第55話「あぁ、そういう……」
第五十五話『あぁ、そういう……』
浅部で人間の情報を得られる、もしくは大森林まで情報を伝える事が出来る魔族は以上の三種だけ。
大イモムシのナイトクロウラーが羽化すれば妖精となって空を飛べるが、彼らが大森林から出る事は無い。今のところ北浅部から出る事も無い。
よって、それ以外の浅部魔族はヴェーダによる人間の詳しい情報を『面白い』と感じているようだ。
眷属達はヴェーダの教育を、それこそ“一日中”受けているので、妖蟻と妖蜂を除く他の浅部魔族より知識は有る。妖蟻と妖蜂がまだ知らない知識なども、古参の眷属は学んでいる。
眷属達の知識欲は旺盛、マハトマ種に進化して知力が倍以上になった
ジャキガールズの能天気さを見ると、それを実感する。
そんな眷属達がヴェーダに質問を投げかける。
彼らの疑問は『人間の強者』や『人間を護る神』に集中していた。
特に『メハデヒの王』や『教国の神』に興味を示した。
ガンダーラと『国境』を接するメハデヒ王国と、獣人を獣扱いする宗教に関して興味を持つのは自然だろう。俺も興味が有る。
質問と答えは以下に纏める。
Q:メハデヒ王は強いの? 主様は勝てる?
A:弱いです。秒殺です。
Q:メハデヒ王国には強者が沢山居るの?
A:居ますが、ジャキで大半を対処出来ます。
Q:人間を護る神も沢山居るの?
A:居ますが、力を取り戻した状態のアートマンに比べればゴミ同然。
Q:何で人間を護る神々は魔族を護らないの?
A:神々が“遊んでいる”からです。
Q:遊びって何?
A:盤上の“駒”を使った戦略遊戯。盤は大地、駒は知的生命体。勝利条件は盤上に示された領域の八割を駒が支配し、その他の駒を隷属化、または滅ぼす事。
Q:そ、それはヒドイ、僕達も駒?
A:この世界における神々の認識ではそうです。
Q:エオルカイ教が獣人を排斥しているのは……
A:人間は政治的要素を含んで自制していますが、『愛神エオルカイ』は獣人の滅亡を望んでいます。神託によって度々それを伝えているようです。獣人の国でも同じく、獣人以外の滅亡を望む神託を『獣神ヤカーカシュ』に賜っています。
Q:妖蜂族に加護を与えた女神オッパイエは……
A:無論、“プレイヤー”としての考えで加護を与えました。
Q:ブヒッ、戦神ムンジャジ様もか姐さん!?
A:例外はアートマンのような異世界の神だけです、ブタ。
Q:尊妻様、我々は神々に操られているのでしょうか?
A:いいえ、加護と神託を得て行動を起こすのは地上に住まう者達の意思に任せるというのが『遊戯上のルール』です。現に、魔族は加護や信託を得たからと言って人間を襲いませんでした。神の神託を無視したわけですが、神々には傲慢に見えたようですね。
Q:それでは、一応我々もオッパイエ神やムンジャジ神に護られているのでしょうか?
A:否、女神達にその意思は有りません。既に魔族の敗北を予想し、異世界から招いた駒――即ち異世界勇者に力を与える事に全力を注いでいます。じきに貴方達の加護も消え、アートマンの加護のみとなります。
神々は全知全能ではありませんので、魔族の躍進など夢想だにしていないでしょうし、帝王ナオキを抹殺する駒を瞬時に作る事も出来ません。
Q:遊戯の事は人間達も知っているの?
A:遊戯開始時に各種族の有力駒へその事を告げる義務が有ります。途中参加の神々は、参加前に所有する代表駒へ報告し戦略を練らせます。神託によって告げられた遊戯の事を広めるのは駒の自由、国民に告知している国も在れば、皇族や王族のみ知る国も在ります。
Q:それは何故ですか?
