第49話「醜悪なる都」其の三




 第四十九話『醜悪なる都』其の三




 夜、ヴェーダ時計では22時50分。

 この世界では深夜と呼べる時間帯だ。


 俺達はFPで購入した干し芋やマハトミンCなどで腹を満たし、林の中で時が来るのを待った。


 五人のエルフ達は全員無事にメチャ達と合流出来ていた。

 今はFPで購入した木綿の布を体に巻き付け、草の上でグッスリ寝てもらっている。


 首の離れたスモーキーの遺体を見たメチャは、その死にざまを俺から聞くと、深呼吸をしてから目を閉じ、合掌して「アンマンサン・アーン」と小さく呟き、かつて自分を犯そうとした男をとむらった。


 スモーキーの遺体は大森林に埋めるつもりだったが、スモーキーをこの林に埋葬し、俺がこの地を征服して大森林の一部とすればスモーキーも喜ぶ、そうメチャに言われ、そう言う誓いも良いと思った俺は、この林にスモーキーを埋葬する事にした。


 林に埋まっていた岩を抜き取り、岩に爪でスモーキーの名を刻んで墓標とし、埋葬した土の上に岩を置いて食料を供え、皆で供養した。


 この地を征服した暁には、この墓の周りを花畑にしてやるよ、スモーキー。


 墓標にマハトミンCを掛けながら、そう誓った。


 酒は今度な。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 今回の作戦概要は『目標拉致・敵兵鏖殺おうさつ・魔族救出』の三つ。


 作戦遂行中は魔族である事を隠し、人間と従魔の行いとして偽装する事が必須条件だ。俺達は飽くまで“隣国から来た”人間と従魔である。


 今回、俺は基本的に教国語しか話さない、魔族しか居ない場所では魔族語だ。眷属達は加護の恩恵で教国語を理解出来るが、救出目標の魔族達は理解出来ないと言う事なので、状況に応じて使い分ける。


 作戦概要は以上の通りだが、少しだけ内容に追加要素が加わった。


 夕方に保護した五人のエルフ、何の因果か眷属化した彼らの容姿は西方地域でよく見られる人間と酷似している。


 違いと言えば、耳が長く尖っている事だけ。

 瞳の色はみどり色だが、人間にも近い色の者は居る。

 褐色肌の金髪も西方では当たり前の存在だ。

 服装だけはこの国の物になるが、気にする事でもない。


 つまり、彼らが耳を隠して街で暴れた場合、まず間違い無く人間として見られ、見る者によっては西国人認定されるはずだ。


 その際、想像する異国人として真っ先に思い付くのは、金髪褐色肌の人間が少なからず居住する西の隣国『メタリハ・エオルカイ教国』出身者の事だろう。


 その怪しい異国人達が、単独ではなく組織的に街を襲った事実が知れ渡れば、ただでさえ俺達は教国側からメハデヒ王国に入る姿を見せている状況だ、隣国への疑念は益々強くなる。


 しかも、教国語を流暢に話す俺が領主の三女をシバき上げた。これは予定より早まったが、良い感じに教国出身をアピール出来た。


 ついでに、今からもっと暴れる。二度手間になったが、バカお嬢様も頂いて有効に使わせてもらう。


 何段構えか分からんが、少なくとも辺境伯は自領と接する教国を敵視するだろう。メハデヒ王国の王がどういった判断を下すか見ものだ。


 エルフ達の指揮はヴェーダに完全委任。


 ヴェーダが有するネットワークは蟲眷属を加えた事により、全方位警戒・哨戒・偵察が可能になった。エルフ達を危険な状況に陥らせずに見事な戦術を披露してくれると確信している。



『有り難う御座います』

「そこは黙っとけ」



 まったく、野暮は嫌われるぞ?


