第35話「僕はちっぽけなのですねっ!!」
第三十五話『僕はちっぽけなのですねっ!!』
こんばんわ、レポーターの、喜志直樹です。
しぃ~、カメラマンさん、足音気を付けて、皆さん起きちゃうから!!
『私は静かに皇城の内部映像を撮っておりますが?』
新人カメラマンは口応えが多いですね、まったく。
現在私は、妖蟻族の皇居『アリノスコ=ロリ』にお邪魔しております。
前回レポート致しました『ツインバベルの塔』の内部で御座いますな。
アリノスコ=ロリは、皇城と呼ばれておりまして、城詰めの兵隊さんが一個旅団と一個連隊、約二万人。皇城にお勤めする侍女の皆さんだけで六万人居らっしゃいます。ビックリして脱糞しちゃいそうでした!!
皇城は、その外見も内部も、壮麗の一言に尽きますね。
外観は主に土の色、つまり茶色系ですが、皇城の壁全体に施された様々な彫刻が、武骨でありながら美しいという、芸術に身を捧げた匠を唸らせる威容で御座います。
内部の清潔感や華美な装飾は、21世紀の日本を知る私も「感服」と言わざるを得ません。侍女さん達の美しさにも、感服致しました。
特に彼女達の股間で御座いますな。安心の、ボタン一個で御座います。
皇城は二つの巨塔を接合した建築物で御座いまして、西側の塔『アリノスコ』に皇帝陛下、東の塔『ロリ』に親王殿下と女帝候補であらせられる内親王殿下の皆様が
と、冗談はこれくらいにして。
東の塔ロリに居る女帝候補筆頭の内親王は、帝国臣民から『東宮様』や『皇太女殿下』と呼ばれ敬愛されている。『皇太女』の尊称は、日本語翻訳が捻り出した造語だ。
実際は次期女帝候補『ノジャ・ロリ・アリノスコ』と言うらしい。
皇居に招かれた俺は、身体検査と言う名のセクハラを受け、その後、西塔アリノスコに昇るため、皇城が分岐する地上約600mの中腹まで移動。移動は妖蟻族の建築技術と土を操るスキルで造られたエレベーターだった。
空港などに設置されている『動く歩道』ムービング・ウォークウェイと呼ばれる物も造れるのでは? そう思ってササミちゃんに聞いてみると――
「有りますが」
彼女はそう言って廊下の壁に手を触れ、今まで歩いていた廊下の床が動き出した。
クソう、「そんな画期的なアイデアを思い付くなんて!!」的な、尊敬の眼差しを向けられる事は無いようだ。
無念。「さすゴリ!!」と呼ばせたいのに。
動く歩道が有るなら最初から使えよと思ったが、これは皇族指定された者が主に使う移動手段で、それ以外の妖蟻族は『はしたない』行為だとして、皇城での使用は控えているとの事だった。
皇城以外では普通に使うらしいが、地上に繋がるあのクソ長い階段と地下道にはエスカレーターも動く歩道も設置されていない。
皇族指定された者と述べたが、妖蟻族は母親が必ず皇帝なので、ある意味妖蟻族は全員が皇族となる。
そこで、要らぬ混乱を防ぐため男は親王として皇族確定、女性は皇帝とその護衛、皇帝候補と護衛一人、皇帝候補の予備二名と護衛二名を皇族として先帝や今上帝が“指定”する。
よって、彼女達以外は皇族に非ず、と言う事だ。
これと同じ事が妖蜂族にも当て嵌まる。
皇帝を王に、親王を王子に、候補を王女候補にすれば、まったく同じシステムだ。
そう、同じシステム。つまり、妖蟻族の“トモエ”も居る。
皇帝の隣には、四六時中“最強妖蟻”が侍っているわけだ。
ヴェーダの知識にある妖蟻族の歴史から鑑みるに、最強妖蟻の実力は妖蜂のそれと互角、その力を総合力で数値化すると……
一千万を超える。
その数値は大森林中部のエリアボスに匹敵するようだ。
例を挙げれば、ジャキの長兄だな。中部北側のボスだと聞いた。
妖蟻と妖蜂の最強というのは、中部で頭張れる実力、そう言う事だ。
そして、彼女達は俺の天敵。
歴代の最強が所持したとされる先天スキル、コレが俺の命を
次代の主君を護る為に、両族が有する“最強”の力を、母親は彼女達に与えた。
その話をヴェーダから聞いた後、俺が思ったのは只一つ。
○○に刃物、だ。
平たく言えば“手に負えん”、これに尽きる。
カスガ女王は愛する妹に『マハトマ・ジャマダハル』という神の武器を与えた。
二本一対の武器を女王に贈った俺のミスだ。
そして、その事を皇帝は知っている……
「ナオキ王殿下、着きました」
「……そうか」
城の中を観察しながらゴチャゴチャ考えているうちに、エレベーターは最上階まで到着。
エレベーターの扉が開くと、そこには広大な…… 控室?