A:狂信者の暴走や宗教団体の力を抑える為でしょう。神託を掲げて隣国に戦争を仕掛けるなどの事例が多いですから。神託によって遊戯の説明がなされるのは国や集落の長に対して一度きり、初めに神託を得た者の考え次第で情報の秘匿も公開も思いのまま。
Q:では、遊戯の事を知らない人間が多いのですか?
A:いいえ、旅人や行商人などによって、情報を公開している国から秘匿された国々へ遊戯の事は伝えられ、噂話やお伽話として全人類に知れ渡っています。遊戯の事を信じる度合いが各国の違いでしょうか。
遊戯神託を否定しつつ他種族を狩る、これが今の主流ですね。実際、『神々の遊戯だから何だ?』と感じる者が大半でしょう。神々を祀る教会などは醜悪な欲望で動いていますが。
Q:ブッヒ~、その遊戯から降りる事は?
A:出来ますが、加護が消えて弱体化します。全ての者が一斉に戦う意思を捨てなければ、遊戯に残った者か派閥に属さぬ異世界神の加護を持つ者達が勢力を伸ばすでしょう。
そして残念ながら、たとえ世界中で争いをやめて遊戯続行を不可能にしたとしても、優勝者が出ない・出さない遊戯は『世界』が許さず、崩壊して最初からやり直しです。
Q:ゲームプロデューサーが『世界』かよ、クソゲー作んじゃねぇよ。で、遊戯に勝った神はどうなる?
A:この世界の最高神になります。
Q:ん? じゃぁ俺達が勝ったら……
A:アートマンが遊戯に参加すれば――
うおおおおおおおおおお!!!!!
やや呆然としてヴェーダの答えを聞いていた俺や眷属達は、ヴェーダが最後に放った言葉に雄叫びを上げた。
神々に人間達が操られている状態だったなら、ブレはせずとも複雑な気持ちになっただろう、しかし、神託という神々の『要望』に応えるのは地上に生きる者達の自由意思、人間は魔族を殺し獣人を排斥するという選択を採り、獣人は魔族を殺し人間を排斥する道を選んだ。
ろくでもねぇ世界だ。
遠慮は要らねぇ、って事だ。
また、神託によって魔族に道を示すのも神々の自由意思、この世界の神々は自分の駒以外を滅ぼそうとし、魔族を護るべき神々は魔族を捨てた。
その捨てられた魔族に光を与え給うたのは異世界の神、アートマン様だ。
是非、この世界の最高神になって頂きたい。
そして、この世界のシステムを変えて頂きたい。
クソゲーは世代が代わるまでに廃棄だ。
ヴェーダも水臭ぇなぁ、初めから俺に教えてくれれば良かったのに。
『アートマンは貴方の笑顔を見ているだけですからね、ゲームなど興味を示しません、他への関心が薄いのです。しかし……天の時、地の利、魔族の和を得ましたので、そろそろ頃合いかと思いました。アートマンはすべて貴方に任せるようです』
あぁ、なるほど。
岩から出てすぐのゴリラ狂信者がこんな重要な話を聞いたんじゃぁ、準備も整わないまま焦って行動を起こしていたかも知れんな、有り難う。
そんな慎重なヴェーダが『頃合い』と判断した……
つまり、俺の準備が整ってきたワケか。
だが、飽くまで『頃合い』だ、ベストではない。
事前に俺へ情報を与え、万全の準備を整えさせる気だろう。
まったく、良い相棒だ。
俺が出す答えを知っているだろうしな。アートマン様に「チェックメイト」を献上するとお伝えしてく――あふぅん。有り難うございます。
『ナオキさん、“魔族の和”を強固にするお客様がいらっしゃいました』
「は? リザードマンとラミア・ナーガは、あと三日は掛かるだろ?」
『いいえ、ハーピーです』
「おぅふ、そっちかよ」
接触はまだ先になると思っていたが、向こうから来たか。
う~ん、何の用か判らんな、同盟の打診なら歓迎なんだが……
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