 寝そべるスコルの腹に頭を乗せ、俺は星空を眺めた。そろそろ時間だ。

 スコルの隣で寝そべるハティ、その美しい漆黒の体毛をメチャが手櫛でく。


 23時ジャスト。


 ヴェーダが作戦開始を告げる。

 俺は蜂達に≪殺せ≫と指示を出す。

 街の各所で物影に潜み標的を狙う蜂達が一斉に行動開始。


 蜂達はヴェーダが指定した人間達の後頭部や両耳孔に針を刺し、死因が特定され難いように殺していく手筈だ。


 と言っても、毒殺がバレたところでマハトマ種の毒も長過ぎる毒針の痕も初見初出、“毒と長い針で死んだ”事以外は特定出来ん。街の支配層や低ランク冒険者はこれで掃滅する。


 しかし、バカ姫様にだけは軍隊蟻の標的となってもらう。

 皮膚が焼け爛れたかのような激痛を味わう軍隊蟻の毒を流し込む。激痛で気絶も出来ない悪魔の毒、死ぬまで時間が掛かるが、今回の作戦ではそれが重要となる。


 ラヴは既に5時間前からヴェーダの支援を受け単独で行動中だ。


 彼女は兵舎の騎士達を闇魔法で確実に眠らせて殺し、死体と兵舎の装備品や食料を全て影沼に入れて市街に潜伏。現在は街の警備兵などを仕留めて回っている。


 それが終わり次第俺達と合流し、彼女のスパイ生活は今日で終了する。



 俺が跳ね起きるとメチャが慌てて立ち上がり、スコルが大きな欠伸あくびをしながらハティと共に体を起こした。


 エルフ達も飛び起きる。

 彼らに寝ぼけた様子は無く、その美しい翠眼をギラつかせている。


 俺は一同に「行くぞ」と告げ、お調子者の墓に軽く右手を上げて林を出た。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 皆で街道を通り、腐った街へ向かう。



 獣人の住む町に入ると、夜遊び中のネコ耳五人組を発見。


 素敵な毛皮のベストを着ていたので、スコルとハティが惨殺。

 しかも、二匹は魔核を食べてしまった。


 俺以外は危ない行為だったはずだが、ヴェーダが『気にするな』と言うので心配は要らないようだ。


 スコルとハティはこのまま町の獣人を皆殺しにしたいと俺に伝えてきた。しょうがないなと二匹の頭を撫で、殺すなら魔族の革を所持した者だけにしろと命じる。


 ここに住む獣人達にも生き証人になってもらう必要があるからな。


 無論、スコルとハティに害意を向けた者は問答無用で殺せと厳命。


 獣人達が所持するコボルトの革を森に埋めてやりたいが、今回はスコルとハティに無念を晴らしてもらうという形で仇討とし、獣人の死を以ってとむらいとさせてもらう。



 メチャと二人で獣人の町を抜け、都市を囲む堀まで辿り着いた。


 門の前に在る跳ね橋は上げられ、門衛は堀を越えた場所に在る詰所の中。

 だが、既に門衛達の息も姿も無い。ラヴが始末している。


 深くもない空堀を軽く飛び越え、着地と同時にもう一度飛んで石壁の上に立つ。


 壁の上から街を見渡すと、明るい場所が在った。

 一つの通りにあかりが密集している。色街と言ったところか。


 夕方俺が騒ぎを起こしたにも拘わらず、騎士や衛兵が警戒態勢を敷く事も無く、冒険者や警備隊が街を巡廻している様子も無い。


 街に剣呑な空気は感じられず、至って静かだ。


 ラヴが敵戦力を壊滅させ、蟲達が支配層や冒険者を仕留めた結果、街の防衛機能がゼロに等しくなりこの状況が生まれた。


 まだ両段持ちの冒険者が数人生きているが、ギルド長を含めた冒険者ギルド幹部は既に死んでいる、両段持ちに指示を出せる奴も状況を伝える奴も居ない。


 両段持ちは街の異変に気付いているらしいが、四段の姫騎士をボロクソに負かした教国人が敵ではないかと疑い、今は大人しく様子を窺っているようだ。


 太守の城は南寄り、淫乱バカ娘はその城内に居る。

 そして救出目標も城内に数名居る。


 逸る気持ちを抑え、ラヴの到着を待つ。

 メチャは静かに周囲を警戒していた。






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