一万平米は軽く超えるほど広大な“一室”、輝く石英のテーブルや美しい装飾品が目を引く。ここは何の部屋かな?
ササミちゃんに聞いてみると、「ただの踊り場ですが」との答えが返って来た。
なるほど、階段付近に在る踊り場と同じ感覚ですか。
呆れてモノが言えねぇな……
この踊り場以下の空間に住んでいる眷属達が可哀そうになった。
ツバキ達もこんな感じで“ハイソ”な生活送ってたんだろうな、ウダツの上がらない男でゴメンなさい。
このクソデカい踊り場を設ける事が出来る理由としては、この最上階の床面積に秘密が有る。
外から見た感じでは、塔の東西問わず、その一番細いと思われる最上階の周長は、恐らくガンダーラより長い。
それだけこのアリノスコ=ロリが巨大だと言う事。
俺が“山”を連呼した理由だな。デカいんだよ、マジで。
無論、その山を中心に据えたこの地下帝国そのものが理解を超えた広さだ。
「こちらです」
「ああ」
ササミちゃんに先導されて、豪奢な踊り場を出る。
広く長い廊下、数え切れない扉と窓、目を休める暇も無い絵画や彫刻……
客を飽きさせないと言う点では満点に近いな。
しかし、客によっては見る物すべてが畏怖の対象、畏縮する事必至の“お宅訪問”、緊張をほぐす暇も場所も無い。
これから皇帝に謁見する俺はと言えば、特に緊張は無い。
ただ…… 早く帰りたい。そう思うだけだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「臣ササミ、ナオキ王殿下をお連れ致しました」
「入れ」
「御意」
「王殿下、参りましょう」
「ああ、行こうか」
アホかと思うほどデカく分厚い土の扉、その隙間から上級士官と思しき女性が顔を出し、俺達の入室を許可した。
謁見の間は、即ち皇帝の自室である。
妖蟻族も妖蜂族も、子を産むトップはその蟲腹の大きさから移動に制限が掛かる。制限と言えば聞こえは良いが、実際は身動きが取れないようだ。
妖蟻族は土を操るスキルで移動自体は
その、皇帝陛下の“自室”だが……
おかしいな、小川が見えるんだ。
あれれ、床も変だぞ~、草原かな?
あっち(約300m先)に居る人たち、ピクニック?
おっかしいなぁ、向こう(約200m先)に並んでる人達、軍事演習しているの? 二千人くらい居るね、おかしいね?
ヤベェ、何だよコイツら、物には限度が有るんだぜ?
何か小さな灰色の恐竜に乗った人達が、こちらへ向かっておりますが、騎士ですかね?
あ、火を吹きましたね、あの小さい恐竜、火を吹きました。
『地竜の一種、“フグリキャップ”です。火炎ブレスを得意としますが、貴方には脅威となりませんね。妖蟻族は騎乗用として飼っているようです』
へぇ、俺も欲しいなアレ。
おっと、騎士様が地竜から降りてこっちへ来た。
「お初にお目に掛かります、私はナナミ・ソウツウ・アリヅカ、以後、よしなに」
「御丁寧にどうも、“南浅部の王”、ナオキだ。宜しく」
「……フッ、では、参りましょう。陛下がお待ちしておられます」
そう言って、ナナミ嬢は踵を返し、颯爽と地竜に跨った。
困ったねぇ、鼻で笑われちまった。ハハハ。
ササミちゃんは申し訳なさそうに俺を見ている。
そんな顔は似合わないぜ、チュッ。
「んぁぅ……ぁ……」
おでこにピンクの弾丸を撃ち込まれたササミちゃん。
素晴らしバッテン娘と化してくれた。さぁ、行こうか。
ササミちゃんの背を押して、皇帝の許へ近付いていく。
近付く間に“お芝居”の脚本と演出を相方と打ち合わせだ。
万が一って事もあるからな。
口八丁手八丁、戦争回避の為なら何だってやるさ。
ヴェーダには、妖蟻族の歴史から面白い出来事をサーチしてもらう。
楽しい話が良いな。ハッピーエンドが望ましい。
『該当する事例を確認しました。楽しくはありませんが――』
よし、その台本見せてくれ……
……イケるねコレ。さて、続編のシナリオ考えようか。
即興は得意な方じゃないが――
芝居が終わって幕が下りた時、南浅部統一は成る。
って、芝居が始まれば、の話だが。
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