第33話「俺、何かやっちゃいました?」




 第三十三話『俺、何かやっちゃいました?』




「……スマンが、もう一度、言ってくれ」


「陛下に謁見する前に、お一人でかわやへ行く事は許可出来ません。行かれるならば、私と一個分隊が同行致します」


「……見ておく、と?」

「そう申しております」


「それが“大”の方でもか?」

「宜しければお拭き致しますが」


「そりゃどうも」



 何てこった……

 大爆発必至のバカ息子を折檻せっかんする事も出来んじゃないか。


 相変わらず卑猥なズボンを見せ付ける妖蟻族の皆さん。

 ボタンを掛け忘れた子が俺を見て微笑む。馬鹿にしてんの?


 その微笑に息子が反応『親父、やっちまうか?』やめろアホ。


 この体だけ立派な愚息をどうにか出来んものか……

 いや、出来る、やろうと思えば折檻出来る。

 美女と一緒にトイレなど、むしろ御褒美と言っても過言ではない。


 妖蟻族の俺に対する接待的な監視である事は明白だが、白髪褐色美女が六人も俺を監視、いや、姦視しつつ“お手伝い”の大サービス、その中で息子を叱りつけるなど、某国の某台東区に在る某吉原の某所で何万円払えば叶うロマンだろうか?


 ぐぬぬ、困った時のヴェダえもんだ。

 ヴェダえも~ん、助言を下さい。



『you やっちゃいなよ』


 その心は?


『妖蟻皇帝に、御子息が“ツバ”を吐き掛ける恐れがありますので』



 そ、それはヒドイ。

“吐いたツバ飲まんとけや”って言われそう。絶対飲まねぇ。

“ブッカケ”で喧嘩売る気合の入ったヤンキー見た事ねぇよ。


 これはもう、接待トイレ一択ですな。


 荒ぶる大魔王をさりげなく見る“鼻血ちゃん”こと『ササミ少佐』にトイレへ向かう事を告げる。コクンと頷く少佐。


 俺は六人の美女に囲まれて、楽園へ向かった。

 無論、俺が何をするのかは言っていない。


 それもまた、好い男が女性に贈るサプライズ、ってヤツさ。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「え、猿人族の“小”は、て、手間が、掛かる、ようですね」


「あぁ、“少しばかり”厄介でな。妖蟻族は違うのかい?」

「し、親王殿下の皆様は、他の魔族と同じ、かと」


「ソウダッタノカー、知らなかった。まぁ、“次回”も頼むよ」

「ッッ!! りょ、了解しました。そ、それが、任務、ですので」



 眠たそうな目をしたササミちゃんは、自分の右手を大切そうに左手で包み、顔を真っ赤にさせながら、そう言った。


 何故、彼女があんなに右手を大切そうに左手で包んでいるのか、俺には皆目見当がつかない。時々右手を鼻に近付けるのは癖なのだろうか?


 しかも、分隊の女性達は俺が居なくなってからトイレで何かをやっていた。


 顔を上気させ、息を荒げながら戻って来た彼女達を見れば、何をしていたのか一目瞭然。


 不審な点がないか検めていたのだろう、無駄な事を。


 俺は回復薬が入った革袋以外、危険物なんて所持していない。何らかの魔術を仕掛ける事さえ出来ない。警戒し過ぎ、とは言わんが。


 敵対する意思すら無いというのに、まったく、御苦労な事だ。


 大賢者となった俺には、どうでもいい事だな。


 そろそろ戻ろう、“俺達”の用は済んだ。



「ササミ少佐、付き合わせて悪かったね、戻ろうか」

「い、いいえ、お気になさらず……」


「君、右手を怪我しているのかい? この回復薬をあげよう」

「え? いや、これは、あっ、はい、どうも……あっ」



 さり気なく彼女の手を掴み、傷が無いか確かめ、手の甲にキスをして、乙女の綺麗な右手の無事を喜ぶ。



「良かった、こんなに小さな手に傷が有ったら俺は……おっと、失礼、勝手に触れてしまった、気分を悪くさせたね、申し訳ない」


「あっ…… いえ、あ、だいじょぶ、きぶん、わるく、ない、です」


「ハハッ、そうか、良かった。君には、嫌われたくないからね。今後とも宜しく、ササミ“ちゃん”」


「……ぅん、ょろしく」


 プシャァァァー……



 滝のように鼻血を噴き出すササミちゃん、俺は彼女を抱き締め体を反らせ、彼女の鼻の穴に手際よく回復薬を注入、革袋から布の手拭を出して血を拭き取り、手拭を華麗に仕舞う。


 3秒ジャストの華麗な治療。

 ササミちゃんを抱いたまま体勢を戻し、おでこにキス。

 ウインクを飛ばして彼女に一言。



「女が男に見せていい血は、シーツに付く“純潔”だけだぜ」


「ぁぅ、ぁ、ぅぁ、はぃ……」



 目をバッテン化させるササミちゃん。

 ここにもバッテン娘が居た。良かったな、メチャ。



『おめでとう御座います、堕ちました』



 おいおい相棒、堕ちるって何だよ、彼女は“昇る”んだぜ、大人の階段をな。


 カチンコチン娘に変身したササミちゃんを姫抱きして、俺は指定された待機所に戻る事にした。


 歩く俺の後ろから、五つの熱い視線を感じる。

 なるほど、俺を危険視しているわけか。

 その目は確かだ、彼女達は優秀と言える。


 俺の“大砲”は格納したが、“砲弾”は残っているからな。


 ヤレヤレだぜ。

 兵卒がここまで優秀だとはな、気を引き締めて行こう。



『賢者モードの時は、鈍感設定ですか?』



 何を言っているんだお前は?

 まったく、鈍感? 俺はいつでも敏感だ。

 高校の時は『ビンカーン大統領』と呼ばれていたほどにな。


 敏感だからこそ、鈍感で居られるのさ。



『なるほど、女性を弄ぶクズ行為ですね』



 違うね、こいつぁ…… 駆け引きだ。



『それには何か意味が? 女性の心を傷付けてまでする意味が?』



 ア、ハイ、無いですね。痛たたっアイタース!!

 股間を厳しい風に捻られた。申し訳御座いません。


 冗談が過ぎました、もうしません。

 いつも通り、全力で下半身に従います。あふん。


 俺は振り返って五人の乙女達に微笑んだ。

 はにかむ彼女達は、とても可愛らしかった。


 まったく、らしくねぇ事はするもんじゃねぇな。


 分かったか愚息よ。父と共に暴れようぞ。



『宜しい。では、反省を込めて後ろの方々ともう一度トイレに――』



 たはーっ、そいつは勘弁してください。理性がもちません。






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