第52話「滅びの都」




 第五十二話『滅びの都』




 影沼から血だらけの冒険者が顔を覗かせ、騎士の長剣を持った少年エルフが冒険者の頭にその長剣を振り下ろす。


 頭を砕かれた冒険者は死に、再び影沼に沈む。


 影沼を十六名のエルフが槍や長剣を持って囲み、次々と出現する人間の頭を破壊していく。


 突き刺し、斬り裂き、刎ね飛ばす。

 レベルが上がると魔法で殺し、MPが減ると剣で殺す。

 ただ無言でその作業を繰り返すエルフ達。


 体の至る所に赤く腫れ上がった“虫刺され”を作り、目隠しされ痙攣しながら恐怖に怯える北の姫騎士。


 全裸でお漏らしするその姿は、影沼から頭を出してすぐ殺される冒険者達にとって、ステキな冥土の土産になっただろうか?


 虐殺が始まって約一時間経過。


 ラヴと五人衆、狼達とメーガナーダが狩りへ向かい、次々と生贄を影沼へ放り込み、ある程度生贄が貯まるとラヴがこちらへ輸送し、その間に他の者が生贄を集め、再びラヴがそれを運ぶ。


 スコルがお嬢様を咥えて戻って来た時には驚かされた。余りにもデカ過ぎるその白金の巨体に。


 スコルのレベルは6しか上がっていなかったが、体長は2m伸びて6m、もう少しでゴリラ状態の俺を乗せて走れる大きさだ。総合力は740万になっていた。


 ちょっと伸びがオカシイ。


 彼らの働きで兵舎の周囲は既に人影は無く、兵舎の在る東地区は急激に人口が減っている。


 一度の運搬で三百人ほど運ばれる生贄、もうそろそろ二千に届きそうだ。

 十六人のエルフ達も殺しの手際が良くなってきた、殺しの回転が速まるな。


 彼らのレベルはもうすぐ25を超えるが、エルフの進化は50に達してからだそうだ。人間の皆様には是非とも協力願いたい。


 影沼に入りきらなくなったゴミの処分も考えないとな。

 そろそろ俺も手伝うか。


 この周囲に人間は居なくなった、警戒はヴェーダが万全の態勢で臨んでいる、慰安室の彼女達から俺が離れても大丈夫だろう。


 メチャを残しておきたいが、コイツは俺から離れんし。


 しかし、総合力的にも彼女達をおびやかす存在は既に居ない。街に残っていた両段持ちは彼女達の手で始末された。


 全裸のバカ娘は体の自由が利かない、エルフ達には絶対に魔族語を話すなと厳命して、ひと仕事するとしよう。


 あとをヴェーダに任せ、メチャを連れて狩りに出かけた。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 俺は街の西に在る色街に向かった。

 ここなら深夜零時を回った今でも人間が溢れている。

 ヴェーダが眷属達を俺の許へ集合させた。


 酒臭い息を吐きながら俺を睨む男達を無視して、軽い威圧を放ちながら通りを歩いて行く。


 バタバタと倒れる人間達を眷属達が拾い上げ、俺の後ろに付いて来るラヴの影沼へ放る。効率が良過ぎて影沼内の死体が邪魔になった。


 どう処分するかと考えていると、ヴェーダが名案を授けてくれた。さすがだ。


 俺は街の中央に在る噴水広場まで行き、噴水の池に据えてある岩を持ち上げて池から出し、僅かな金属を抽出して岩を爪で削った。


 岩で簡単なアートマン神像を彫り上げた俺は、ラヴに頼んで死体を神像の前に山積みさせ、眷属達と共にアートマン様へ“貢物”を捧げた。


 すると、約二千体の死体が服ごと跡形も無く消えた、魂が天へ昇った様子も見当たらず、ただ忽然と死体の山は消えた。


 FPは僅かに増えたようだが、生ゴミ問題を解決して頂いたアートマン様に深い感謝を伝える。


 こうして、問題が片付いてからは狩りのスピードが上がり、街の東西と南に住む人間を処分した頃、ようやくエルフ達の進化が完了した。


 日の出はまだだが、もうすぐ朝の5時だ、急ごう。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 最初に部屋を出たのは少年だった。

 廊下で見守る俺達を見つめながら、その細い足をゆっくりと部屋の外へ出す。


 足を廊下の床に置き、安堵の表情を浮かべた少年は、泣きながら俺の胸に飛び込んだ。抱き締めて頭を撫でる。



「よく頑張った、お前は強い男だぜ、アーベ」

「うぅぅ、あでぃがどう、ごだいまずぅ、ぅぁあああん!!」



 アーベに続いて、また一人、また一人と地獄の部屋から抜け出す。

 彼女達は互いに抱き締め合い、他の眷属達から祝福を受けた。


 皆の声は小さい、こんな時でも俺の言い付けをよく守っている。


 最後に部屋から出てきたのは、バカ女を咥えたスコル。

 馬鹿の姿を見た眷属達が会話を止め、魔族語を封じた。


 俺が教国語で皆に明るく告げる。



「さぁ、枢機卿が教会でお待ちだ、メタリハに戻ろう」



 眷属達は会心の笑みを浮かべ、大きく頷いた。

 ドワーフ達も影沼の中で喜んでいるだろう。


 もうこの街に用は無い、バカ娘を俺が担ぎ、神像を影沼に入れて撤退だ。


 半日もせずに辺境伯の三女と街の戦力を全て失い、住民も半数以下に減り、同時に隷属状態の者全てが居なくなった事は、辺境伯と王家に混乱をもたらすだろう。ついでに隣国との戦火もな。


 バカ娘はラヴが持つ回復薬を飲ませてから王国側の国境砦付近で捨てる。


 道中で散々メタリハの陰謀などをバカ娘に吹き込んで、砦の近くを通ったところで「魔獣が暴れ出した、逃げるぞ!!」とか何とか、それらしい事を叫んで砦の守備兵が見付け易い場所にバカ娘を捨てる。


 毒は消えんが、体力が回復したお転婆娘は砦に行って良い感じにメタリハの悪行を吹聴してくれるだろう。そのあと確実に死んでもらう為に、蜂を十匹ほど忍ばせる。


 砦で保護されなくても構わん、吹聴してもらえないのは残念だが、国境付近で死んでくれれば十分だ。



 さぁ帰ろう、ガンダーラへ。





   第二章・完

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