第32話「ならばヨシッ!!」




 第三十二話『ならばヨシッ!!』




 マーキングした丘で鼻をヒクヒクと動かし、俺の傍でさり気なく匂いをスンスンする鼻血ちゃん。


 おやおや? ほっぺが赤いですぞ?


 何だろう、新しい何かに目覚めそう。ハァハァ。


 小首をかしげながら鼻血ちゃんは離れていった。

 も、もっと嗅いでも良いんだヨ? 下の方も良いんだヨ?



「では、ナオキ王“殿下”、こちらへ」



 ちぇっ、はいはい、殿下ですよ~。

 天下に『陛下』はただ一人ってやつですな。


 鼻血ちゃんが丘の地面に手を触れると、魔法や術のエフェクト無しに音も無く丘が割れ、地下帝国へと続く巨大なトンネルと階段が出現した。


 スゲェな、トンネルのデカさも階段の壮麗さも、そして最初の『開けゴマ』も。ちょっとオカシイです。



『あれは先天スキルです。妖蟻族は皆所持しています』

「……マジかよ」



 あんなもん、反則どころの話じゃねぇぞ?

 丘が“割れる”んですよ? それを全員出来る?

 う~ん、これは兵隊の数が云々うんぬんの話じゃないな。


 コイツら、ラヴが居るメハデヒ王国の町や村程度なら余裕で沈めるぞ……


 本日三度目の溜息を吐いて、俺は鼻血ちゃんの後を追った。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 地下に足を踏み入れて、先ず目に入ったのが歪み一つないツルツルの壁。


 軽く触れて、ちょっと押してみるがビクともしない。ガッチガチに固められた壁、どう見てもただの土に見えるそれを鑑定で分析すると――


【妖蟻族の唾液で強化された土壁。表面は靭性じんせい・剛性に富み、内部は延性に富む。モッコス硬度9】


 ――となっていた。モッコス硬度とは『非常に頑固な物質の硬度』と言う意味らしい。頑固な物質とは何だろうか?


 ちなみに、非常に硬い鉱石であるダイアマンズのモッコス硬度も9だそうです。


 俺が今見ている壁という壁が全てモッコス硬度9、馬鹿なの?



『先天スキルと妖蟻族の唾液による二重の措置がとられています。衝撃を逃がす内部の衝撃吸収処理と、それを覆う表面の強化処理。まず、地震等自然の脅威による崩落の危険性は無いでしょう』


「日本なら必須の技術だな」



 しかも、一定間隔で太い柱が据えてある。これは天上と地面を支える柱の差込口にワザと隙間を作って、柱が支える物体の衝撃を逃がすように設計してあるようだ。


 カルチャーショックを受けつつ直径が20m以上有るクソ長い地下道を進む。その中を照らす魔道具は一定間隔で壁に嵌め込まれている。


 魔道具ですよ? 南浅部の奴らを憤死させる気かな?

 そんな文明の利器なんぞ、浅部じゃ妖蜂族の城にしか無いのです。


 人間に建造物ぶんかを破壊されなかった妖蟻族は、ハッキリ言って地上の連中とは色んな意味で次元が違う。ミギカラ達は少し前まで竪穴式住居だったの知ってますか?


 注目する点はまだある、壁や柱に施されたレリーフだ。


 精巧、緻密、ヨーロッパの各所に在る彫刻にも決して劣るものではない。逆に、土の色を変化させて奥行を演出している妖蟻族の方が、一歩前に居るかもしれませんなぁ。


 何だかアレだな、縄文末期に生きる俺が、帝政ローマの住民に街を案内されている、そんな感じか?


 あれれ、目からしょっぺぇ水が流れてきやがったぜっ。


 地上との格差が有り過ぎます。


 東京という世界に冠する大都市を知る俺でも、この光景は“声を失う美しさ”だと素直に認めるね。


 さっきから、口が開きっぱなしなんだよ、驚きで。


 まだ地下帝国の玄関だってのに、いきなりこのインパクトだ、さらに、これが一番重要なんだが……


 履いてねぇんダヨ。


 いやいや、妖蜂族も履いてないヨ? ゴブリンもコボルトも、パンツみんな履いてない、そんな文化無いから。


 でも、隠すんだよ。普通に恥じらって隠す。


 妖蜂族はドレスで、他の眷属は腰巻からスカートに変えて隠した。

 そこには恥じらいが有る。ゴブリンの女性は積極的だが、やはり“見せ時”を心得ている。


 神秘の安売りはしないっ!!


 妖蟻族はアラビアンな装いだ、白いズボンの裾が絞ってあって、腰の帯は階級ごとに色が違うが、みんな太い帯をグルグル巻いてズボンを腰で留めている。


 蟲腹はそのズボンの臀部から出している。ズボンのケツが半分にパカッと開くようになっていて、蟲腹を外に出してボタンで留める。男性がトイレで小をするときのチャック半下ろし状態だな。


 で、問題はその蟲腹を出す縦に割れた穴だが、腰から股まで裂けていて、ボタンは腰と股の二か所のみ。


 何でだよ。


 もっとボタン増やそうぜ!! 頑張れよ!!

 お前らならもっと増やせるだろうがっ!!

 レリーフ彫ってんじゃねぇよ、ボタン量産せぇやぁぁぁ!!!!


 コラ君っ!! あっち向いてかがんじゃ駄目ですっ!!

 オイ貴様っ!! 正面の椅子に脚開いて座んな殺す気かっ!!


 ちょっと鼻血ちゃん、『ここに座ってお待ち下さい』じゃねぇよ、俺の正面に座ってるヤツ注意しろよ!! ボタン留め忘れてんだよ全開だよぉぉぉ!!!!


 あいたたたた、魔王痛い、いたたたた。バクハツすりゅ。


 お前ら魔王見てキョドってんじゃねぇよ!!

 頬を染めつつアクビするふりして見てんじゃねぇよ!!

 そんなヒマ無ぇんだよオメェらはっ!!


 ボタン作って来なさいよぉぉぉぉっ!!!!



『映像を保存しました』



 ならばヨシッ!!





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