第48話「醜悪なる都」其の二
第四十八話『醜悪なる都』其の二
冒険者ギルドの付近はガラの悪いアホが多い。
俺を見ると、腰に下げた剣や背負った剣の柄をすぐに掴む。
面倒なので柄に手を掛けた奴は全員威圧で気絶させた。
剣を抜いた奴も居たが、そいつは路地裏に引きずり込んで殺した。特に問題は無い、決闘での殺害は罪にならないそうだ。
この国の民ではない者にも、その法は適用される。まぁ、表向きの話だろうし、俺に適用されるか疑わしい。
そして、また嫌なモノを見た。
冒険者ギルドの裏手に在る空き地、そこで血のニオイを嗅いだ。
鉄杭で地面に打ち込まれた鎖、その鎖で両手両足を繋がれたリザードマンの死体。
その死体を囲むガキ共、歳は十三~十五までの男女六名、そいつらがリザードマンの死体に剣や魔法で攻撃を加えていた。
リザードマンはコイツらに殺されたのか、既に死んでいたのか判らない。
そんな事より――
それは、魔族でなきゃいけなかったのか?
殺した後に食える動物じゃ駄目だったのか?
練習は藁人形じゃ駄目だったのか?
気が付くと、俺は少女の頭を握り潰していた。修復魔術でリザードマンの傷を塞ぎながら、再び仲間に傷を付けさせていたサイコ少女だ。
剣を持っていたガキの首を上段左足刀で刎ね、剣を拾って魔法使いの頭に突き刺し、右上段後ろ回し蹴りで斧持ちの頭を破裂させ、宙に飛んだ斧を掴んで弓を持つメスガキを頭から縦断し、拳の威力を自慢していたガキの顔面に右ストレートを叩き込んで首から上を消してやった。
怒りが収まりそうもなかった。
大猩々化して【飛石】の雨を街に降らせようかと考えた。
その時、嗅いだ覚えのある血臭と聞き覚えのある声が、俺の沸騰した頭に届いた。
空き地から表通りに出る。
冒険者ギルドの前に出来た人だかり。
俺に気付く者はいない、皆は騒ぎながら何かを見ていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
“さぁ、コイツで最後だが、最後は私に譲れ、四段の剣技と言うものをお前達に見せてやろう”
女の声が聞こえる、少し低い声だ。
女より身長の高い奴が野次馬の先頭に数名居る為、女の姿は見えない。
『お転婆娘ですよ』
あぁ、アレか。
で? ソイツが何をやっている?
この、ゴブリン達の血臭が漂う場所で、何をやっている?
「へへへっ、いよいよ俺の番か、早く来なよネーチャン」
“ゴブゴブと騒がしいな、化物の劣った言葉など、私は学んでいないぞ?”
“ハハハハ!! シャズリナ様、誰もそんな汚い言葉なんて学びませんよ!!”
何が面白いのか、人間達が大笑いしている。
どけ、邪魔だ、通せ、邪魔なんだよ!!
「お前達はよぉ、そうやって魔族を笑っていればいいさ、いつかきっと、北の森から帝王がこの街にやって来る、南の帝王がっ、お前ら糞野郎共をっ、ぶっ殺しにやって来るんだよぉぉっ!! ざまぁ見ろ!! アハハハハ」
やめろ、黙っていろ、何でお前は――
“何を喚いているのか判らんが、耳障りだな”
“シャズリナ様、そろそろ四段の剣技、見せて下さい!!”
“うむ、そうだな”
オイ待て、バカ女、何をする気だ。
邪魔だ、邪魔だ退けっ人間共っ!!
“いくぞっ、必殺、無情八双稲妻斬りっ!!”
「ナオッさーーーーん!!!!」
「退けぇぇぇっ!!」
ゴミを掻き分け、騒ぎの中心に辿り着いた。
弧を描き宙を舞うソレが、地面に落ち、俺の足元へ転がる。
大きく口を開け、目を見開いたまま、俺を見つめるスモーキーの生首。
何でお前は、さっきの気概を森で見せなかったんだ……バカ野郎。
俺はスモーキーの頭を持ち上げ、邪魔な人間を蹴り飛ばしてギルド入り口の階段に向かい、そこへスモーキーの首を置いた。
VIP席だぜスモーキー、帝王の戦い、よく観てな。
お代は要らねぇよ。
スモーキーの頭に右手を置いて黙祷し、バカ女に向き直る。
ヴェーダ、俺の言葉を教国語に翻訳して相手に話す事は出来るか?
『可能です』
そうか、頼むぜ。
『了解しました』
バカ女が俺に剣を向ける。
そんなに早く死にてぇのか?
