第37話「皇帝と帝王」其の二




 第三十七話『皇帝と帝王』其の二




 麗しき妖蟻族が集う衆人環視の中で大猩々化。

 地下世界の美女達よ見てくれ、これが近代プロゴリラーの結晶だっ!!


 猿人が金色の光と大量の精気を放ちながら、ついでにフェチモンも大放出しつつ、その巨躯を更に膨らませ、黒毛金眼のシルバーバック大猩々に変身。あ、腰巻が破れた……。


 嗚呼、股間を隠す革袋は部屋の入り口で没収されてたんだったぁ。


 こんな事ならいつもの倍以上光ってもらえば良かった。

 今から股間を集中的に光らせたら不自然だな、クソう、クソう。


 まぁ、全然気にはならんが。むしろ見せ付けていますが。

 さりげなく揺らしてみたり、少し股を開いたり。

 よし、魔王の位置はここだ。


 周囲が唖然とする中、腰まで伸びたクソ長い髪を掻き分け、FPで木綿の糸を購入、右腕を少し曲げて手の平を上に向け、神気を帯びた光る球体を受け取る。イセの眼光が鋭さを増した。怖すぎワロタ。


 球体は糸が丸く巻かれた物、そこから糸を適当に引っ張り、千切る。


 余った糸玉は、頬を染めて鼻血を垂らすササミちゃんに渡して、千切った糸を二回折って四本にしてから髪を頭の後ろで束ね、銀髪交じりの黒髪をきつく結んだ。


 この空間で俺の大猩々化を直に見た事があるのはササミちゃんだけ。


 他の奴らは伝聞でしか知らない、はずだが、周囲を見た感じではその伝聞をさらに話半分で聞いてた感じ?


 今の俺は脅威の塊だ。

 能力は桁違い、物理無効、魔法無効、火属性吸収、土・金属性反射、呪殺・即死無効、バステ無効、フェチモン大放出、etc……


 と言っても、イセとトモエには関係無いが。


 そんな怪物おれを囲む妖蟻側は、フル装備の近衛が二千、ついでに天敵のイセは覚醒済み。


 そのイセが深紅の瞳で俺をジッと見ている、ササミちゃんと同じ、眠たそうな目で。


 たまんねぇな、興奮で逝きそうです。

 取り敢えず、プレゼントをあげようか。

 先ずはササミちゃんに、毒見役をお願いしよう。


 FPでマハトミンCを購入。

 光るそれを胸の前でキャッチ。蓋を開けて一気飲み。

 そして…… 悪いなササミちゃん、責任は取るからよ。


 彼女を抱き寄せ、鼻血を拭きつつ、ズキュゥゥン、だ。



「へ? んぁっ…… ん、ちゅ、ん…… んちゅ…… あっ」



 おっと、ここから先はお預けだササミちゃん。

 名残惜しそうに唇を離すササミちゃん、鼻血が酷くなった。


 口移しにアカギも驚いたか? イセも少し目が覚めたかな?


 さぁササミちゃん、毒見の感想を頼むぜ。



「神様から貰った栄養剤だ、美味しかったかい?」


「ぅぁ、んっ、おぃちぃ、です」

「力は、どうかな? みなぎってきた?」


「んぁ? ……あっ、ぅん、ぽかぽか、します」

「そっか。俺の手の平に、その可愛い拳を打ってくれるかな?」


「えっ、で、でも、陛下にお聞―― んちゅ、ん…… はぃ」


「良い子だ、じゃぁ、ここに“思い切り”打って」

「は、はぃ、では、参ります…… シャァオラァ!!!!」



 スパァァァン!!!!


 いいねぇ、腰が入って、回転も良い。腕の捻りが足らんが、力の伝達がスムーズだ。ノーモーションのストレートに近い。グッドだハニー。


 彼女の右ストレートを見て、真っ先に反応したのは武官、そしてイセだ。


 ヴェーダの鑑定では、元々、少佐であるササミちゃんの実力は眷属化したオキク並みに強い。


 その総合力は30万を少し超える。


 マハトミンCは一時的に能力を三割上昇させるが、素の総合力が高いほど上昇率は高くなる。彼女の場合は9万もプラスされた形だ。


 中佐になるには足りないが、少佐としては群を抜く強さと言える。

 この玉座の間に居るイセや高級将校達には当然それが判った。


 俺はもう一本マハトミンCを出して…… イセに投げ渡した。


 無造作に右手を上げ竹筒を掴んだイセ。

 無言で蓋を開け、彼女がそれを口に近付けると、武官達が止めに入った。


 だが、イセは眼球を動かしただけで彼女達の動きを封じ、姉の許しも得ずにグビッと一気にマハトミンCを飲み干した。


 横目でそれを見つめるアカギ。

 イセは竹筒の先をペロペロ舐めてから俺に放った。蓋は?


