閑話其の一「俺の名を言ってみろ下さい」




 閑話其の一『俺の名を言ってみろ下さい』




 俺の名はジャキ、中部北都生まれの猪人族。

 北都四兄弟最弱と呼ばれている。いや、呼ばれていた。


 今は南都四兄弟ナンバー2と呼ばれている。異論は認めねぇ。


 むしろ、南都の長兄は俺なのでは?――

 ――と、JLG(ジャキラヴガールズ)48の中では噂されている。

 よせよ、俺の御立派様がウェイクアップしちまうぜ。


 まぁ、俺が本気を出せば……兄弟もお手上――



「ジャキ、朝の稽古すっぞ。今日はちょっと本気出す」

「へへっ……本気度を聞いておこうか?」


「あ? 大猩々化するだけだ。来な」

「たはーっ、オイオイ、そんなんで俺がビビらないと思うなよ? 足がガクガクしてきやがったぜ……」



 今日の兄弟は何か燃えているようだ。

 JLG48のスケ共が、俺に声援を送り、兄弟に汚い罵声を浴びせている。

 よせよ、死んでしまう。


 あぁぁ、兄弟のコメカミがピクピクしてきやがった。

 へへへ、上等、ゴ~キゲンだぜっ!!




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「なかなか強くなったな、ジャキ。北伐はもうすぐだ、その調子で頼む。さて、おーいシタカラ、ちょっと来いよ、相手してやる」


「oh……ぬ、主様、俺ちょっと勃起がペニスしてて」

「何言ってんだお前、来い」

「あ、ハイ」



 が、頑張んな、シタカラ。今日の兄弟は、残虐ファイターだ。

 イテテ、へへへっ、体が動かねぇ、夕日が目に染みるぜ……



「キャー!! ジャキ様っ!! 血がっ、血が噴水のようにっ!!」

「死なないでジャキ様っ!! 脳天に刺さってる小枝をアタイが抜いたげるからっ」



 やかましいスケ共だぜ、ったくよぉ。

 だが、嫌いじゃぁねぇぜ、へへっ。



「へへへ……夕焼けってやつぁ、好い女と一緒に見ると、最高、だな」


「ゆ、夕焼け……? あっ、違うよジャキ様っ!! それ夕焼けじゃないよっ!! 血に染まった朝の太陽だよっ!! 目玉が血で覆われてんだよっ!!」


「ヒュ~、そいつぁ朝から、縁起が悪ぃな…… 僕、死んでしまうなの?」


「ヤバイよヤバイよ、ジャキ様が幼児退行してきちゃったよっ!! 誰かっ、ホンマーニのBBA呼んできなっ!! 回復薬とマハトミンCも大至急だっ!!」



 ホンマーニのBBAより、メチャがいいなの。

 ねぇ、ナオキお兄ちゃん、どうして豚さんは早く死んでしまうなの?




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 ったく、困ったもんだぜ、俺のスケ共もよぉ。

 俺がアレくらいで死ぬかっつーの。過保護すぎ、俺のこと好き過ぎかよ。


 まぁ、あんな名勝負を目の前で見せられちゃぁ、惚れちまうのも仕方がねぇけどな。


 あと一歩のところまで兄弟を追い詰めた……ような気がするんだ。

 俺の【北都百十一裂拳】を兄弟の毛深いボディに叩き込んだ後の記憶が無い。


 恐らくだが、兄弟を窮地きゅうちに追いやったのでは、と俺は感じている。手応えがあったからな。


 詳しくは、集会所で干し芋喰ってるミギカラあたりに聞いてみっか。



「ブヒッ、おいミギカラ」

「むしゃむしゃ、ん? おう、なんじゃ?」


「さっきの俺達のベストバウト、どうだった?」

「むしゃむしゃ、どうも何も、お前さんが一方的にやられてしまいじゃったろうが」


「おいおい、フェイクニュース流すんじゃぁねぇぜ」

「むしゃむしゃ、他の衆に聞いてみ」



 ったくよぉ、耄碌もうろくジジイはこれだから困るぜ。

 俺の動きが早すぎて、熱いバトルが拝めなかったようだ。



「よぉオメェら、さっきのタイトルマッチ、どうだった?」




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 どいつもこいつも、もっと動体視力を鍛えるべきだ。

 俺達の動きを目で追えないようじゃ、北伐従軍は認められねぇぜ。


 さっきからJLG48代表のチチョリーナが、目を泳がせつつ俺に何か伝えたい様だが……へへへっ、好い男ってのは、女が言わんとする事を察して即座に対応するもんさ。



「チチョリーナ、分かってるぜ」

「え? じゃぁさっきの稽古で――っん」



 俺はチチョリーナのリップに人差しフィンガーをプッシュした。



「あぁ、分かってる。しかしな、伯仲する勝負でも、負けは負け。おとこは黙ってリングから降りる。シンプルな答えだ」


「あぁ~、う~ん、伯仲……かな、うん、惜しかった?かな」


「次だ」

「え?」


「次の稽古で、るぜ、テッペン」

「あ、あ~、獲っちゃうか~、そっか~……」



 不安げなチチョリーナを抱き寄せ、彼女のリップにキスを撃ち込んだ。


 さぁ俺の妖精、キスの雨に打たれて眠りな……




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 その日、ハーピーがやって来て、とんでもねぇクソ話を披露しやがった。その所為せいで兄弟がゴキゲン斜め80度くらいになって怒った。


 ブッヒ~、すげぇツラだった。

 必ず殺すマンのツラだった。つまり必殺マンのツラだった。


 別に俺は恐怖を感じなかったが、兄貴と呼ばせてもらう事にした。

 特に俺は恐怖を覚えたわけじゃねぇが、兄貴と呼ぶ。とても大事な事なのでガールズには二回言った。


 どうやら兄貴は中部の猪人にも怒りを覚えたっぽい。たはーっ。


 しゃーねぇ、今日のリベンジマッチは勘弁してやろうかね。

 ――と思っていたら、殺意マシマシの兄貴から声が掛かった。

 オイオイ、子豚オレに向ける眼光じゃねぇぜ兄貴。



「おいジャキ、オメェちょっと付き合えよ。体を動かしたくて仕方がねぇ。来い」


「ブ、ブヒ?あ~、俺ちょっとアレなんだよなぁ、右手の小指が――」

「来いっつってんだろ、お前も一緒に鍛えろ」


「ヒュ~、熱くなってんじゃん。ったく、じゃぁヤるか……とりあえず今日は軽くで赦してクレメンス、なんつってな!! へへへっ……赦してクレメンス」




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 へへへ、俺はジャキ。南都四兄弟の次兄。

 

 なぁチチョリーナ、俺の両腕、付いてるか?


 さっきからよぉ、動かねぇんだよ……へへへっ。


 しょっぺぇ、しょっぺぇよ、南浅の雨は、しょっぺぇ。



「あぁぁ、ジャキ様っ!! それ血っ、雨降ってないっ、頭から噴水のように出てる血だからっ」



 へへへ、うっせぇなぁ……

 僕、眠いなの……



「ジャキ様ぁぁぁっ!!それ寝ちゃ駄目なヤツだからっ!!」



 あ、スコルとハティが迎えに来たなの。闇の中から来たなの。

 何だか闇の中でお眠りしたいなの……

 え? 行っちゃ駄目なの? 分かったなの、帰るの。



 僕はジャキ、南都四兄弟の次兄……なの。




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