「何者だデカブツ、この国では見ない人種だが、冒険者か?」
「いや、俺の言葉、通じるか?」
「教国語、流暢な教国語だな、メタリハの者か」
「ああ、そうだ。メタリハの“人間”だ」
周囲がザワつく、教国語を理解する者が大勢いるようだ。
これは都合がいい、宣伝の効果が高くなる。
「それで、貴様は何故ゴブリンの頭をそこへ置いた? 何故、冒険者達を蹴り飛ばした? 何故、貴様から異常な嫌悪を感じる?」
「ゴブリンの頭はトロフィーだ、俺がお前を半殺しにしたら頂く。冒険者を蹴り飛ばしたのは邪魔だったからだ、退けと言っても進路を塞がれた、だから蹴り飛ばした。俺に嫌悪を感じるのは仕様だ、偉大なる神から罰を賜った、人間から嫌悪される一生を歩め、とな。羨ましいだろ?」
冒険者達が俺を取り囲む。
皆殺しだと宣伝役が居なくなるので、適当なヤツを残すか。
「それから、俺に剣を向けたお前は半殺し確定だが、今から剣を向けた奴は――」
「うぐっ――ごぴゃっ」
「――と、こうなる、理解出来たか?」
俺の背後で剣を振り上げた男の襟を右手で掴み、持ち上げて顔面から地面に叩き付けた。即死だ。
俺を囲んでいた冒険者達が数歩下がった。
バカ娘は動かない、俺との距離は約2m、不用心だ。
「貴様…… 国へ帰れると思うなよ」
「あっそ、で? お前は剣を向けたままだが、もうヤルぞ?」
「は?」
バカ女が右手で突き出した剣の腹を右手で右側に払い、方向を反らした右腕の肘に左の正拳突き。
バカ女は全身鎧で体を覆っているが、衝撃を防ぐ事は出来ない。剣と腕を明後日の方向に向けられた女は腰を捻ってよろめく。
ガラ空きの腰に前蹴りを加えて蹴り飛ばす。
ギルドの向かいに在る何かの店まで、冒険者数名を巻き込みながらバカは吹き飛んだ。
弱い、こんな奴が街の守護神として持ち上げられ、森の最弱を殺して悦に
ただのオナニーに付き合わされた魔族達の無念は如何ほどか。
大穴の空いた木造の店舗からオナ娘がヨロヨロと出てきた。
兜と剣は店の中か、身に着けていない。
顔を真っ赤にして俺を指差し、自慰を邪魔された淫乱が叫ぶ。
「そいつは領主の娘に手を出したっ、死罪だ!! 捕らえろっ!!」
「剣を向けたのはお前だろうが、弱虫ちゃん」
「貴様ぁぁっ!! 四段の私を侮辱する気かぁっ!!」
「淫乱ちゃんの実力で四段? その段位は金で買ったのか?」
「メメジョー!! 剣を貸せっ!! ヤツを殺す!!」
「は、はいお嬢様っ!! こちらをっ!!」
若い冒険者の女が、鋼のロングソードを淫売に渡す。
ロングソードを右手に持った淫売が、俺に向かって来た。
ここで【圧壊】を使ったら、VIP席の大将にガッカリされちまうな。
オナ子ちゃんのレベルは62、総合力は16万、これは装備品込みの数値だ。
この女は色々と甘い。心技体が全て未熟。
だから、俺の目の前で剣を上段に構える。
顔面を殴られるとは思っていない、股間を蹴られるとは思っていない、喉に、目に、急所に貫手を喰らうなど考えていない、緊張感が無い。
俺は右の拳を握り締め、人差し指と薬指で中指を強く挟み、親指で中指をしっかり押さえ、中指の第二関節を突き出し、
女の構えが頭上で極まった瞬間、俺は女の鼻下に一本拳を軽く叩き込んだ。総合力が16万もあれば、頭が吹き飛ぶ事も無いだろう。
前歯が折れ、その周りの骨も粉砕される激痛。
口も開けていないのに舌の上に何かが乗っかる恐怖。
初めての体験だろう、シャズリナは首を仰け反らせて数歩下がり、剣を手放し両手で口元を押さえる。
好い感じにボケッと突っ立ってくれたシャズリナ。
俺は右足をスッと引いた。
「またな、弱虫ちゃん」
「ッッ!!!! アガッ――」
軽い上段右回し蹴り、再び冒険者を巻き込みながら吹っ飛ぶお嬢様。
手加減するのも楽じゃないな。
ピクリとも動かなくなったバカ娘を一瞥し、数名の冒険者を【圧壊】で殺しながらスモーキーの体と頭を回収して大熊のマントで包む。
死んでいたリザードマンや、この場で殺されたゴブリン達に「見ていろ」と呟き、俺は冒険者達に教国語で別れ告げ、日の落ちた醜い街を後にした。
林への夜道を歩きながら、大熊のマントに包まれたスモーキーに話し掛ける。
「バカ娘が生きていて不満だろうな、だが心配すんな、あの女は――」
絶対に死ぬからよ。
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