 両の手の平を何度か握り締め、姉に向かってコクンと頷く。



「悪くない」

「……そぅ」


「姉様、これは、天意」

「……馬鹿な事を」


「カガ姉様と、ムネシゲ殿下の意思は、妖蟻と妖蜂が、継ぐべき」



 敬愛する姉と、密かに恋い焦がれていた妖蜂の王子。


 二人を同時に失った、いや、殺された原因となった人間と大森林の強者達を、当時幼く女帝候補の控えであったアカギは、どのように感じ、どのような考えに至っただろうか。


 地下に籠って人間との戦争を回避し、人間が簡単に浅部を素通り出来るようにしていた状況を見れば、彼女の思いはある程度推し量る事が出来る。


 彼女は至ってまともだ。

 俺だって同じ事をするだろう。何の為に中部や深部の盾として眷属達を死なせなければならないのか。冗談じゃない。


 だから、そのままでいい。



「そのままでイイんだよ。皇帝として、母親として、姉として、妖蟻を護りな。人間は俺が殺してやる、中部と深部の連中には必ず落とし前付けさせてやるよ」


「フフッ、面白い事を言うのね…… 姉様とあの御方が成し得なかった事を、最弱の眷属しか従えていない貴方が出来るとでも?」


「出来るさ」



 俺は美肌セットを購入し、カスガとトモエが太鼓判を押す一瓶を抜き取り、それを数滴右手に垂らして、イセの前まで歩いた。


 俺は手に付いた白い液体をイセに見せ、右の片眉を上げて問うた。

 イセは少し微笑んで、軽く首肯し了承した。好い女だね、アンタ。


 右手を彼女の左頬に当て、優しく撫でる。

 液体を馴染ませたら、次は左手に液体を付けて右頬を撫でる。

 プニプニして柔らかいので、両手で撫でた。本当に四十路なのか?


 暫らくして、頬がモチの如く両手に貼り付いてきたので、両手で軽く頬を包んで精気を流し、ちょっとした保温と保湿をしてから両手を離した。


 皇妹イセ、その整った美貌は姉である皇帝アカギに勝るとも劣らぬ見事なものだが、ハハハ、今は、アンタの勝ちだぜ。イセちゃん。


 妖蟻族は妖蜂族より小柄で、なおかつ丸顔、さらに童顔だ。

 イセは他の妖蟻族より背は高く177cmほどあるが、今のイセはどう見たって『女子高生』だ。背の高い中学生でも通用するぜ。


 イセの顔を最初に見たのは、俺の背後に居たササミちゃん。

 そのササミちゃんがイセの顔を見て驚嘆の声を上げた。


 その声を“悲鳴”だと勘違いした武官達は、一斉に俺とイセを取り囲んだが、イセの顔を見た騎士ナナミが、“悲鳴”の意味を悟り、俺を見て硬い笑顔を作った。


 イセは自分の顔に興味が無いのか、騎士達を目で追いやると、姉に顔を向け首を傾げた。



「どう? 若い?」

「……す、凄いわね」


「やはり、天がナオキを遣わした。情報通り」

「……でも、もし、万が一、そう考えると私は……」


「心配要らない、ナオキは私達を盾に使わない、女を戦わせようとしない、ナオキは強い、蟻達が見てきた事は間違いじゃない。それに、神から神器と神酒を賜ってくれる。でしょ?」


「あぁ、そうだな。欲を言えば、もしもの時に女衆を避難させて欲しい。“たね”は数人残ればイイが、女は大地だ、失う訳にはいかん。俺が信奉するアートマン様も、眷属を護ってくれる妖蟻族に必ず祝福を与えて下さる」



