど…… 待て、親父やジジイも見た事ねぇって言ってたな……」



「だろうな、ヴェーダの話じゃぁ―― 野郎は二百年以上『穴』から出てねぇ」





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