 俺がそう言うと、目の前に光球が出現した。

 手を伸ばして光を掴む。なるほど、優しい母ちゃんだ。あふん。

 有り難うございます。


 見覚えのあるそれは、ダイヤマンズの小瓶。贈答用アムリタだった。


 妖蟻族は既にアムリタの価値を把握している。

 金色に輝くそれを見た皆が息を飲んだ。イセも例外ではなかった。


 俺がアムリタを天に掲げ、目礼する。

 上手い具合にヴェーダが発光しながら外へ出る。



『汝、気高き蟻の娘、神の子ナオキにその身をゆだねよ。いずれ人外の帝王が万里を蹂躙する、汝は一族を以ってこれを癒せ』


「あ、あ、あ、そ、それは、破壊と、創造、と言う……」


『左様、神の子が破壊し、蟻の娘が創造すべし。これが、始原神の意思である』


「は、はいっ、畏まりました!!」

努々ゆめゆめ忘るる事なかれ』


「はっ!! 天女様の御心のままに……」



 何か変なヴェーダだったが、言うだけ言ってスッと消えた。

 ただ俺の中に入っただけだが、それを見ていた者達は再び驚愕。


 文官達はすぐに俺に跪いた。武官達はオドオドしている。

 騎士ナナミはササミちゃんに何か言っている、必死だなぁ。


 俺はイセにアムリタを渡した。

 恭しく受け取るイセが可愛かったので、頬を撫でた。

 撫でた右手をイセが左手で包む。可愛いですね。


 いささか放心気味の姉を気遣うイセ、俺は頬から手を離し、彼女の背を押した。



「……姉様、大丈夫?」

「あ、あの方は一体……」


「ん? 知っているはずだが。アートマン様がアホな俺を気遣って天から遣わした“知識”、俺の相棒、ヴェーダ」


「何と言う威厳に満ちた御方…… 天女ヴェーダ様、生きた心地がしなかったわ」


「ハハハ、アイツは優しいよ、甘いくらいにね。さて、皇帝陛下、謝罪から変な方向に話が飛んだが、要は浅部の者同士、力を合わせようって事だ。無論、戦に駆りだす訳じゃない、俺の後ろでガッチガチに防御を固めて欲しい」


「ふぅ…… 天女様に嘘は吐けません、いいでしょう、帝国はガンダーラ並びに妖蜂と“同盟”を結びましょう。後ろは任せなさい、そして、心置きなく暴れてきなさい。破壊された大地も、疲れた貴方の身も、私達が癒しましょう」


「そうか、ありがとう」


「皆も良いですね? 今よりこのナオキ殿は朕の盟友、そして神の子、人外の帝王と定められた御方です、我が妖蟻帝国は全力で彼を支えます。皆は急ぎこの事を臣民に伝えなさい」



 一同が「御意」と応えて一斉に頭を垂れ、謁見の間を後にした。

 ササミちゃんも騎士も全て出て行った。

 残ったのは俺とイセ、そして皇帝アカギだけだ。


 今日のところは、ヴェーダの知識が役に立った。その威厳や容姿も、ヒロインとして素晴らしいものだった。


 即興で作り上げた悲劇の続編としては、出来過ぎだな。


 出演者の皆も、満足だっただろ?


 そう思ってアカギを見ると、スゴイ笑顔だった。

 イセも相変わらず寝むそうだが、少し楽しそうだ。


 まぁ、そうだよな、素っ裸でフェチモン垂れ流しのうえ大魔王状態だしな、俺。


 裸のロミオと元気な魔王、わがままジュリエット2名。

 ジュリエット達は既に狩人の眼付きだ、狙いは俺か、それとも大魔王か?


 っていうか、この二人、ボタン留めてねぇんだよ。

 余りの衝撃にツッコミを忘れるほど、普通に股を開いてた。パカッと。


 最初に見た時から気付いていたが、特にアカギ、アンタ反則だよ。

 椅子に座って脚を何度も組み替えるのは、駄目だろ?


 イセは大股開きの仁王立ちで寝るのは何で? 見せたいの?

 ボタンが邪魔だからって、何度も股を手でイジるなよ。

 それと、今イジッてる“ボタン”は違うボタンだから、デリケートな方だから。


 二人の行動は、つい先ほどから過激になり、妖蜂族と似た甘い香りを放ち始めた。


 どう見ても、二人は俺を誘っている。ヤレヤレだぜ。


 そんなことされたら、今年一番の“突っ込み”しちゃうゾ?



「ナオキ、初めては、優しく、ね?」

「朕は……私は“後ろ”を使わせてあげられないけれど、こっちなら、ね?」


「コマッタナー、俺はソンナツモリジャナカッタんだがナー」



 ポリポリと後頭部を掻く意味の無い行動を様式美としてとりつつ、俺は怒れる大魔王と共に、地下のアラビアンナイトを楽しんだ。アカギの後ろは柔らかかった。



 この日を『斉暦せいれき元年八月八日』とし、八月八日はガンダーラの建国記念日と定めた。


 そして、八月八日は『パパの日』と呼ばれる事になる。





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